作戦会議~戦場はただ勝利を決するだけの作業です~
女王がキャラ崩壊してしまった
「にゅふふふふふふふふふふふふ」
「あー、メディアさんや、普通に出来んのかあんたは?」
不気味な笑みを浮かべて俺の腕にしがみつく女王。思わずツッコミを入れてしまう。
「あー、メディアって私に取り付いてた魔女の名前でね。私の名前はエリザベス。リズって呼んでね」
「承知した。リズ」
「はわああああああ、素敵、私の王子様」
「おいおい、膝の上に座るとか、ネコかなんかか」
「にゅふう、ごろごろー」
しがみついて胸に頬ずりを始めやがった。本気でネコか・・
「あー、頼むから少し落ち着け」
「むう、分かりましたわ王子様」
「だから俺は王様だと・・・」
「うふふ、んじゃ、旦那様、ダーリン、どっちがいい?」
「好きにしてくれ・・・・」
「んじゃダーリンで」
なんだろう、なんか噛み合ってない気がするがとりあえず諦めた。
ロンディニウム城、会議室でメディ・・じゃないリズの幕僚から戦況の報告を受ける。
「モートン卿、戦況はどうなっている?」
「ハイランドの城塞を包囲している状況は変わりありませんが、後方に分派した軍が破られたことで、かなり士気が落ち込んでいるようです。戦力的にも本拠との連絡が途絶えた諸侯が離脱したり此方に寝返ったりしており、1割程度脱落してるようですね」
「ハイランドにはオークリー公以下8000が入っています。王都には2000ですが、周辺の治安維持などを考えると、この戦力は動かせませんねー」
「・・・・リズ、熱でもあるのか?」
「エレス陛下、もともとエリザベス様は聡明な方です。故に兄王子に疎まれ、暗殺されそうになったのです」
「ふむ。了解した。今後そのように扱おう」
「えー、けど私はダーリンのお側にいたいですー」
ああもう、一応国家の首脳部だよな、ここ。なにこの生暖かい目線は。
「リズ、その呼び方だが、人前ではやめてくれまいか?」
「えー、そう?仲良しアピールもできるしいいかなーって思ったんだけど」
「まあ、それは重要だ。だけどな、その呼び方は俺だけに独占させてくれないか?」
「ええ、そうなのね、他の人に嫉妬しちゃってるのね??にゅふふふふふふふふふ。
ダーリンかわいい・・・にゃははははははははは」
もういっそ殺せ・・なんかもう、砂糖を噛んだような表情がいたたまれない。
「リズ。君は俺の良き妻になってくれるんじゃいか?」
「それはもちろんよダーリン!」
「うん、だったら今のままだと、君は公私の区別をつけられないように見られてしまう。
俺は君がそんなふうに見られるのは耐えられないのだよ」
「うきゃああああああああ!ダーリン、私のことを考えてくれるのね!うれぴーーーー」
「人の妻となったからには、落ち着いた所作が求められるものだ。そんなところも魅力的に違いないが、どうかな?」
「ううう、わかりました。とりあえず猫かぶればいいんだよね?」
「そうだな、それで俺の前でだけそれを外してくれればいい」
「きゃーーー、私の全てを見たいって・・・ダーリンのえっちーーーー」
なんか一人で悶絶し始めたのでとりあえずほっとくことにした。
「陛下、ご苦労お察しいたします」
「モートン卿。なんとか軌道修正しようとしたが無駄だった」
「いえ、陛下の毅然とした態度にわれら一同感銘を受けました」
うそつけ、さっきからギギギとか爆発しろとかつぶやいてるのは誰だ・・
「さて、話を元に戻そう。ハミルトン公との和睦は可能か?」
「まず不可能でしょう」
「その理由は?」
「もともと王家に繋がる家柄なのですが、此度の王位継承の騒動でジョン王子を支援していたのですが、
一連の暗殺騒動で二人の子を失っています。エリザベス陛下を襲撃した際に返り討ちにあったというのが真相ですが」
「ただの逆恨みじゃねーか」
「身もふたもないけどそうなのよね-」
「ってリズ、戻ったか」
「うん。私操られてたけど、意識はあったのよ。でまあ、お兄様とはそりが合わなかったというより、本人がいろいろやらかして自滅って感じで」
「いろいろ・・・ね」
「3代前にヴィクトリア陛下って前例があったから、この国は女王でも能力があれば問題ないって事になってて、お兄様の立場は悪化する一方で」
「ふむふむ。それで焦ってさらにやらかしてって姿が目に浮かぶようだな」
「そうなのよねー。で焦ったのか王宮で襲撃されて、逃げ込んだ宝物庫であの本に触っちゃって・・」
「なるほど。理解した。いろいろと」
「うん、大変だったのよ」
「と言うかリズ。君はすごいな。あのグリモアの支配を一時的にとはいえ跳ね返すとか。並外れた精神力だ」
「そりゃ・・・ねえ」
「ん?なんかあったのか?」
「えーっと・・・だから・・・一目惚れだったのよ」
「すまん、話が繋がらん」
「理想の王子様が現れて、しかも操られてるとはいえ、私と結婚するって話が決まりかけてて。
けど、操られてたら私が王子様を殺しかけてるって・・・そりゃ頑張るわよ。旦那様のために」
「お、おう」
「ひどい、リアクション薄いー」
「よしわかった。俺の感謝の気持ちを行動に移そうか」
「え、そんな、まだ式も挙げてないのに?」
なんか勘違いしてクネクネし始めた。レイリアさんにハリセンもらっときゃよかった。
「まずは、君の安全を確保しよう。そうだな、ハミルトン公は暗愚な王子を操りこの国を乗っ取ろうとした悪党だ。女王の安全のために夫たるこの俺が悪党を討ち取ろう」
「すばらしいですわーーー」
また悶え始めた女王。なんか周りの視線の生暖かさがやるせない。
「さて、実務面の話をしようかモートン卿」
「はい、ハイランドの手勢を加えてもまだ正面兵力は不足しています」
「カイルの軍を合わせれば数は同等に持ち込めるが、まあそれは俺がなんとかする」
「何か方法が?」
「そこはすまんが俺の奥の手とだけ伝えおく。あと、俺はハイランドに入らずに南下する」
「それはどういうことで?」
「連携の訓練をしていない軍2つ。そこを突かれると戦術的に不利になる。ハミルトン公の耳目をまずハイランド城に集める。そこに俺とカイルの手勢で後詰するのが基本方針とする」
「ハミルトン公を惹きつける方法とは・・・?」
「あー、あたしがハイランド城に入れば解決ね」
「ん、そゆこった」
「いけません!女王の身に何かあったらどうするんですか!!?」
「ならんよ。うちの指揮官から防戦を得意とするのを一人貸し与える。ハイランドの備えをまず見なおそうか」
「し、しかし」
「モートン卿、貴方は私を守り通せないと?主君を守れぬ貴族になんの意味があるのですか?」
「うぐぐ、おっしゃるとおりです。我が命にかえてもお守りいたしますぞ!」
「えー、命なんかかけないで、さくっとやっちゃいましょ。モートン卿がいなくなると私困るし」
「ぬおおおお、なんというありがたいお言葉!」
「部下転がしがうまいな。見習いたいものだ」
「これからいくらでもお見せしますわ。うふふ」
「まあ、あれだ。今後ともよろしく頼む」
「ええ、こちらこそ」
「というわけでマルク子爵。おぬしの手勢で女王を守れ、あと城の備えを確認し守りを固めてくれ。後は参謀としての役割で、防戦の支援を行うのだ」
「なかなかに責任が重いですな。だがまあ、ラーハルトの生え抜きとして、その力を示してみせましょう」
「うむ、うまく行ったら加増するからよろしくな」
「はっ、身命に替えましても」
「いや、このようなところで死なれては困る。必ず生還せよ」
「かしこまりました!」
女王と俺は城門でひとときの別れを告げた。俺は手勢を率いて戦場を大きく迂回する。女王は前線の城に入り防戦の指揮を執る。カイルの参陣のタイミングがかなり大きく影響するな。
つーか、魔戦士団がうちの東方武士団に匹敵する戦闘能力があると考えるとなかなか楽には勝てないだろう。果てさて、どうなることやら。
ハミルトン公率いる反乱軍は女王が着陣したハイランド城を激しく攻め立てる。だが城兵も魔法兵を効率的に使い、射線をうまく確保して攻撃を寸断する。防戦の指揮官が変わったと感じさせる戦いぶりだった。
そして、反乱軍の退路と補給線を遮断する方向からエレス王率いる軍が現れる。反乱軍は城の包囲を解き野戦で決着をつけるため軍を移動させた。
次回 ハイランド会戦(仮
女王のぶっ壊れトークで、実際の戦闘シーンまで行かなかったのは内緒だ!