ベルファスト会戦~旋風のカイル再び~
一度刷り込まれた恐怖はなかなか拭い切れないのです
トラウマってそういうものだよね?
~~~Side:カイル~~~
領都をたった私たちは国境付近の陣を張り、動静を探っていた。ファフニル王国では大規模な内乱が起きており、貴族の半数以上が女王に対して反旗を翻す事態となっており、ウェストファリア王国として王女派を支援することとなった。うちの軍にバルデン軍が合流し陛下からの作戦指示書を持ってきた。アークリー砦を攻略せよと記されていた。
アークリーには3000の駐留軍がいるらしい。バルデン軍を先に出し、トゥールーズ軍は伏兵となって後方に備える。少数の兵を見て敵の指揮官が出撃したところでバルデン軍が後退し、敵を引きずり込んで伏兵で一気に仕留めた。うまい具合に城将を捕虜にできたので、解放を条件に砦を明け渡させることに成功。アークリーを拠点に国境沿いの小領主を討伐してゆく。
街道沿いに北上しベルファストまで3日の距離で、斥候がベルファストに1万前後の軍が駐留していることを報告してきた。これからどう進軍するにしてもベルファストを落とさないと補給が続かない。
私はベルファスト駐留軍との会戦を決意した。
~~~Side:エレス~~~
王都を発ちそのまま北上してゆく。プロヴァンス城で合流してきた一団があった。トモノリ、ナガマサが率いる東方武士団である。サムライは、カタナ、槍、弓と、攻撃魔法を修めた強力な戦闘集団である。というか、単騎で戦況を変える可能性があるような連中が500だ。今回は指揮系統の統一のため、トモノリを主将、ナガマサを副将としていた。
「殿、東方武士団、参陣いたしました。いかようにもお使いください」
「うん、助かる。実はカイルが敵の大部隊に引っかかって苦戦しているようだ」
「なるほど、ではそちらの援軍に向かえばよろしいか」
「そうだな、貴公らは一騎当千と聞いている。武功を期待しているぞ」
「御意、おまかせあれ!」
そうして威風堂々と彼らは出撃していった。
東方武士団を見送った後ファフニルの首都、ロンディニウムを目指す。
数度の小規模な戦闘はあったが鎧袖一触、足止めにすらならず、現地領主軍の兵力をいたずらに消耗するだけであった。
女王の本隊は首都にあり、王家と姻戚関係にあるオークリー公がハイランドの城塞を拠点に食い止めている。だが戦力的な劣勢は覆し難く、モートン卿も援軍を率いて転戦しているようだ。
3週間のち、ロンディニウムに到着した。親衛隊100だけを率いて入城し、王女と面会する。
「お初にお目にかかる。ウェストファリア王、エレスだ」
「この度は援軍感謝いたす。ファフニルのメディアじゃ」
「まず一戦して勝利を納めれば、連中も聞く耳を持つと思うがいかがか?」
「さすが英雄王は覇気が違うの。前線のオークリーには貴殿の指揮下に入るよう申し伝えおこう」
「承知した。別働隊がベルファストで対陣している。そちらに動きがあれば敵はいったん退くだろうから、そこに追撃をかける」
「ふふふ、頼もしいのう。妾の夫にふさわしい武勇と知略を示していただくよう、楽しみにしておる」
話は終わったと思い、踵を返した瞬間、後方で強大な魔力が膨れ上がった。
とっさに横に飛び飛来した魔力弾を躱す。
「これはいかなる仕儀か?」
どこかで見た黒い魔力が膨れ上がってゆく。女王の手には黒いグリモアがあった。
「っち、なんてことだ。やはりこれが元凶か」
衛兵が現れる気配もない。魔力で結界が張られその外部への情報が遮断されている。
愛用の帯剣は謁見の際に預けており、ブーツに仕込んだスローイングダガーが4本とイリスにもらったアゾット剣だけだ。ひとまず短剣を構え女王と対峙すると凄まじい勢いで飛んで来る弾幕を弾き、躱す。だが攻撃の密度が俺の防御を飽和して突破し、爆風に吹き飛ばされた。
~~~Side:カイル~~~
ベルファストの市街を見下ろす小高い丘にレックス卿と相談のうえ、野戦築城を行った。もともと商業都市であるから物資は豊富だが、1万もの軍を長期間支えられるものではない。どちらにせよ短期決戦をする必要があるのは同じだった。
さて、今回の陣だが、あえてトゥールーズとバルデンで、2つの砦を構築した。兵力の分散に繋がる可能性もあるが、バルデン軍は騎兵主体で機動戦に長ける。後方の街道を確保する形で砦を作り、自由自在に出撃して撹乱する戦術を採用した。トゥールーズは重装兵と、魔法兵を多数配備し防衛主体の戦術に力を発揮する。
敵軍はトゥールーズ砦を攻囲するが、固い守りを崩せずバルデン黒騎士団の撹乱を受け、地味に出血を強いられていた。だが、一気に全軍が崩壊するような致命的な打撃は両軍与えることができず、半月ほど、同じような攻防を繰り返していた。
戦況が変わったのはこの辺りではあまり目にしない軍装に身を包んだ集団が現れてからである。
その500ほどの部隊はウェストファリアの旗を掲げ、平原のど真ん中に堂々と布陣した。
どっかの貴族が率いる小部隊がわーと突撃していって、魔法弾と弓の斉射で接触すらできないまま壊滅した。その恐るべき精度にファフニル軍が慄いたとき、それはやってきた。
「わははははははははははははははははははははははぁ!!」
重装歩兵の一団が巨大な戦斧を振り回す騎士に率いられ、一気に切り込んできたのである。
「やつだ、奴が来る!プロヴァンスの悪夢だ!?」
どうもあの時の私の哄笑がトラウマになっている兵がいるようだ。だが、今前線で戦っているのは師匠のマッセナで私ではない。というか、あのバーサーカーぶりは師匠譲りであったりする。
おお、すさまじい突撃だ。ぽっかりと敵の陣列に穴が空き、そこに突撃部隊が食らいつき傷を広げる。そこに援軍の東方武士団が鬨を上げて突っ込んだ。
あまりに異質な部隊による攻撃を受け、恐慌状態に陥っている敵軍にとどめを刺すべく。私も戦斧を構える。
「続け!奴らを血祭りにあげろ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「うわはははははははははははははははははははははははははは!」
「ひいいいいいいいいlもう一人あんなのが来るとか、無理、勝てねええ」
「ぐわははははははははははははははははははははははははははははは」
「ぬわはははははははははははははははははははははははははははははは」
哄笑を上げ巨大な戦斧を振り回す狂戦士にファフニル軍は戦意を根こそぎへし折られた。士気を失い陣列も何もない状態で軍が崩壊してゆく。そして黒騎士団の突撃で本陣を突かれ、指揮系統が完全に崩壊した。総崩れの敵軍をある程度追撃し、ベルファストの開城を持って軍を収めた。
王国南西部の要衝ベルファスト陥落で、ファフニル全土に衝撃が走った。ウェストファリア軍は女王に付くことを宣言しており、ハミルトン公の軍からは、日和見貴族たちが離脱を始めているとの知らせが届いている。これより、ファフニルの混迷はさらに深まっていくことが予想された。
ベルファストでの勝利の報はファフニルを駆け巡った。そんな最中、ロンディニウムでは
ファフニルとウェストファリアの軍が睨みあいを続ける。双方の王が王宮で戦闘を繰り広げているが、結界に阻まれ近づくことができない。
そして謁見の間付近で、すさまじい爆発音が響いた
次回、裏切りの女王の真実
上記の煽りはいつフィクションになっても不思議ではありません。
作者の気まぐれで、別の話が滑りこむ場合があります