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 翌日の昼、クルフェはフォクテムの屋敷へと向かった。朝のうちにお会いしたいという旨の返事を送ったところ、昼頃に来て欲しいと折り返し連絡が届いたためだ。暑い日ざしが照る街道を歩みつつ、深いため息が漏れる。昨日カティンに言われた言葉は今も深くクルフェの心に突き刺さっていた。それも、グッサリと。


「(やはり・・・シーアは私のことを少しも異性として見ては下さらないのか・・・)」


 いくら院長としての仕事が忙しくともクルフェはもう『お年頃』も過ぎようとしているところ、決して異性に心を惹かれないわけではない。ただ、その相手は中々にどころかかなり手ごわい。男性に興味が無いだけでなく、本人が自分が女性であるという事実を認めようとしないのだ。そんな自分の師匠のことをクルフェは誰よりも好いているのだが。


「(まあ、嫌われていないだけましか・・・)」


 先程笑顔で見送ってくれたカティンを思い出し、クルフェは再び深くため息をついた。きっと本当に何とも思っていないのだろう。カティンにとってクルフェは弟子でしかないのだろうから。


「ここか・・・」


 広い街道の中央付近に立てられた立派な屋敷の前でクルフェは足を止めた。気が重いと感じつつも呼び鈴を鳴らす。すると、中から案内の女性が現れ、クルフェを屋敷の中へと誘った。無言でその後ろに付き従い、屋敷の中を進むと、女性はある一つの部屋で足を止めた。


「こちらがお嬢様のお部屋でございます。では・・・」


 そのまま立ち去っていく女性の背中に慌ててクルフェは声を掛けた。


「ま、待ってください。フォクテム殿は」

「旦那様は先程お出かけになられました。夜中までお帰りになられないということです。クルフェ様がいらしたならばお嬢様の元へ案内するよう言い付かりました。」


 そう言い残して立ち去っていく女性を呆然と見つめ、クルフェはその場に立ち尽くした。


「(弱ったな・・・)」


 信頼してくれているようだが、いくらなんでも一人娘の部屋に異性を上がらせるだろうか。流石に好意に甘えて会わせて貰うのも気がひけるため、クルフェはきびすを返し、屋敷を立ち去ろうとした。その時、部屋の扉が開くような音が背後から聞こえた。


「どなたか、いらっしゃいますか・・・?」


 鈴の音のように澄んだ声に惹かれるように振り向き、クルフェは驚きに目を見開く。


「(シーア・・・!?)」


 目の前に現れたのは薄い桃色の髪と若草色の瞳を持つ少女であった。クルフェの想い人とは瞳も髪の色も全く異なるというのに、その少女は彼女ととても良く似た面立ちをしていた。それも、普段男性に混じって本当の男性のように振舞っている姿ではなく、滅多なことでは見ることができない、柔らかく儚げな姿で少女は佇んでいる。驚きに言葉も出ないクルフェに少女はふんわりと微笑んだ。それは最も馴染みのある表情であった。


「クルフェさん・・・ですね?初めまして、私、シルディーと申します。会いに来てくださって光栄です。」


 シルディーは嬉しそうにクルフェを見上げる。


「こちらこそ・・・お招きに預かり、光栄に存じます。」


 動揺を抑えてクルフェは頭を下げる。それに返すように礼を返し、シルディーは微笑をたたえたままクルフェを部屋へと招いた。


「折角いらしたのですから、是非お茶を召し上がっていって下さい。今用意しますから。」


 湯を取ってきますねと優雅な足取りでその場を立去って行ったシルディーをクルフェは見送り、ポツリと呟いた。


「参ったな・・・」


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