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第3話 気性難(ヤンデレ)一号、美嘉

甘井あまい 美嘉みか、JK2の17歳でえ~っす。あ、そこのオジサン、今から時間取れる~? 美嘉とホテル行かなぁい?」


(な、なんだコイツ)


 俺の目の前(正確には、俺が組み込まれた制御コアが格納された箱型のラックの前でだが)でポーズを取る、ブレザー制服姿の少女。

 金髪のミディアムボブで緑の瞳。やや濃い色の肌は複雑な出自を感じさせる……のだが、下着が見えそうなほど短くされた白いスカートに、ふわっとしたルーズソックスがその印象を強烈に上書きする。

 人好きのしそうな緩い笑みを浮かべ、俺の整備主任(既婚者)に声を掛けている。

 ていうかホテル? まさかパパ活か?


「え~っ? それじゃオムライス食べにいこっ! オムライス代プラス3千円でいいよ?」


 美嘉は整備主任に食い下がるが、すげなく断られている。

 整備主任は愛妻家で有名だからな。がきんちょがどれだけ誘惑しても無駄だろう。


「ちぇっ。もういい」


 ぶりっこしていた美嘉は、すっと真顔になると俺の方に向き直る。


「……んで、この弁当箱みたいなのが、カグツチちゃんの制御こあ?ってやつなのハカセ?」


「あ、ああ。そうだ。我が研究センターの粋を尽くした絶大なる計算能力を持つ……」


「あっそこのお兄さん、美嘉とホテル行かな~い?」


 説明を始めた博士をスルーして、別の整備員に声をかける美嘉。


『ちょっと博士! こんなのがパイロット候補なんて、俺のこと馬鹿にしてます!?』


 思わず博士と、秘匿テキスト通信を繋ぐ。


『い、いや! オムニゲート機関の逆位相を発生させる為には、ある程度変質した精神の持ち主が必要なんだ。美嘉君は数々の選抜試験を突破した……』


『それにしたって、限度があるでしょうがああああっ!』


 なぜ博士が脳みそふわふわパパ活女をパイロット候補として連れて来たのか。

 話は数日前にさかのぼる。



 ***  ***


「オムニゲート機関を応用した攻撃?」


 対機械生命体決戦兵器、カグツチ弐型の生体制御コアになることを了承した俺は、いつもの仮想空間で

 摩弩満里奈博士と今後の方針を確認していた。


「ああ。先日の座学でも説明したが、ワタシの開発したオムニゲート機関はヒトの防衛本能を利用して防壁を展開できるんだ」


 ヴンッ……バシュッ!


 仮想空間に映し出されたのは、敵である機械生命体、仮称プローバーの艦艇が放つビームを上空に展開した八角形の光の盾が弾く光景。


 その隣には日本地図が投影されている。この研究センターが立地する兵庫県と臨時首都となり皇居が移設された京都府、滋賀県と福井県……そして岐阜県と長野県が青く光っていて、

 この範囲がオムニゲート機関とやらが生み出す『盾』で守られている地域らしい。


「日本国民4千万の防衛本能を媒体にして発現する防壁はまさに鉄壁なのだが、こちらからの攻撃方法がなくてねぇ」


 博士が右手を振り、映像が切り替わる。

 高高度成層圏まで降りて来た葉巻型の敵艦艇?にミサイルや砲撃等ありとあらゆる攻撃が仕掛けられるが、その全てが敵艦艇に弾かれている。

 よく見ると、攻撃は敵艦艇の表面まで届いていない。


「位相装甲……一種の空間防壁さ」


 ……なんか物凄くSFっぽい用語が出て来た(今さらだが)。例えば、艦の周囲に亜空間防壁を展開しているとか。

 昔読んだSF小説の設定を思い出す。


「そこまでチートではなく、空間湾曲で熱と衝撃を分散するメカニズムだと推測されているがね。ともかく、我々の所有する通常兵器では奴らの装甲を抜くことはできない……陽電子砲でもあればいいんだが、まだ基礎研究中さ」


 陽電子砲……ヤ○トなどで出てくるアレである。人類はたった二年でSFの世界に足を踏み入れたらしい。


「だが天才なワタシは! 画期的な案を思いついたんだ!」


 ようやく話が核心に近づいたらしい。突如テンションマックスになった博士は両手を大きく広げ、くるくると回りだす。

 頬は紅潮し、赤銅色の瞳は大きく見開かれている。童顔で背が低い博士がその動きをすると、ちょっと微笑ましい。


「オムニゲート機関の逆位相……つまり防壁の反転を発生させれば、敵の空間防壁を物理的にねじ切ることが出来る! それには、防衛本能ではなく他者を妬み、攻撃する黒い感情が必要なのだ!!」


 びしり。

 博士がぷにっとした人差し指をこちらに突き付ける。


「つまり、とびっきりの気性難ヤンデレ女が君のパイロットに最適というワケさ!」


「いや、もうちょっとやりようはありますよね!?!?」


 ぺしっ


 思わず俺は、博士の仮想体にチョップをくらわすのだった。


 ***  ***


 そんなこんなで日本中に応募が掛けられ、えりすぐられた気性難ヤンデレ女第一号が甘井美嘉というワケだ。


「え、いや……俺あんなのを乗せて飛ぶの?」


 研究センター内の男に声を掛けまくる脳みそふわふわ女。

 決戦兵器のパイロットがパパ活しているなんて設定、聞いたことがない。


「ああ、心配しなくてもいい。彼女が担当するのはオムニゲート機関の逆位相の発動と火器管制だけ。カグツチ弐型の操縦は、君が行ってくれ。弐型のコックピットに君の子機を設置してある」


「そ、それは了解ですけど」


 カグツチ弐型壱号機の操縦訓練は、パイロットを乗せない状態で何度も行っている。

 子機との通信を確立させることで、俺は壱号機を自分の手足のように動かせる。


「まぁ、訓練期間の都合もあるのだがね」


 人類史上初のヒト型兵器。その操縦法はいまだ発展途上中で、ただの女子高生に操縦法を1から教える余裕は今の人類にはない……というのが博士の方針だ。


「ていうか、戦闘機パイロットとかを再訓練すればいいんじゃ……」


「ちっちっち、先日も言っただろう? オムニゲート機関の逆位相発動には、気性難ヤンデレ女が最適なんだ。君には彼女のメンタルケアも頼みたい。できれば不安定さを残しつつ、仲良くなって依存させるんだ」


「…………え?」


 とんでもないことを言ったぞこのマッドサイエンティスト。

 俺の反論は上位権限で封じられ、俺は美嘉と壱号機を使ってマンツーマン訓練をすることになってしまった。


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