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第20話 俺と莉乃のサイバーデート

「こんばんは……もといおはようございます優史さん」


 俺に休息の暇はない。

 美嘉を寮に送り届けた後、莉乃謹製の仮想空間で俺は彼女と対面していた。

 休日の莉乃は昼夜逆転生活なので、こういう事も可能になる。


 さっきまでしっとりしていたくせに、すぐに別の女か。

 こう言われても仕方がないが、これは大事なパイロットのメンタルケアである。頼む信じて。


「先ほどログを確認したのですが……昼間はあのパパ活ビッチと出かけていましたね?」


(ぐおぉ!?)


 いきなり強烈なキラーパスが飛んで来た。


「優史さんの子端末のロケーションが市内に移動していましたから、そう考えた次第です」


(なん……だと?)


 人類の剣たるカグツチ弐型、その制御コアである俺の情報は国家級のトップシークレットであり、パイロットの一人とはいえ莉乃の持つセキュリティレベルでは移動ログすら追う事は出来ない……博士はそう言ってた気がしたのだが。


「ふふふ、私を誰だと思っています? 優史さんのことはすべてお見通しですよ?」


 眼鏡をキラリと光らせ、微笑む莉乃。

 あどけなさを残す笑顔だが、普通に怖い。俺が甘い言葉で美嘉のメンタルケアを行っていたこともバレているのだろうか。

 思わず仮想体の背中に冷や汗をかく。


「あ、大丈夫です。さすがの私でも会話ログを見ることはできませんし、美嘉さんのプライベートですからね」


 美嘉のフェイクエロ画像生成の最大手が何を言っているんだと突っ込みたくなるが、我慢する。

 莉乃が生成する画像には(薄く)目線が入っているので、さすがに彼女も同僚に対しては(少し)わきまえているようだ。


「それにしても……本体がここにあり、優史さんという人格がいることを知らずにあのマシュマロ女は人形遊びに興じて……滑稽ですね♪」


 ……ウソでした。ただのマウント合戦でした。

 莉乃もまた、俺の人格と会話できるのは自分だけだと思っている。同僚に対する精神的優位性……そこを確保してあげるのがメンタルケア上大事であり、それを互いに悟らせないようにするのもプロデューサーもとい制御コアである俺の腕の見せ所である……超過勤務手当欲しい。


「大変な戦いだったからな。精神的なケアはちゃんとしないと」


「まあそうですね。美嘉さんはビッチ陽キャで世間知らずですから、そういう事も必要でしょう」


 私は違いますけど。

 そんな顔をして、ふふんと鼻を鳴らす莉乃。

 違うぞ莉乃、美嘉は思ったよりも苦労していて独占欲強くて実はSだ。

 ……だが、莉乃が戦いを平気だったかと言うと、それも少し違う。

 俺は声色を調整し、しっとりと語りかける。


「それは君もだろう? 莉乃」


「……え?」


 余裕を見せていた莉乃の表情が、少しだけ揺れる。


「莉乃が人類で初めて、奴らの艦艇に肉薄したんだ。怖くなかったはずがない」


 パイルバンカーを持つ莉乃の弐号機は、敵のフリゲート級に近接攻撃を仕掛けた。

 機体出力の関係で、パイルバンカーで攻撃する際には一瞬オムニゲート防壁をカットする必要がある。

 敵は深手を負っていたもののそのタイミングで反撃されたら……莉乃もそう考えたのだろう。火器管制パネルに触れた彼女の指は、僅かに震えていた。


「気付かれていましたか」


「莉乃のことだからな。まあ、奴が攻撃してきても全部かわすつもりだったが」


「ふふっ、やはり優史さんは頼りになりますね。私の王子様」


 ふわっ


 俺の仮想体に抱き付いてくる莉乃の仮想体。少しだけ感触があり、ささやかな甘い香りも。

 実体の一割ほどだが、感覚に対応している莉乃が準備した仮想空間。

 俺と彼女の秘密の一つだ。


「それじゃ行こうか。サイバーデートに」


「はいっ♪」


 時刻は午後9時を回っているが、彼女は今からがアクティブタイムである。

 そして俺に休む暇はないのだ。



 ***  ***


「ここが私のオススメ。政府のネット検閲botを搔い潜って設置された、秘密のなんでも投稿サイトです」


「おおぅ」


 莉乃とのサイバーデートは、国内最大手のSNSや、技術系のフォーラムを巡る事から始まった。

 戦時体制とはいえ、ネットは全国民に開放されておりSNSでは若者が映え写真を載せたり、交流を楽しんでいる様子が溢れている。

 アイドル活動をするチームなどもあり、昔のことを思い出す。


「みんな、”表”ではオムニゲート防壁がもたらしてくれた【安全】を謳歌しているのですが」


 そう、大手のSNSだけ見ていると、みんな楽しく生活しているように見受けられる。美嘉と昼間に過ごした、アーケード街の様子を思い出す。


「でも、ここでは」


 莉乃が選択したのは、とある動画。

 かなりノイズが入っており、隠し撮りされたものらしい。


「政府の中枢がある、京都府や兵庫県はずいぶんとマシなのですが、”最前線”である長野県では……」


 配給に並ぶ、地下都市の住人。

 皆一様に緊張した面持ちで、列に並んでいる。


『今日はここで終わりだ……次回は……なお』


 機動隊のような装備を身に着けた男性が、拡声器で居並ぶ住人に声をかけ、そのまま車で走り去ってしまう。


『そんな! 三時間も並んだのに!!』

『政府は、避難民を見捨てるのか!』


 怒号が巻き起こる。配給を受けられた人に襲い掛かり、食料を奪う者もいる。

 そのうち、武装した警察がやって来て……。


「長野県では放棄された近隣県から生き残りが来ることもあります。かくいう私も、曰く付きの児童福祉施設出身でしたので、ここにぶち込まれたわけですが」


「…………」


 山がちな日本では耕作可能な土地には限りがあり、漁業をしようにも海に出るとプローバーの攻撃の危険がある。

 政府が喧伝するほど、食糧事情に余裕はないのだろう。


「まあ、私はあそこから抜け出せましたので。あの人らを助けろ、などど博愛主義を語るつもりはありません」


 莉乃は動画を閉じると、投稿サイト内の情報からめぼしいものを拾っていく。

 高く売れそうなもの、博士との”交渉材料”になりそうなものを集めていると、莉乃は語っていた。


「私と王子様である優史さんが幸せに過ごすための資金は、いくらあっても構いませんからね♪ 優史さんも、今は大事にされていますが状況が変われば上の連中が何をするか……”武器”を揃えておくのも大事ですよ?」


「そうだな、ありがとう」


 ……とはいえ、俺の生死与奪は博士に握られている。

 取引のために機密情報を持っていても、無駄になる気もするが。


(ああでも)


 博士のくまくま寝ぼけ動画や、白衣にクリーニングのタグが付いていた動画は交渉材料になるだろうか。

 むしろ、スパダリムーブで懐柔しておくとか……。


「俺も色々考えてみる」


「はいっ♪」


 頬を染め、にっこりとほほ笑む莉乃。

 こうしていると、可愛いんだけどなぁ。


「……おっと、カグツチ弐型に対する悪口発見。動きに無駄が多い?制御AIがポンコツなんじゃないの……万死に値しますね」


 すっ、と眼鏡の奥の瞳からハイライトが消え、コンソールを空中に投影した莉乃の両手がせわしなく動く。


「こいつは警視庁ネット保安局に通報、っと。おまけで収賄容疑も付けておきましょう」


「……おい」


 速攻で投稿者のスマホ機器番号を洗い出すと、保安局に住所付きで通報してしまった。


「これでよし。また一つネットが綺麗になりましたね♪」


(アングラ極まりないここで言う!?)


「あ、そういえば。優史さんの裏垢を見つけましたよ?」


「ええっ!?」


 ちょっと引いていたら、莉乃がとんでもないことを言い出した。


「大丈夫です。もちろん中は見ていませんよ? 私は優史さんのプライベートを大事にしますから。でも……義体を手に入れ、王子様になっていただいた暁には。私たちの子供と一緒に、パパの黒歴史を見るのがいいかもしれませんね」


(どーーーん!?)


 あの裏垢には、真彩の成長記録と、真彩可愛いとしか書いていない。

 俺は密かに、裏垢の内容を変えておこうと心に決めるのだった。


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