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第19話 俺と美嘉の(ご機嫌取り)デート

「とゆーことで♪ 今日は一日美嘉に付き合ってねぇ~」


『わかったわかった。何でもするよ』


 1時間後、ようやく彼女の責めから解放された俺は、美嘉のスマホに仮想体を移し休日デートに繰り出していた。

 美嘉は学園の中間服であるベスト型の制服に着替え、薄めの色眼鏡を掛けている。髪型もポニーテールにしているのでぱっと見は有名人(※人類の救世主)とは分からないだろう。


「にひ~、休日の制服デートって最高じゃろ?」


『ちょっとわかる』


 俺の学生時代は、生活費の為にバイトに明け暮れていたし……高卒で就職した後は同世代とはいえ少々癖のある地下アイドルたちをプロデュースする生活。

 こういう真っ当なアオハルデートには少し未練があった。

 ……仮想体になって、パイロットのスマホに入れられた状態というのは中々にトリッキーだが。


「ていうか、さっきはごめんね優っち、ウチちょ~っとやりすぎてたかも?」


『いや、大丈夫だよ』


 美少女JKの圧力(物理)を感じながら、窒息もとい電源瞬断プレーなんて、レベルが高すぎる。ログを見た博士が、素晴らしいヤンデレシフトだ!ぜひまたやってくれたまえ!などとのたまっていたが二度とごめんだ。


『つーか、美嘉。ちょっと楽しんでたろ?』


 あまあまSっ気パパ活JKなんて、属性が渋滞しすぎである。

 刺さる層には刺さるのかもしれないが、俺にはそういう趣味はない……ハズ。


「あはは、バレとった? まずはカラオケいこ~、カラオケ!」


 ワイヤレスイヤホンを付け、俺と会話する美嘉はゴキゲンだ。

 軽くスキップを踏みながら、但馬直轄市の中心街……数年前まで兵庫県豊岡市と呼ばれていた街のアーケードを歩いていく。


(それにしても……)


 よく考えれば、目覚めてから街中に外出するのは初めてだ。


(人が多いなぁ)


 土曜日とはいえ、午前中からアーケードにはたくさんの人が繰り出していた。

 肉屋や魚や、スーパーなどには食品が溢れており、キラキラとしたブティックや沢山の本が並んだ本屋さんの様子を見ていると、ほんの1年前まで人類が存亡の危機に陥っていた事が信じられない。


(もっとも)


 アーケードに設置されたデジタルサイネージには【最寄りのシェルターを常に確認しておきましょう。対プローバー警報アプリのインストールは、法律で義務付けられています】の文字が踊り、俺が所属する研究センターの上位組織である戦略自衛隊の募集CMがひっきりなしに流れる。

 防災キットとおぼしき小袋を腰に下げている人も多い。


「優っち~、クレープ食べたい!」


 美嘉が指さした先にあるのは、オシャレなクレープ屋。

 幟には『淡路産特製クリーム使用!』の文字が躍る。数年前ならこの文字は『北海道産』だったはずだが、プローバーの攻撃により北日本は放棄されているのだ。


『昼飯もあるから、食べすぎるんじゃないぞ?』


 普段は使う用途の無い俺の電子口座から、美嘉にお小遣いを送金する。


「は~いっ♪」


 どこか緊張感の漂う、街中の平和。

 俺はそのことを改めて実感していた。



 ***  ***


「はぁ~、歌った歌った~♪」


 上機嫌で大きく伸びをする美嘉。

 海の見えるカフェで昼食を採った後、駅前のカラオケボックスで耐久カラオケ。

 彼女もすっかりリフレッシュできたようだ。


「にし、優っちはでんのーたいのクセに意外に歌下手だよね?」


『ほっといてくれ』


 幾ら仮想体が最適化されていても、脳に宿った精神は俺本人である。

 いつか妹の真彩に言われたことと同じ言葉が、美嘉の口から放たれる。


「またらいしゅーからガッコと訓練か~」


 既に夕日が周囲を照らしている。俺たちは研究センターの寮に帰るため、足早にアーケード街に向かっていた。


『……ん?』


 アーケード街に足を踏み入れると、昼間とは全く雰囲気が違っていることに気付く。


 ざわざわ


 クレープ屋やスーパーなどの店はすでに閉まっており(これは節電対策という面もありそうだ)、そのかわりに路地裏に照度を落としたLEDが付いている。


 人通りは相変わらずそこそこだが、家族連れの姿はなく、大半が若い女性と男性……それに中年男女の姿も目立つ。

 彼ら彼女らはふっと手を繋ぎ、路地裏のLEDネオンの奥に消えていく。


「……ん~、まあみんな、寂しいんだよね」


 ぽつりと零れた、美嘉の言葉。


『…………』


 二年前から始まったプローバーの攻撃で、肉親や恋人を喪った人も多い。

 民間人の被害は激減しているとはいえ、軍人はそうはいかない。

 分断された世界各地との連絡は各国の軍隊が担っており、移動中に衛星軌道からプローバーの攻撃を受けることもしばしばだそうだ。


『美嘉、お前は俺が守るから。二人の力で……みんなに本当の笑顔を取り戻そう』


「うんっ」


 きゅっ


 スマホを持つ美嘉の右手に力がこもる。

 研究センターの寮に戻るまで、俺たちはしばし無言になった。


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