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第15話 ついに炸裂した銀(※ヤンデレ)の弾丸

 ゴゴゴゴゴゴゴッ


「熱核バーストタービンエンジン、一番二番とも問題なし。現在高度5万m、防壁面を突破」


 ズズンッ


 僅かに機体が揺れるが、全く問題ない。

 飛び立ってから数十秒で、二機のカグツチ弐型は高度50㎞を突破していた。


『敵フリゲート級は降下速度を落としたようだねぇ。接敵までの時間を5分35秒に修正』


「了解です。推進剤への点火タイミングを修正します」


 博士と指令室のオペレーターから送られる情報を、メインの制御コアで解析してエンジンの推力を調整する。

 カグツチ弐型に装備された熱核バーストエンジンは、対流圏内なら空気を推進剤代わりに使える為無限に近い航続距離を持つが、宇宙区間ではそうはいかない。


 敵艦までの距離は445㎞。あと1分でカグツチ弐型に搭載された、小型オムニゲートレーダーの探知範囲に入る。


「やっぱ先制攻撃するか……美嘉?」


 俺は、遠距離攻撃武装を装備した壱号機に秘匿通信を繋いだ。


「うい~っ、優っち!」


 すぐに彼女から応答があった。


「空がきれ~! 全然揺れないし、さすが優っちだよね♪」


 上機嫌で両脚をパタパタする美嘉。

 それどころか、胸元のタイを緩め、シャツのボタンをいくつか外す美嘉。

 そのせいで、ムチムチとした胸の谷間が見えてしまった。壱号機のコックピットに取り付けた記録用カメラに映ってしまうかも知れない。


「ふっふ~ん、大丈夫だし!」


 何が大丈夫なのか、にやりと笑みを浮かべる美嘉。


「にごーきの莉乃はちんちくりんじゃん? ぜったい美嘉のいちごー機ちゃんのほうがさいせー回数爆アガリだからぁ、こっちにパパ希望者が殺到するワケよ」


「ほ、ほう」


 ぱしゃり


 すらりとした両脚を組み、スマホで自撮りをする美嘉。その弾みで、左足に引っかけていたローファーがことりと床に落ちた。


「だけどぉ、美嘉の”パパ”は優っちだけだから、美嘉はそのリクエストをぜぇ~んぶ断って♪ テキちゃんをぶっ飛ばした後に実体化した優っちを~、世界中に自慢するんだぁ!」


(……ぐえっ!?)


 あまあまふわふわな美嘉だが、独占欲は人一倍強い。

 俺を使って、マウントを取りまくるつもりだろう。


「もしかしたら、あの陰キャオタクも優っちに惚れるかもしれんけどぉ、昔からラブラブな美嘉たちには全然及ばんってワケ。ぷぷぷ、かわいそぉ」


 美嘉は俺の人格と会話できるのが、自分だけだと思っている。

 莉乃機に通信を繋ぎ、おいっす~スタンプを送りまくる。


(で、出た! 女子のマウント合戦!!)


 どうしても、同じ目的を持った女の子のチーム内で発生してしまう現象である。

 外部に目的を同じくした敵(=ライバル)でもいればまだマシなのだが、残念ながら俺たちは今の所人類唯一の希望である。


「と、という事で絶好調の美嘉に頼みたいんだが。

カノン砲の超長距離狙撃を試してみたい」


 頭痛の種は尽きないが、とりあえず本題に入ることにする。

 俺は弐号機を前に出し、壱号機をその右下方に遷移させる。

 狙撃準備中に敵から攻撃された場合、弐号機の防壁で壱号機を守るためだ。


「おっけ! カノンちゃんでしょ? 任せろし!」


 訓練通り、壱号機の火器管制アプリを立ち上げる美嘉。

 メインモニターが超望遠モードとなり、こちらに向かってくる葉巻型の敵フリゲート級の艦影を捉える。


 ぱちんっ


 同時に、両側から伸びて来たハーネスが美嘉の両肩を掴み、ティアラ型のオムニスキャナーが彼女のこめかみ部分に展開する。


「とゆーことで、優っちの撃墜ばーじんはウチがいただきっ! いや~、ドリルしか使えないのーきんオタクちゃん、かわいそ♪」


 特大の煽りスタンプが莉乃機に送られると同時に、スキャナーの素子が赤く光り、位相同期モードが起動。


(い、胃が……)


 仮想体の下腹部を押さえた俺は、こっそりと秘匿通信を切断するのだった。


 ***  ***


『イイじゃないかフタマタくぅん! 美嘉君のマウント力が上昇すると同時に、莉乃君の攻撃本能が急上昇。二人のリンクにより、ヤンデレシフトの位相角度は140を突破……逆位相の発生を確認。行けるぞぉ!』


 壱号機との秘匿通信を切った瞬間、博士のねっとりとした歓声が聞こえた。

 俺のメンタルに、休まるときはない。ていうか、誰がフタマタだ。


『美嘉君、カノン砲を三連射。第一射と第二射は観測射だ。第三射で当ててくれたまえ』


『りょーかいっ!』


 ドンッ、ドンッ!


 博士の指示に答え、壱号機のカノン砲が火を噴く。

 元は退役したイージス艦に積まれていた大口径砲で、射程は200㎞以上。


「熱核バーストタービンエンジン全力運転、衝撃吸収度、規定値内を確認」


 メンタルの疲労度はかなりのものだが、いったん壱号機の操作に集中する。


 ピピピピッ


 レーダーに反応。高度250㎞まで上昇し、遠距離射撃を仕掛けて来た敵の新型機からの攻撃を警戒。奴らがそう判断したのかは分からないが、回避行動をとるフリゲート級。


 だが、それこそが美嘉の狙いだった。


『は~いっ、残念でしたっ!』


 ズドッ!


 フリゲート級の移動予想座標へ、効力射である第三射。


『オムニゲート機関の逆位相発生! ヤンデレシフト発動を確認!』


 博士の声が弾んでいる。


 ぐにゃり


 カノン砲の砲身から撃ち出された砲弾の周囲の空間が、歪んで見えた。


『弾着まで15秒……10秒……5秒……今ッ!』


 観測用カメラを最大望遠モード。フリゲート級の姿を全面でとらえる。


 ひゅんっ……がしいっ!


 糸を引くように飛翔した砲弾は、正確にフリゲート級の側面を捉える。


 バチバチバチッ!


 盛大なスパークが散るが、砲弾は敵艦の至近で停止しているように見える。


(だ、ダメなのか?)


 この攻撃すら、弾かれてしまうのか。

 絶望が脳裏によぎった瞬間。


 ギギギギギッ……


 砲弾の周りの空間が歪み、敵艦の表面を侵食していく。


 ばちいんっ!


 まるで風船が弾けるかのように、砲弾は敵の装甲に突き刺さって爆発した。


 ドウウッ!


 敵艦側面の三分の一ほどが吹き飛び、大きく姿勢を崩すフリゲート級。


「き、効いてる!」


『よしっ、よしいいいっ! 炸薬量は見直しの余地があるが……我々の攻撃が初めて奴らの装甲を貫いたぞおっ!!』


 わああああああっ!


 博士のマイク越しでも、歓声が爆発したのが分かる。

 指令室内のカメラに切り替えると、涙を流し、抱き合うオペレーターたち。

 戦略自衛隊から出向している基地司令も、顔を覆い、静かに嗚咽している。

 ついこないだ目覚めた俺にすらわかる。人類はついに奴らに届く銀の弾丸を手に入れたのだ。


『ふっふ~ん、さっすが美嘉じゃん!』


 ドヤ顔の美嘉が、メインモニターに映る。

 彼女はこれで、人類のヒロインになるだろう……実態はかなりの気性難だが。


『……さて、三俣君。トドメだ。弐号機に通信を繋いでくれたまえ』


「……え?」


 フリゲート級は大きなダメージを受けたのか、ふらふらと離脱しようとしている。

 ここに美嘉の砲撃をぶち当てれば、容易く撃沈できるんじゃ?


『いやなに。オムニゲート機関が少々オーバーヒートしてね。冷却に10分は掛かる。それに、長距離狙撃用の強装薬弾は、三発しか携行できないんだ』


「……えぇ?」


『と、いうことで。早く莉乃君を使いたまえ』


「え、ええ?」


 先ほどから莉乃は一言もしゃべっていない。

 ただでさえ美嘉からスタンプで煽られ、一番槍を彼女に取られたのだ。


「いや、ちょっと……莉乃はですね。高高度への順応のためもう少し……」


 相当な不機嫌モードになっていることが予想される。

 俺は少し時間を置くことを博士に提案したのだが……。


『何を言ってるんだい? 君の仕事だろう?』


 ぷつんっ


「うわ、逃げやがったこのマッドサイエンティストおおおおおおおおっ!!」


 あっさりと通信を切られた。


「や、やるしかないか……」


 俺は覚悟を決めて、莉乃に通信を繋ぐのだった。

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