6 悪霊が集まる呪われた村
鏡太朗は和室の中に入ってきた人物を見て、目を丸くしていた。
「そ、葬儀屋さん!」
暗い縁側から和室に入ってきたのは、九十歳を超えているように見える和服姿の二人のおばあさんだった。双子の二人は同じ顔と同じ体型をしており、お揃いの黒地に黄色い菊の柄の着物を着ていた。
もみじがきょとんとして、鏡太朗に訊いた。
「鏡太朗、知り合いか?」
「知り合いも何も、俺に呪い玉を渡した朝死川村の人だよ! え? ということは、ここは……」
「兄ちゃん、久しぶりじゃの。そうじゃ、ここは朝死川村じゃ」
葬儀屋と呼ばれた二人のおばあさんは、同時に同じことを喋り、その言葉を聞いた鏡太朗は愕然とした。
『ここが朝死川村? 足を踏み入れた旅人が、次の日の朝には死体になって川に浮かぶという……?』
まふゆは暗闇の中で、具合が悪そうに目を覚ました。
「ここは……? 体中が痛い……。目眩と頭痛と吐き気がして、気持ち悪い……」
まふゆは自分の置かれた状況に気がついた瞬間、驚愕して叫び声を上げた。
「え? な、何なのよ、これはーっ?」
まふゆは立ったまま、両腕と両脚、胴体が闇の塊でできた棘だらけの枝に巻きつかれていた。棘からは、闇が液体のように少しずつ体内に注入されていた。
「こ、これって、呪いの力だ……。は、早く抜け出さないと」
まふゆは両腕と両脚を動かそうとしたが、闇の枝に捕らえられて身動きができなかった。
「痛っ! この闇でできた枝のせいで動けないし、動くと棘が体に深く刺さってくる……。ここはどこなの?」
まふゆは上方や周囲を見渡した。
『上も周りも真っ暗……。こんなに暗いってことは、外じゃなくて建物の中ってことなの? はっ!』
まふゆは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
『こ、これは呪いの力……。そして、たくさんの人の気配がする……。これって、これって……、人じゃなくて悪霊なんじゃあ……? い、今、あたしの前に……、もの凄い数の悪霊がいる……』
まふゆの顔からは、見る見る血の気が引いていった。
「ここはどこなの……?」
切子は涙で濡れた怯えた顔で暗い森の中に立っており、切子が両腕で抱いているみゃおも体を縮こまらせて震えていた。切子の足元には紫蘇が群生しており、周囲に生えている黒と紫がまだらになっている樹木は、幹も枝も奇妙に歪んで曲がっており、黒い桜の花が狂い咲き、黒い花弁が雪のように降り注いでいた。あちこちの桜の枝には無数の壊れた日本人形が紐で吊るされ、激しく揺れ動いていた。
「風もないのに人形が揺れている……。どうなってるの……? この場所、怖いよ。早くここから抜け出したい……。それなのに、どれだけ歩いても森から出られない……」
切子は大粒の涙を流して、みゃおを強く抱きしめた。抱きしめられたみゃおは、力強い鳴き声を上げた。
「みゃお!」
切子がみゃおに目を向けると、みゃおは笑っているような表情で切子を真っ直ぐ見つめていた。
「みゃお……。わたしを元気づけてくれてるの……? わたしなんかを励ましてくれて、ありがとう……。みゃおもさっきまで震えていたのに、わたしのために勇気を出してくれてるの? ありがとう……」
切子は泣き濡れた顔で笑顔を浮かべ、みゃおに頬ずりをした。みゃおも嬉しそうな様子を見せた。
「みゃお……、大好きだよ。こんなに誰かと仲良くなれたのなんて、何年ぶりだろう? わたしなんかにこんなに優しくしてくれるのは、みゃおだけだよ」
みゃおは切子を見つめて、『にゃあ、にゃあ』と何かを訴えた。
「そうだね。鏡太朗さんとまふゆさんも優しかったよね。みゃお、あなた、わたしの言っていることがわかるの? わたしもあなたが言うことがわかる気がする。わたしなんかが、こんなに素敵な友達に出会えるなんて……。みゃお、わたしの親友になってくれる?」
みゃおは力強く『みゃお!』と鳴いた。
「ありがとう! あなたはわたしの親友よ。みゃお、大好き!」
切子は幸せいっぱいの笑顔を浮かべながら、みゃおに頬ずりをした。
薄暗い十八畳の和室の中に、不気味に笑う老婆の顔が浮かび上がっていた。
『そ、葬儀屋さん……、灯りをここに持ってこなくても……。その顔……、怖い』
座布団の上で正座をして苦笑する鏡太朗がいる和室には、胡座をかいて畳の上に直に座るもみじがおり、鏡太朗たちと向かい合って座布団の上に正座する双子のおばあさんがいた。おばあさんたちは自分たちの前に座敷行灯を一つずつ置いており、二人のおばあさんの顔は揺らめく灯りで下から照らされ、薄暗い室内に不気味に浮かび上がっていた。おばあさんの一人が口を開いた。
「ここは朝死川村の集会所じゃ。神子様がいつものように黒い鎖苦拉の森に入って、村に侵入した悪霊どもを呪い玉に封印されている時に、倒れている兄ちゃんたちを発見し、村の者に言いつけてここへ運び込んだのじゃ」
「その時、もう一人少年がいなかったか?」
もみじが二人のおばあさんに訊いた。
「おった。じゃが、神子様が仰るには、あの兄ちゃんは呪いの刃で傷をつけられており、あと三日の命だそうじゃ。神子様が手当をしてみると仰り、今、神子様と一緒に神社におるのじゃ」
鏡太朗ともみじは、安堵と不安が入り混じった表情を浮かべた。鏡太朗がおばあさんたちに訊いた。
「神子様って何者なの? あの人の傷を治せるの?」
「神子様はこの村で唯一神様の言葉を聞くことができるお方で、二千年前から神様のお告げを村人に伝え、神様のご意思通りに村を導いているのじゃ。不思議なことに、神子様が寿命を迎えられる時には、どこからともなく次の神子様が現れるのじゃよ。新しい神子様は、神様のお導きで村にやって来たと仰るのじゃ。
呪い玉も、代々の神子様が神様のお告げでつくっているものなのじゃ。お前たちは黒い鎖苦拉の森で吊るされている人形を見たか? 神子様が仰るには、彷徨う魂は、人の形のものに取り憑きやすいのだそうじゃ。不思議なことに、村に侵入した悪霊があの人形に取り憑くと、人形が大きく揺れるのじゃ」
鏡太朗が心の中でもみじに言った。
『この人たちには、人形に取り憑いた悪霊の声が聞こえないみたい』
『ああ。悪霊の声が聞こえねぇもんだから、ただ人形が揺れていると思ってんだな』
「さらに不思議なことに、神子様が人形に取り憑いた悪霊を呪い玉に封印すると、人形の揺れが収まるのじゃ」
「この村には、昔から医者がいないのじゃ。この村では、怪我や病気になった村人は神子様に治していただくのじゃ。神子様が手を当てると、不思議なことに怪我も病気も治ってしまうのじゃ」
「ね、ねぇ、葬儀屋さん。村の人たちって、あの森の中でもの凄く目眩がしたり、頭痛や吐き気がしたりしないの?」
鏡太朗が二人のおばあさんに尋ねると、二人はぽかんとした顔を見せた。
「この村に九十年住んでいるのじゃが、そんなことは一度もなかったのじゃ」
もみじが鏡太朗に心の中で言った。
『鏡太朗。あたしたちが体験した目眩や頭痛、吐き気は、霊力に敏感だからこそ体が呪いの力を感じ取り、激しい拒否反応を示したものだ。霊力を感じる感度が低いと何も感じないんだろう』
鏡太朗はハッとして、二人のおばあさんに訊いた。
「子猫を抱えた女の子と、髪の毛を二つに結んだ女の子を見なかった? この村にいるはずなんだ!」
「はて? 全く見てはいないが、もし、その二人が村にいるのなら、すぐに探した方がいい。早く見つけないと、明日の朝には死体になって川に浮かぶことになるんじゃ」
「え?」
鏡太朗ともみじは、おばあさんの言葉の意味が理解できず、同時に聞き返した。
「午後十時を過ぎてこの村に滞在した余所者で、生きたまま夜明けを迎えた者は一人もいないのじゃ。夜の間に何が起こっているかはわからんが、確実に夜の間に余所者は死ぬことになるのじゃ」
二人のおばあさんは真剣な表情をしており、鏡太朗ともみじは、まふゆと切子に命の危機が迫っていることを悟った。
「大変だ! 俺、すぐに探してくるよ!」
鏡太朗の正面に座っている方のおばあさんが、心配そうな表情で言った。
「兄ちゃん、夜に出歩くのは危険じゃ。わしが一緒についていってやろう。兄ちゃんと姉ちゃんが倒れていた森は、村の土地の八割を占めるほど広大で、迷うと抜け出すことは難しいのじゃ。兄ちゃんも迷ってしまったら、明日の朝には死体になって川に浮かぶことになるんじゃよ。それに、森には猛毒を持つマムシがおって、危険なのじゃ。森へ行くのなら、マムシ対策の鎌か棒を持って行く必要があるのじゃよ。懐中電灯も必要じゃ」
「鏡太朗、あたしはナツのことも心配だ。あたしは神社に行ってナツの様子を確認してから、まふゆと切子を探すことにするぜ」
「それじゃあ、姉ちゃんの方はわしが案内してやろう」
もみじの正面に座っている方のおばあさんが、親切そうな優しい声で言った。
「ん……。ここは?」
ナツが意識を取り戻すと、神社の本殿に横たわっていた。本殿の中にはたくさんの燭台が置かれてロウソクが灯り、ロウソクの炎が揺らめきながら室内を明るく照らしていた。
「客観的に見て、どこかの神社の本殿か……? だが、ここにも強力な呪いの力が満ちている。目眩と頭痛と吐き気は相変わらずか……」
ナツは目眩と頭痛と吐き気をこらえながら、上体を起こして周囲を見渡した。そこは古い神社の本殿で、背後を振り返ると奥に御神座があり、その手前には黒い神前幕が掛けられ、そこには白い神紋が染め上げられていた。神前幕の左右にあるその神紋は、円の中に正三角形が描かれたものだった。
「その神紋は、この宇宙に満ちている霊力を象徴しておるのじゃ」
「誰だ?」
ナツが声が聞こえた本殿の入口に目を向けると、一人の年配の女性が立っていた。七十歳前後の美しい顔立ちのその女性は、身長はもみじと同じくらいの高さで、背筋は真っ直ぐ伸び、長い白髪は後ろで一本に束ね、黒衣と緋色の袴、黒い足袋を身につけていた。ロウソクの揺らめく灯りで照らされたその佇まいは、見る者に神々しさを感じさせる威厳に満ちたものだった。
『この偉そうなばあさん……、妙な違和感を感じるが、呪いの力は感じられない。客観的に考えて、普通の人間だな』
女性は厳かに語り始めた。
「余は神の声を聞く者、神子である。お前が見ていた神紋は、周囲の円が宇宙に遍く満ちている森羅万象の根源の力、霊力を象徴し、円の中の三角形は、三種類の特別な霊力を現しておるのだ。すなわち、神が扱う御神氣、魔物が扱う魔力、生き人や死人がつくり出す咒靈力の三つじゃ。
お前の左腕には、咒靈力と怨念が込められた傷があった」
ナツがハッとして自分の左腕を見た時、変わり果てた左腕の状態に愕然とした。切り傷は跡形もなく消えていたが、黒と紫のまだらに変わった皮膚は、左上腕の真ん中から手首にまで大きく広がっていた。
「霊力を使って傷や病気を治癒させる余の霊術により、傷は治した。だが、この霊術は、百年ほど前には『手当療法』などと呼ばれて日本中に普及していたもので、特別な術ではない。この術では、強力な怨念によって作用する咒靈力の働きを止めることは不可能なのじゃ。お前は生きながら体が腐り、精神が狂い、悪霊として存在し続けるという運命からは逃れられぬのじゃ」
ナツは視線を落として答えた。
「すでに……覚悟はできている」
ナツは顔を上げると、恐れも迷いもない力強い目で神子を真っ直ぐ見た。
「俺は体が腐り、気が狂う前に、絶対に妹を助け出す! 頼む、何か知っているのなら教えてくれ!」
鏡太朗とおばあさんの一人が集会場を出た後、もみじは集会場の玄関で思い出したようにもう一人のおばあさんに言った。
「そうだ。この電話を借りてぇんですが……」
集会場の玄関には、一台のダイヤル式の黒電話が置かれていた。
もみじは黒電話を耳に当てながら、ダイヤルを回した。
プー、プー、プー……
その頃、さくらは廊下に座り込み、スマートフォンで美来と通話しており、驚きの声を上げていた。
「ええええええええーっ? 美来と来美がめっちゃ面白いって言ってたのって、『アイ ノウ イエーィ!』って映画なのーっ? あたし、『アイノウエ!』って映画を観てたっ! 愛に飢えてるって映画だったのーっ?」
「さくらは話中か? 留守番電話になる設定もされてねぇ……。家電に電話するか……」
來華が号泣しながら大音量で映画を観ている居間で電話が鳴ったが、映画に没頭している來華は着信に全く気づかなかった。
電話は留守番電話に切り替わり、もみじはメッセージを録音した。
「さくら、ライちゃん。緊急事態だ。コアちゃんに乗って大至急ここまで来てくれ。ここは朝死川村だ。何とか場所を見つけてくれ。頼んだぞ」
もみじはメッセージを吹き込み、受話器を置いた。
『もう連絡手段がねぇ。ライちゃんは、戦闘モードに変身する時の体を包む雷で、今までに何度もスマホを壊しちまって、もうスマホは持たない宣言をしてるしな。さくら、ライちゃん! 頼む、早く留守電に気づいてくれ!』
鏡太朗はおばあさんの一人と一緒に、左手に懐中電灯、右手に鎌を持って夜の農道を歩いていた。二人が歩く未舗装の道の周囲には、茄子やカボチャ、キャベツ、サツマイモなどの野菜の畑があり、畑に植えられている野菜は、懐中電灯の灯りに照らされると、茎や葉、実などの全てが黒い色をしていることが判別できた。
畑の向こう側には家屋が点在しており、その家屋はどれもが、昭和三十年代に見られたような板張りの外壁とトタン屋根でつくられた古いもので、所々に立っている電柱は、防腐剤が注入された黒茶色の相当古い木製のもので、大きな皿のような傘に裸電球がついた街灯が取り付けられていた。
「葬儀屋さん。集会所では行灯を使っていたけど、ちゃんと電気は通っているんだね」
「遠くから電線を引っ張って、電気は村まで来ているのじゃ。ただ、設備や機械が老朽化して、電力の供給は不安定じゃから、昔使っていた行灯なども併用しているのじゃ。
村にある家を見てみい。相当古いじゃろ? わしが子どもの頃は、村には壮年の者も多くおったから、この家は自分たちで建てたのじゃ。
昭和初期に、この村で電柱工事をした作業員が全員謎の死を遂げ、その後も建築や土木の工事のために村を訪れた者が次々と謎の死を遂げ、何十年も前から、この村に来て工事をする者はいなくなってしまったのじゃ。高額な報酬を引き換えに世界中の危険な呪われた物を預かり、村の財政は潤沢なのじゃが、建て替え工事ができず、村人も高齢化が進み、家は古いままなのじゃ」
おばあさんは鏡太朗の顔をしげしげと見つめた。
「兄ちゃん、顔つきが変わったな。この前、わしがお前の学校へ行く時に、神子様に呪い玉を託され、呪いの力に耐えられると直感で感じた若者に呪い玉を渡すよう命じられたのじゃ。そうそう、護身用に呪いの濡れ雑巾も授かったのじゃ。あの濡れ雑巾は、神子様が呪いの力を注入したもので、水は呪いの力を蓄えやすい性質があるそうじゃ。あの雑巾を踏むと、本当に三十六回転び続けたじゃろ? 神子様の力は、本当に不思議なのじゃ。
あの時の兄ちゃんの顔は、優しいだけが取り柄で何もできない子どものような顔じゃった。じゃが、今じゃ強さを秘めた頼れる男の顔になった。色々と困難にぶち当たり、それを乗り越えてきたような惚れ惚れするような顔つきじゃ」
鏡太朗の脳裏に魔物たちとの闘いの記憶が駆け巡り、鏡太朗は微笑んだ。
「どうじゃ、わしと結婚して村に住まぬか?」
鏡太朗は心臓が止まるかと思うような衝撃を受けた。
「そ、それは、え〜と……。そ、そう! 葬儀屋さんはとても素敵だから、お、お、お、俺なんかにはもったいないと思うんですぅ!」
鏡太朗は動揺しながら、しどろもどろになって答えた。
「照れるな、兄ちゃん。村に住むのが無理なら、わしが兄ちゃんの町に嫁に行ってもよいぞ」
「いや……、そういうことではなくて……」
「葬儀屋さーん」
畑の中から農作業の服装をした二人のおじいさんが、懐中電灯を手にして姿を現し、おばあさんに呼びかけた。
「おお、忌好! 誠禍! こんな暗い中で農作業か? 本当に働き者じゃのう」
優しそうな七十代半ばの二人のおじいさんは、屈託のない笑顔でおばあさんに近づいた。
「葬儀屋さん、あんた、姉の方か? 妹の方か? 何十年見ても、全然区別がつかん」
「葬儀屋さん、その少年が鎖苦拉の森で倒れていた旅人かね? 村で噂になっちゅうぞ。兄ちゃん、腹減ってないか? 腹が減ってるなら、わしの家に来んか?」
二人のおじいさんは笑顔でおばあさんと話しながら、親しげな顔を鏡太朗に向けた。
「こんばんは。俺、屍鏡太朗と言います。お心遣い、ありがとうございます。でも、今は……」
おじいさんの一人が鏡太朗の言葉を遮り、急に心配そうな表情で鏡太朗を見つめた。
「忌好、何を言っちょるんじゃ! もう、九時じゃぞ! 十時までに村から出ないと、この兄ちゃんの命が危ないんじゃぞ! 葬儀屋さん、今は、村の外まで兄ちゃんを送っているところなんじゃろ?」
「いや、誠禍、違うのじゃ。この兄ちゃんの連れが行方不明なのじゃ。今から一緒に連れを探しに行くんじゃ」
「それは大変じゃーっ! あと一時間以内に探し出して村から出ないと、兄ちゃんも、その連れも命はないんじゃ! わしらも連れを一緒に探すのじゃ。村の者全員で探し出すんじゃ!」
「葬儀屋さん、先に行っちょってくれ! わしらは、村のみんなを連れてくるんじゃ!」
二人のおじいさんは、離れた場所にある家屋の方へ慌てて駆けて行った。おじいさんたちの思いやりに感激した鏡太朗は、二人の背中に向かって感謝の思いを声に込めて大声で叫んだ。
「ありがとうございまーすっ! 心から感謝しまーすっ!」
二人のおじいさんは一瞬振り返って優しそうな笑顔を見せると、闇の中へ消えていった。鏡太朗は嬉しそうな顔でおばあさんを見た。
「本当にいい人たちですね! 見ず知らずの俺たちを本気で心配して、助けてくれようとするなんて!」
「この村では、昔からお互いを助け合ってきたのじゃ。困っている人を助けるのは、村人にとって当たり前のことなのじゃ。さあ、急ぐぞ。時間がないのじゃ」
鏡太朗は胸が温かくなるような幸せな気持ちを感じながら、葬儀屋のおばあさんと一緒に森に向かって再び歩き始めた。




