♰♰♰ 倉庫室にて② ♰♰♰
黒川の嬉しそうな表情を見て神宮西は満足し、神宮西の顔にも軽く笑みを浮かべて照れくさそうに「はい、終わりました。」と告げてハンカチを結び終えた黒川の手を軽く叩いた。黒川は手を上げて自身の手を見た。
「まるで顔がはれたアンパンマンみてぇ・・・・。」
これはドラマじゃあけして映せないな。と思うくらい酷い出来だった。ハンカチが太く巻きつけられていてひょっとして自分の手が傷のせいで腫れているのじゃないか?と疑うくらい不自然に膨れ上がっていた。だが、不細工ながらも懸命に手当してくれたのが伝わりかえってそれが愛らしくも感じた。
「ところで聴きたいのだけどさ、あんたってなんで丸之内なんかの友達やっているの?」
「そりゃ、まあコウちゃんと俺は幼なじみだし。」
「でもさ、いくら幼なじみだからと言って丸之内をかばうなんて馬鹿げている。あいつ、いつも堀田達にいじめられて黒川に助けを求めている癖に自分からはけして黒川を助けようとしないじゃん?」
「俺さ、ガキだった頃は親が共働きをしていて・・・」
神宮西が突然何を言い出す?って顔をしたが、後からまずい質問をした事に気づいた。
「学校から帰ると家でいつも一人ぼっちだった。けどある日、近所に住んでいるコウちゃんと仲良くなってからコウちゃんが学校から帰ったら一緒にゲームをしようって俺を誘ってくれたおかげで俺は学校から帰ってきた後でも一人ぼっちにならずに済んだ。そんなこんなで例えコウちゃんが友達として臆病で俺に何もしてくれないだとしても俺にとってはいないよかはいてくれて価値があった。」
「丸之内はいい友達を持って幸せ者だね、本人がその事に気づいてくれるといいけど。」
「気づかないだろうな。コウちゃんにとって俺は便所に落ちたプリンキュアのフィギュア以下なワケだし。」
「便所??とにかく今は丸之内だろうが好き嫌いで付き合うのを決めている場合じゃあないね。堀田や名城でも今や貴重価値があるゾンビ以外の人間なワケだし。」
「なんだかいまいち信じられない。皆、いなくなってしまったなんてさ。そりゃあ、もうすぐ卒業だからいつかは会えなくなることくらいは想像ついたけどさ。つい昼頃までいつも通り馬鹿やっていた。なのにいきなりはい、サヨナラなんてさ。」
「想像していなかった時にいきなり穴に落とされるの。それが人生ってもん。理不尽だらけのこの世界に慣れるしかない・・・・。」
神宮西はまるで一足早い経験者のように言った。黒川は神宮西がなぜいきなりゾンビだらけの世界になってすぐに冷静になれたのか理解した。
「あーあ!俺は高校を卒業したらいい大学に行って、ホワイト企業に就職して、美人の彼女と結婚して、子供が出来て、マイフォームを立てていたはずなのに!」
「私は女優兼、歌手としてアイドルと結婚ッ!そしてSNSでリア充自慢しまくっていたプランが~」
黒川も神宮西もお互いに発した自我に気づくと二人で恥ずかしくなった。未来という以前までは明るい話題だったのに今は未来に対して期待できない。
「・・・・・・・・オレの未来は幸せなるつもりだった。」
「黒川、それは皆が思っている・・・・・」
しばらく気まずい沈黙が流れ黒川が話題を変えようとしたら神宮西に先を越された。
「これからは今までのように待っているだけで大人になればいつか幸せになれるとお気楽に思っているのは老けるのが速くなるだけだったわ。努力もせずに幸せを掴もうとするなんて甘えだった。自分から幸せに早く近づかないとね。」
神宮西はこれからを共に戦おうと言うように黒川の背中を叩いた。抜け道が見えないこの深い暗闇の中で神宮西だけは希望を見ている。金山先生が見ている景色とはまるで違う。神宮西の表情に内なる美が肉体に宿ったルネッサンス時代の彫刻ように生き生きと輝いていた。
「きれいだ。」
感情の高まりが自分の中だけでは押さえきれない。神宮西ともっと一緒にいたい。この感情を人はなんと呼ぶのだろう?瑞穂さんの事を好きになったのはたまたま自分の近くにいた女性だったからだ。
だが結局、俺は瑞穂さんの事を何も知らなかった。きっと誰でもいいから彼女がいる事でこのみじめな人生から逃避したいと思っただけだ。でも、この感情は神宮西の事を知ってから生まれた物だ。こっちの方が本物と言えるのだろう。
「ええっ!?今なんて???」
「いやっ!その~つ、つまりっ!炎だっ!ランプについた炎が綺麗だなーって・・・」
神宮西がこっちをどう思っているのかまだ確信が持てないし、まだ瑞穂さんの時のように痛い失敗をひきずっており、同い年の男子生徒のように振られて傷ついてもすぐに別の好きな人に挑戦する度胸なんてなく、自分が傷つく事を恐れている弱さゆえにいつまでも前に進めずに後悔していた。でも、この感情が本物である事だけは気づいたようだ。
「あ、そう・・・なんだ。ま、いいけどさ。」
神宮西はなんだか少しスネたように黒川からそっぽを向いた。その時、黒川と神宮西じゃない別の誰かの声がした。
「あんた達。いつまでこんなカビ臭い所でイチャついているの?あーあ、ヤダヤダ。気持ち悪い物を見せつけられちゃった!あんた達がのろのろと気持ち悪いやり取りをしている間にみきちゃんはクリームパンを一袋食べ終えちゃったわよ!」
「あんた!まだ食い物を隠し持っていたのっ!??」
神宮西は皆がお腹をすかせているのにみきは皆に貴重な食料をわけてあげないのと、まだ飯を食べられるみきの胃袋に怒りと同時に驚愕の混じった感情になっていた。
「ていうか、さっきまでスナックパンを一袋全部食べ終えていたのにどうしてまた食べ物が腹に入る?どうなっていんだお前の胃袋は!?4次元ポケットみたいに異空間でも入っているのか??」
「外にいる死体を食べる奴よかマシでしょ?それより、早くしないとニュースが始まっちゃうわよ。」




