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♰♰♰ 問題児だらけの教室 ♰♰♰

 その頃、黒川は甘い空気に背を向けやっとのことで教室の扉の前まで着いたのはいいがなぜか閉まった扉の前に立ち止まり、目を細めて扉の上をじっと睨みつけていた。やがて決心がついたのかその場から動かないまま勢いよく扉を開けた。すると扉の上から白い粉が入ったビニール袋が袋の口から白い粉を飛ばしながら下へと落ちてきて床に白い粉を撒き散らした。爆弾が落ちてきた後のように白い煙が舞い上がる中、扉の前で落ち着いて罠を見破った黒川が罠にひっかからなかった自分に気分よく片足をあげて教室へと一歩入り込んだ。すると片足の前にいきなり紐がピンっと横に直線を張った。


「しまった!」


気づいた時にはもう遅く、横に張られたひもに片足をひっかけられてしまい黒川は派手に前へと転んだ。先程、床にちらばった白い粉が黒川の制服の腹の部分についた。上から誰かの笑い声が聴こえてきた。


「あーっ!ひゃっひゃっひゃっ!やっぱ黒川は俺たちの期待を裏切らねぇな!!」


転んだ黒川の顔の右横に両足が見えた。見上げるとチョークを片手にもった東山卓が黒川を見下ろして大笑いをしていた。東山の背後にある黒板には画線法で『正』という今までに罠にひっかかった人数を表す漢字が2つと新しく黒川の分も含めて『一』とチョークで書いた。


「やっぱ古典的な罠だなっ!」


倒れた黒川の左横に紐を引っ張っている本山武が東山とハイタッチをした。本山が手に持っている紐の先は黒川の右横にあるパイプ管に縛られてあった。黒川は学校へ来てから今日何度目かの絶望の鐘が鳴り響いていた。黒川は腹についた白い粉をはらいながら立ち上がろうとしたがさっそく本山に肩を組まれてほっぺたをつねられた。


「やぁ~おはよう!黒川くん!俺に対する挨拶はないのか!?朝から浮かない顔をしているな~今日はせっかくのバレンタインデーなのにっ!」


クラスで一番のお調子者の引退した元ラグビー部の本山に肩を組まれてしまった。本山は丸いメガネをかけて丸刈りヘアをしていた。スポーツマンらしく体型が少し太めでもガッツリ体型だったのに引退した今はただのぽっちゃりになってしまった。


「黒川が元気ないのはひょっとしてまだチョコを一つも貰ってないからじゃねぇ?」


東山に黒川を一発でダウンさせる会心の一撃を喰らわされてしまった。東山も本山と同じく元ラグビー部で引退してからは髪の毛がまるでまったく庭の手入れもせずに放って置かれて雑草が伸び放題のように生えていた。体型は本山と違って細身で身長は高めで本山とよくつるんで仲良く極悪コンビを組んでいた。この二人に今までに何度も嫌がらせを受けていた黒川には今の状況がどういう事になるのか嫌でも察しがつく。どうせ端から俺が女の子からチョコを貰うワケがないと決めつけているくせにどうしてこの2人はわざとらしく遠まわしにチョコを貰ったのだの聞くのだろうか?と思いつつも黒川はいつも心の中でしまい込むだけにしてけして本人たちの前では口に出せないでいた。黒川はドラえもんを見始めた幼稚園児の時から自分はジャイアンとスネオに抵抗できないノビ太なのだと早いうちに理解した。そしてお調子者コンビの本山と東山は自分達でも勝てそうな抵抗できないか弱いクラスメイトをターゲットにしては常日頃からからかう事で自分達が優位に立てるのを喜びにしているジャイアンとスネオのコンビなのだ。ノビ太と違っていつも助けに来てくれるドラえもんがいない黒川は大人しく2人に従うしかなかった。


「かわいそうな黒川くん!」


本山は黒川の背中を大げさに叩いき、黒川は体が前に倒れそうになった。本山の言葉にひとつも同情心を感じられない。むしろ、自分よりもかわいそうな人間がこの世にいてくれた事を神に感謝しているかのように聴こえる。


「お、俺はチョコをちゃ、ちゃんと貰ったぞ・・・・!」

「へーそうなの?じゃあ、本当に貰ったのかどうか確認させて貰おうか?」


東山がそう言うと黒川の腕から無理矢理かばんを奪い取った。黒川は情けない声で「ああっ~やめろ~!」と叫びながら自分のかばんの中身をあさり出した東山を止めさせようとしたのだが本山に肩をがっちりと組まれされて身動きができない。抵抗もむなしく黒川はこの2人のなすがままだった。だが、本山と東山の期待とは大いに外れて東山は黒川のかばんの中からチョコを見つけ出したのだ。


「ありゃりゃ?本当にチョコがあった?」

「だから言っただろ!俺はちゃんとチョコを貰ったと!」

「東山、そのチョコを俺にも見せろ。」

「ああっ!やめて!」


黒川の本能が今すぐその場から逃げろと告げている。だが、時はすでに遅し。東山はチョコを本山に向けて投げた。黒川は横からチョコを奪い取ろうとしたのだが、普段から部活で練習しているみごとな連係プレーでチョコは本山の手にあっさり渡った。


「ふ~ん、ふむふむ。この包装紙は見覚えがあるぞ。あ、そうだ!これはうちのかーちゃんが通っているおばさん達がよく行くデパートのロゴマークがついている包装紙じゃないか!黒川。ひょっとしてこのチョコはお前のかーちゃんから貰った物だろ!」

「お前、まだ自分のかーちゃんからしかチョコを貰ってないのかよ~!」


ああ・・・なんたる屈辱。なんたる悲劇。本山と東山に大声で笑われたのがクラス中に響き渡り、クラスメイト達が同情と哀れみの目で黒川の事を見ている。皆の前で恥をかかされた黒川は体を縮こませてその場にいたたまれない気持ちになった。


「なんだよ!そういうお前らこそ、自分のかーちゃん以外に貰う人がいるのかよっ!」

「俺たちはちゃーんと貰っている。」

「え?」


2人はまるで黒川の質問を待っていましたかのように嬉しそうな顔をして近くに置いてある自分達のバッグの中からチョコを取り出すと、自分達が貰ってきたチョコを黒川の前に差し出して自慢した。2人が貰ったチョコは黒川が母親から貰った親の世代がよく行くようなデパートの包装紙ではなく、正真正銘の今時の女子高校生が好むようなピンク色でハート柄がかわいい模様をしている包装紙だった。


「まぶしい・・・!今の俺にはこのチョコがとてもまぶしく見える!」


まるで天下の副将軍から印籠を見せつけられた悪役のように素直に副将軍の前にひれ伏すしかない。だが、どうやら天からこの様子を眺めていた神は黒川を哀れんで慈悲をかけてくださったらしい。黒川はある事に気がついた。


「なんでお前ら2人とも同じ包装紙なのだ?」


本山と東山の顔が一瞬ひるんだ。その瞬間を黒川はちゃんと見逃さなかった。


「お前ら2人とも同じ包装紙のチョコを持っているという事はお前らにチョコを渡した女の子は同一人物である可能性が高いという事だよな?」

「んなワケないだろ~俺達はたまたま同じ包装紙をしたチョコを別の女の子から貰っただけだよなっ!東山。」

「そうそう!たまたまダブっただけでよくある話じゃねぇか~あははは~」


見苦しい言い訳を聞かされたその時、たまたま教室に入ってきたばかりで本山と東山の背後に自分の机がある為に三人の会話が聴こえてきたクラスメイトの高畑洋一が三人の会話に口を挟んできた。


「ふ~ん。よくある話ね。ラグビー部のマネージャーに1万円の賄賂を渡してまでチョコを貰ったくせにさ。」

「高畑っ!友達を売りやがって!」


本山が背後にいる高畑につばを吐きかける勢いで吠えた。


「その友達にちゃんと口止め料1万円を払わないからだ。」


高畑はかばんを自分の机の上におろし、かばんの中から教科書を取り出した。


「俺をばかにする為に1万円も払ったのかっ!」

「ふんっ、それがなんだ。バレンタインデーの日に母親以外の女性からチョコを貰えなかった黒川と同じレベルにされる屈辱を味わうくらいなら俺らは金で魂とチョコを買う!


本山の鼻息が荒くなった。


「お前らの開き直りの速さは光の速さレベルだな。感心するくらいだ。これっぽっちも見習いたいとは思わないが。」


高畑は取り出した教科書を机の中にしまいながら言い返した。とはいえ本山が言っている言葉も理解できない事でもない。黒川も母親以外の女の子からチョコを貰えなかった屈辱を味わうくらいなら本山と東山と同じ事をしていたかもしれない。



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