♰♰♰ つかの間の休息 ♰♰♰
金山先生が去った後の理科室は年齢も性別も趣向も様々でお互いに初対面同志の生徒達のぎこちのない気まずい空気が流れていたのだが、そんな問題は高校に入って初めて教室に入り知らない人と机を並べた時と同じように時間が解決してくれた。ようやく安心してもいいと核心を持てたのか緊張から解き放たれた生徒達はまるで長いテスト期間が終わった後のようにはしゃいでいた。それはまるで狭い檻の中のサファリパークだった。騒々しい檻の中に閉じ込められた丸之内は片手で耳を塞ぎながらスマホの画面を何度もチェックしていた。だが、スマホの画面に映るのは圏外表示だけだった。
「あー!何度やっても電波が通じないよーこれでどうやってプリンキュアちゃんのスレに行けばいい?まだプリンキュアちゃんアンチとの戦いは続いているのに~」
理科室で騒いでいるうるさいざわめきにも丸之内はさらにイラつき始めた。
「おいおいっ!静かにし・・・・」
丸之内が警告したにも関わらずまるで授業中の私語を制止させようと注意する先生の声が届いていない授業中のようにさわぎまくっている生徒達にその声は届いていなかった。丸之内は声を大きく張り上げて騒ぐのをやめさせようと息をたっぷり吸い込んだが、理科室でうるさくざわめく生存者達の顔を見渡した途端、声を吐き出せなくなった。
彼らの顔は今までの苦しみや悲しみからようやく解放された時の安堵した表情なのだと丸之内は彼らが今まで経験した苦悩を理解した途端、なんだか自分自身に虚しさを感じ嫌な現実を考えないようにとプリンキュアちゃんの事だけを考えようとしてみた。
アニメの今週のプリンキュアの良かった所、来週のアニメの楽しみな所、来月の待ち遠しいプリンキュアのイベントの事・・・様々な事を思い浮かべて現実から逃避しようとしてみたが、それでも何度も脳裏によぎってしまうのは自分に対してこのままで本当にいいのだろうか?という疑問だった。
丸之内が悩みだしている間にも理科室は猛獣のようにざわついているが、何も皆が騒がしくしているワケではなかった。丸之内のようにスマホの電波が届かなくて困っている人もいた。
「どーしよっ!どーしよっ!スマホの電波がついに繋がらなくなっちゃった!」
彼女はどこの部にも所属していない帰宅部で今頃は学校帰りにどこかの店に寄り道をしている所だったのだが、テストで赤点を取った為に授業後に補習を受ける羽目になったせいでゾンビ騒動に巻き込まれてしまった赤点常習犯の一人が自分と同じく赤点常習犯の2人の仲間の女の子に助けを求めていた。
「あーんッッ!!ネットがなかった平安時代に生まれたワケじゃないのだから今更ネットがなくなったら何をして楽しめばいいのかわからないよぉぉぉぉーーー!」
赤点常習犯の仲間である一人の女の子はネットがない日常があまりにも退屈すぎて退屈を感じる自分の頭を憎むあまり自分の髪の毛をかきむしっていた。
「テレビなんてどれもこれもゾンビ!ばかりでつまらないしぃぃぃっーーーー!もう、ゾンビでも誰でもいいから私を殺してー!!!」
もう一人の仲間である赤点常習犯の女の子はおかしくなったように髪の毛をぶんぶんとまるで歌舞伎の連獅子のように振り回していた。
そんな3人の前に救世主となるかどうかは知らないが以前は日焼けサロンで皮膚を焦がしてカラーコンタクトに明るい茶髪のギャルだった子がある日突然、生まれ変わったかのように環境保護とナチュラル主義の菜食主義ビーガン宗教に芽生えて頭もすっかりエコロジーに変わってしまった女の子が困り果てている3人に向かって助言を送った。
「だいじょーぶっ!ネットがなかった大昔の人達はネットがなかった変わりに妄想をしていたらしいから!」
「すっごーい大昔の人達って妄想だけで人生を楽しめたのだね!」
「私達にもきっと妄想の力がある!」
「じゃあ、さっそく私達の妄想力を試してみましょ!」
こうして4人は両手で自分の頭を抱えて目を閉じ、まるで宇宙と交信でも始めたかのように電波のようなうねり声を出して妄想の世界へと旅立って行った。
「うーんぅうううぅううううううーーーー!!!!!!」
「うぃーん!!!うぃーーーん!!!うぃん!うぃん!うぃんーーーーー!!!」
「ぴーががががががががががーーーーー!!!!!!!」
「あうあうあうあうあうあうあうあうーーーーーーー!!!!!」
やがて4人が長い妄想の世界から目が覚めて現実世界へと戻ってきた。赤点常習犯の一人の女の子が自分の体験した妄想体験をハイテンションになって語った。
「すっごぉぉぉーい!!私、妄想の中でアイドルと結婚しちゃった!」
「私も妄想の中で二次元の男の彼氏が出来た!」
「妄想の中での私は歌手になっていて世界中から女神のように慕われていた!!」
「でしょー妄想の中って素晴らしいでしょ!」
「もう、現実の世界なんていらないね!」
こうして4人は再び両手で頭を抱えて目を閉じ、いつ現実の世界へ戻ってくるのかわからない妄想の世界へと旅立って行った。




