♰♰♰ 目覚めた戦士 ♰♰♰
恭一は恐怖を味わったおかげで生きる喜びを今、知った。恭一がじっと立ち尽くしている間にも気がつけばゾンビ達は複数で密かに近付いて恭一を囲んでいた。複数対一人で囲まれたら絶望的だ。だが、恭一はあえて自身を絶望に追い込んだのだ。恭一がゆっくりと後ろを振り向くと自分の周りを囲んでいるゾンビ達を睨みつけて言葉を発した。
「お前らもか?」
その声はまるで獣が唸っているよう。恭一の狂気が絶望と恐怖を追い払ったのだ。
「お前らもぼくの人生を崩壊する気きゃぁああ!!!!!!!!!!!!!」
恭一は周りを吹き飛ばす勢いで叫び声をあげると近くに置いてあった椅子を手に持ち自分の周りを囲んでいるゾンビ達に向けてなりふりかまわず振り回した。理性よりも狂気に支配された恭一は自分のそばにあるものならゾンビだろうが、単なる机や椅子だろうが、たとえ自分の肉親だとしても一心不乱に何でも攻撃してやろうという勢いだった。ゾンビ達は恭一に怖気付いて後ろに引き下がってしまった。
「なぜ逃げるっ!なぜ戦わない!?なぜベストを尽くさない!?」
恭一は椅子を高く持ち上げ、逃げよう引き下がっていた3匹のゾンビに向かって椅子を投げ付けた。投げられた椅子は間一髪で3匹のゾンビ達から逸れて机にぶつかり床へと落ちた。恭一の目玉が外へと飛び出してきそうなほど見開き、瞳孔は猫のように鋭くなり、白目は血のように真っ赤に充血していた。額に浮かび上がっている血管が皮膚をつらぬく勢いで異常なほど素早く流れている。歯はくだけそうなほどくいしばっていた。
「来いッ!化物共ッ!逃げ出すとは臆病者め!お前達から来ないのならこっちから来るぞ!うりぃぃぃぃー!!!!」
恭一はそばに置いてある椅子の上に片足を乗せ一気に机の上まで駆け上ると眼の前にいる背中を向けて逃げている一匹のゾンビに向かって恭一は飛魚のようにジャンプをした。
ゾンビは歩きながらも急いで恭一から逃げていたが、視界がいきなり暗い影に覆われた。ゾンビは後ろを振り向くと目の前にはジャンプして飛んでいる恭一がいた。次の瞬間にはゾンビの体の上に恭一が覆いかぶさり共に床に倒れた。
ゾンビは早く逃げ出そうと片手を伸ばした。だが、ひとときもオレから逃るのは許さんと言わんばかりに恭一は両手でゾンビの両肩を抑えると口を開き、ゾンビのように牙を向けてゾンビの首を噛みつき、皮を引き裂き床に吐いた。
人間よりも強靭な肉体であるハズのゾンビがゾンビよりも勇敢な魂を持っていた人間によって倒された。果たして化物はゾンビの方なのか?それとも恭一の方なのか?ゾンビは恐怖だけでニューロンが崩壊しその場で気を失って倒れた。
恭一はすぐに立ち上がるともう遊び飽きたおもちゃのように倒れたゾンビを足でどかし、教室の黒板の前まで逃げて行ったゾンビ達の方へと走って行った。恭一が向かっている先にちょうど一匹のゾンビが机と机の列の間の通路に立ちはだかっていた。
恭一は飛び蹴りをして目の前にいるゾンビにめがけてキックをくらわした。ゾンビの背中は背後にあった教卓に当たって教卓ごと床に倒れた。いったい恭一の何処にそんな運動神経があったことやら恭一は倒れたゾンビの背中と頭の上を歩いて逃げ延びたゾンビ達が集まっているる黒板の前まで歩いてやって来た。
「まだだ・・・まだ足りない・・・・・」
恭一の左横にいたゾンビがやけくそ精神で恭一に襲いかった。だが、恭一はゾンビよりも素早くゾンビの顔にエルボーを食らわし、ゾンビは後ろによろめいた。
「俺を!」
反対側の右横からも一匹のゾンビが恭一を襲いにやって来たが恭一が素早くゾンビに回し蹴りを喰らわし、またもやゾンビは床へと倒れた。
「もっと!!」
恭一は一度も空手を教わった事がないのに初めてやった回し蹴りを見事に成功させた。
「怒らせてくれ!!!」
恭一の前にいたゾンビが恭一を襲おうと腕を伸したが恭一は目にも止まらない速さでゾンビの前髪を掴むとゾンビの頭を引っ張って机に何度もゾンビの頭をぶつけさせた。
「ちゃんと机と目を合わせて勉強しっ!ろっ!よっ!」
ゾンビの顔がつぶれたアンパンみたいに中身が飛び散り恭一は攻撃を終わらした。まだ数匹のゾンビが教室の入口付近にいる。恭一はさらなる追撃をしようと片足を一歩前に進んだその時、先程倒したゾンビの足につまずいて恭一は床の上にうつ伏せに倒れた。
ゾンビはこのチャンスを見逃しはしまいと恭一の背中の上に乗っかっり、恭一の体が思うように動けなくなってしまった。恭一が動けないと知った教室の扉の前に逃げていたゾンビ達や先程、恭一に倒されたゾンビ達は意欲を取り戻し、恭一がいる所までぞろぞろと向かって来た。
今すぐに反撃をしなけれこっちがやられる!だが、恭一には今動かせる体が腕一本しかなかった。恭一は必死に体全体を使って自分に牙を向けてくるゾンビに抵抗した。開いている手でゾンビの腕をひっかいたり、足をバタバタと動かしたり、体を左右にこじらせてみたりしたが、抵抗すればするほどかえって疲れて体力を消耗するだけだ。
気がつけばいつの間にか恭一はゾンビに囲まれていた。絶体絶命だ。だが、ぼやけた視界の中に一筋の光が見えた。それは単なる光の反射だが恭一には希望の光に見えた。黒板の下にぶらさがつている教師用の特大サイズのプラスチックで出来ている三角定規を発見した。
恭一は唯一身動きが出来る腕を伸ばし三角定規の取手に指が触れた!が、その時、ゾンビが恭一の足を引っ張って三角定規から指を離してしまった。
「まずいっ!」
恭一の苦しみはさらに増してきた。両足が二匹のゾンビに捕らわれててしまった。唯一の希望である三角定規からは遠ざかっていく。
「また・・・・僕は人生から突き落とされるのか?また????」
今は肉体的に辛いが、なによりも辛かったのは今までに築きあげた人生を壊された事。
「やだっ!また突き落とされたくない!!!!」
急に覚醒した恭一はいきなり教室の外まで響き渡る雄叫びをあげた。その声にゾンビ達は驚いて動きが止まった。恭一は空いている片手で頭に巻いていたネクタイを取るとネクタイの輪をカウボーイの輪投げのように三角定規に向けて投げた。ネクタイの輪は三角定規に見事ヒットした。
「やった!」
だが、当たっただけでネクタイの輪は床にしぼんで落ちた。
「くそっ!」
今度は怒りに任せてネクタイの輪を投げた。だが、力に任せすぎたせいで三角定規よりも奥へと輪が超えてしまった。
「またダメなのか!」
恭一は床に拳を叩いて悔しがった。また、ネクタイを投げようとしたその時、ネクタイを掴んだ腕がゾンビに掴まれた。
「しまった!もう自分にチャンスは残されていない。次にかけるしかない!」
恭一は息を大きく吸い込んで渾身の力を込めてネクタイの輪を投げた。するとネクタイの輪が定規の尖った先にハマった。
「よしっ!」
恭一はネクタイを引っ張った。すると吊るされた三角定規が床に落ちた。恭一はすぐに三角定規の先を掴んで引っ張り取っ手を掴んだ。不思議な事に三角定規がまるで自分の体の一部のように奇妙にマッチした。それは恭一が長年共に勉強に利用してきたシャープペンよりもしっくりと来る感触だった。
「ようやく・・・オレにも一生を共にする相棒を見つけたか・・・」




