♰♰♰ 天国の扉は開いている③ ♰♰♰
「もう逃げ道なんてありゃしない・・・・」
夏樹の口から二人の友人がいる前ではけして言えなかった本音がついに出た。
「私達もうどうしようもないのかも・・・・。」
麻子もついに自分自身の口から絶望を呟くのを許してしまった。
「大丈夫ッ!まだ逃げ出すチャンスはあるッッ!!」
夏樹と麻子には信じられないが、カスほどでも希望にすがりつきたい気持ちで真由を見た。真由はポケットに入れていたスマホを持ち上げて満面の笑みを二人に向けて言った。
「コージならきっと助けてくれる!」
「どうしてこんな時にもコージが出てくるかなぁ!!!」
絶望していた麻子だがこんな事で怒る気力を取り戻す事になるとは思いもしなかった。
「こんな時に真由のボケに付き合えないつーのっ!!」
夏樹も最後くらい穏やかに終わりたかったのに最後まで真由のボケに腹を立たされた。
「いいや!コージならきっと真由を助けに来てくれるッ!コージは常に言っていた。『俺は常にビックだから!』って!」
真由がスマホに耳に当てると、真由の両隣にいる夏樹と麻子も真由の頬に耳を寄せてコージとの会話に耳をたてた。
『トゥルルールルルーガチャ!』
真由は声には出さないが口パクで麻子と夏樹に「コージと繋がった!」と嬉しそうに合図を送った。その嬉しそうな真由の笑顔が夏樹と麻子には憎ったらしかった。さっそく真由の電話からコージの声が聴こえてきた。
『あっ!ママぁ~!やっとつながったぁぁー!ぼくぅ、一人じゃこわいよぉ~~化物が町中にうじゃうじゃいるんだもぉん!!ママ!いつものように車で迎えに来て!ぼくに子守唄を歌ってよぉ~!ぼくちゃん怖いんだよぉおおおおおおおおお!!!!!』
静まった職員室に真由が無言のまま電話を切った虚しい音だけが響いた。
「麻子、夏樹。私、今気づいた。私の彼氏は馬鹿だ・・・」
「今更遅いわっ!」
麻子は今までのうっ憤をすべて晴らすように吠えた。
「けど、真由のいつものコージ病に突っ込みを入れる時間ももう残されて無いかも・・・。」
夏樹が現実を受け入れたかのように言った。3人はもう逃げる隙間もなくゾンビ達に囲まれ、ゾンビ達が後、二、三歩ほど歩けば3人に触れる所までやってきた。
真由を真ん中に両側には麻子と夏樹で真由を挟んで寄りあった。真由が子猫のように身を縮めて両手を組んで神様に祈るポーズをした。その手に麻子が片手を置いた。夏樹も真由と麻子の手の上に自分の片手を置いた。先程、喧嘩をした麻子と夏樹が今、お互いに手を取り合っている。そして3人に一番近い右横の先頭の女子生徒ゾンビがあと1歩足を進めば3人に手が触れる所まで近づいてきた。
三人はこずえ先生に視線を送った。こずえ先生の体はすでに跡形もないほどゾンビ達に食べられていた。未来の自分達の姿だ。だが、不思議と死ぬ前のこずえ先生の表情に苦しんでいる様子は見えなかった。次に首を吊った校長先生を見た。校長先生も無数の慕っていた先生達のゾンビに弄ばれて腹の中をえぐられたのに校長先生の顔には苦しんでいるようには見えない。こずえ先生も校長先生もむしろ苦しみから解放されて幸せそうな顔をしている。
夏樹はついに長く感じた恐怖と絶望から逃れられると顔が徐々に笑顔に変わりながら二人に訪ねた。
「私達、がんばったよねっ!?」
「もちろんっ!」
麻子も涙ぐんだまま二人の親友にせいいっぱいの笑顔を向けた。
「うん・・・・。」
真由の顔にも今までの恐怖やパニックが嘘のように消えて幸せそうに笑った。3人はお互いに握っている手を強く握りしめあった。真由がこずえ先生から最後に託された希望の種のカミソリを手に持った。
「一つだけいい事があった。高校に入学した時からずっと一緒だった3人が死ぬ時も一緒な事・・・・。」
真由と夏樹と麻子はお互いに目を交わして微笑みあい、気持ちを分かち合った。先頭にいたまるで未来の真由の姿のような真由にそっくりな女子生徒のゾンビが一歩前に進み、伸ばした手が真由のカミソリを持つ腕に触れた。
「もうすぐ・・・・こずえ先生のように私達も永遠に苦痛のない世界に行ける・・・・。」
夏樹が言い終えると真由がカミソリの刃を自分の喉元へと伸ばした。刃の先が真由の喉の薄くて青い血管が見える皮膚に触れた。その時だった。
「ふせろっ!」




