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第21話 マルトンの魔獣



レヴィード達はヨリモを出てから西に進み、野営をしながら3日かけて歩くと、次の町であるマルトンが見えてきた。


「…」


「アインス、どうしたんだい?」


「いや。別に」


アインスは何ともないと言うが、明らかにマルトンに行くことを渋っているようである。


(…マルトンに何かあるのかな?)


レヴィードは少し気になるが、町はすぐそこなので避けることはなくマルトンに入った。


「なんだろう」


レヴィード達はマルトンの町に到着したが、普段の日常とは違う雰囲気であることをすぐに察した。建物の間に旗飾りが吊るされ、道端の両サイドに等間隔で、星や月の形の穴が開いた直方体の提灯(ランプ)が置かれ、町の奥からはタンタカピーヒャラと明るい曲がリズムを打っていた。


「何かのお祭かな」


レヴィード達はそんな楽しげな町を歩いていると向こう側からレヴィードよりも小さい男の子と女の子がトテトテ走ってきた。


「にぃにぃだぁー!!」


「おにぃぃぃ!!」


そう叫びながら二人の子どもはアインスに抱きついた。


「にぃにぃ…ってアインスが!?」


「…っ」


アインスはばつが悪そうな顔をして黙っているだけだった。






レヴィード達はアインスと子ども二人に連れられるまま、町の中心から少し外れた平屋建ての家に着いた。木造で、木のどす黒さから年季の程が窺える。


「ママ~!!おにぃがかえってきたー!」


女の子が割れんばかりの声で叫ぶと女性2人が姿を現した。


「えっ…アインス?」


「兄さん…帰ってきたんだ」


「…ただいま。母さん。アルシー」


アインスは照れ臭そうに、出てきた二人と顔を合わせた。


「兄さん。後ろの人たちは?」


「ああ…。実は今は学園を辞めて冒険者になってな。旅の途中でここに寄ることになって…」


「まぁ、冒険者に!?アインス!やったわね!!」


アインスの母はアインスを抱きしめ褒め称える。


「ということはみんなアインスのお友達なのね。母のリーノです」


「あ、どうも」(なるほど。アインスがマルトンを渋ってたのは家族(これ)か。確かに身内を他人に紹介するってなんとなく気恥ずかしいよね)


「ささ、上がって上がって」


リーノに招かれるまま、レヴィード達は家にお邪魔する。ギシギシ軋む廊下を抜けると、服やオモチャで少し散らかったリビングに通された。


「あ…汚い場所ですいません」


「い、いえ。まさかここがアインスの実家とは思わなかったので。知らなかったとはいえ、こちらこそこんな大人数で突然押し掛けてすいません」


レヴィードはいつも通りの調子で話を進めるが、今回は少し勝手が違った。


ポカッ


「いたっ」


レヴィードは誰かに背後から頭を叩かれた。レヴィードが後ろを振り返ると、レヴィードより少し身長が高い男の子が立っていた。


「こら、トレース!お客さんの子に何をするの?」


「だってコイツ子どものクセに兄ちゃんを呼びすてにしたぞ!」


(あ、そっか。確かに自分のお兄さんが下みたいな扱いは嫌だよね)「ごめんね実は…」


「お前いくつだ?」


「ん?7歳だけど…」


「オレは9才!年上だぞ!」


「あ、はい…」


子どもは年上であることでマウントを取りたいのであろうと思い、レヴィードは黙ってトレースに従う。


「トレース!お兄ちゃんのお友達の弟さんを怒鳴っちゃダメでしょ。テセラとゴーシュを連れてみんなで仲良く遊んできなさい」


「…はーい。ほらいくぞ」


「えっ、あ、はい…」(誰の弟と勘違いしてるんだろ?)


トレースはリーノに叱られて仕方なく、レヴィードの手を引っ張って外に連れ出した。

トレースは末っ子で3歳のゴーシュと2つ年上のテセラと手を繋ぎ、レヴィードはゴーシュの手を握って町の中央広場へと歩く。


「トレース…君。何かお祭があるんですか?」


「なんだ、マルトンさまのきかんさいを知らないのか?」


「う、うん。僕、ここに来たの初めてだし」


「しょうがないな。じゃあ教えてやる。マルトンさまはずーっと大昔にま王をやっつけた勇者パーティーの一いんだった大まどーしなんだ」


「へぇ」


「あ、そのはなしテセラしってるよ!まおーをやっつけたあとにこのまちにかえってきたんだよね」


「おう。で、ま王をやっつけたあともマルトンさまはモンスターとたたかいつづけたんだ!」


「うん!でも、マルトンさまがおおけがしちゃってしんじゃうの」


「でもそっからがカッコいいんだ!マルトンさまはたましーになってもせかいを守るためにたたかいつづけてくれるんだ!」


「それでね10ねんに1かいだけここにもどって3日おやすみするってママがいってたよ」


レヴィードはトレースとテセラの辿々しい昔話を自分なりに整理する。


(えっと…。つまり大昔に魔王を倒した勇者パーティーの一人にマルトンという大魔導師がいて、この祭は死後も魂となって戦う英雄(マルトン)の帰還を祝う鎮魂祭、ってところかな。10年に1回と言ってたし、結構良いタイミングで来れたね)「そーなんだ」


「そうだ!すっげぇだろ!」


トレースは自慢気に鼻を鳴らす。


「ほら、ここがまつりのかいじょーだぞ!」


「あれがマルトン様?」


「そうだ!」


町の広場は道以上に派手に飾られており、旗や提灯(ランプ)以外にも屋台や出し物用の舞台(ステージ)も設置されている。そして広場の中央にはマルトンと思われる白髭でローブを着た老人の像が堂々と建っていた。


「あ!フルーツあめ!」


「あ、テセラ!」


テセラが見つけたのは飴でコーティングされた果物の串を売る屋台で、トレースの手を離れて一目散に走る。



ドン!



テセラが誰かにぶつかって尻もちをつく。


「ん?なんだ~?」


テセラがぶつかってしまったのは肩幅の広いマッシブな男である。


「よく見ればザブロスのところのガキじゃないか」


その大男はテセラの事を知っているようで、下卑た笑みを浮かべる。


「あれはゲリュオン!くそ~!」


トレースは急いで駆け出す。


「ぶつけられて足が折れちまったよ~!?いって~よぉ!どーしてくれるんだ!?あ!?」


「ひっ…ひっぐ…」


「やめろ~!」


ゲリュオンの怒声にテセラが泣き出しそうになるが、そこにトレースが割り込む。


「トレース。お前もいたのか」


「ウソつけよ!足がおれるワケないだろ!」


「いいや。お前の妹が俺様に怪我させたんだ。責任としてオメェの姉ちゃんに嫁になって貰わねぇとなぁ?」


「姉ちゃんはかんけーないだろ!」


「姉ちゃんはダメか?じゃあコイツを半殺しにいたぶるかぁ!?」


「やめろ!姉ちゃんにもテセラにも手をだすな!」


トレースは必死に叫ぶが、誰も助け船を出すような大人が現れない。


(みんなあのゲリュオンを恐れているし、面倒事に巻き込まれるのが嫌なんだろうな。じゃあ余所者が手を出すか)「ねぇゴーシュ君」


「んあ?」


「ちょっと離れるからそこから絶対動かないでよ」


「うん」


迅雷脚(イナヅマアクセル)


シュン、ドカ!


「ぐぉ!?」


レヴィードの迅雷脚(イナヅマアクセル)の加速が乗った蹴りが脇腹を捉えてゲリュオンを大きく吹っ飛ばした。


「…!」


突然起きた出来事にトレースは目をパチクリさせる。


「トレース。テセラとあっちのゴーシュを頼むよ」


「う、うん」


トレースは呼び捨てにされても怒ることなく、レヴィードの指示に従って下がる。


「くっそ!!痛ぇじゃねぇかクソガキ!」


蹴られたゲリュオンは起き上がり、腰に差した剣を抜いてレヴィードに近づいた。


「ん?折れた足はもう良いのかい?蹴られて骨折が治るとは奇妙なもんだね」


「この~!このマルトン最強の戦士、ゲリュオン様に舐めた口利きやがって!」


「ふーん。子ども相手にイキるのが最強の証かい?」


レヴィードの度重なる挑発にゲリュオンの理性の糸がプッツンと切れる音がした。


「こんんのぉぉぉ!!」


「遅い」


「おぇっ!!」


ゲリュオンの大振りで隙だらけな上段に対し、レヴィードは肘打ちの突進を鳩尾(みぞおち)に入れる。


「どうしたんだい?こっちは剣すら抜いてないよ」


「グゾ…っ!」


ゲリュオンを叩きのめした時である。






「シュェラブオーーン!!シュェラブオーーン!!」






聞いたこともない不気味な雄叫びが町中に響き渡る。


「魔獣だ!魔獣が鳴いたぞ!」


「よりによってこんなめでたい日に!!」


住民は一斉に恐れ戦き、耳を塞ぐ。


「一体、何が…?」






町が謎の雄叫びで騒然となった後、レヴィードはトレース達を連れてアインスの実家に戻った。


「トレース!!テセラ!ゴーシュ!大丈夫?怪我はない?」


「うん」


リーノは我が子を抱き締めて無事を確認する。


「…レヴィード様、ご無事で」


「うん。でも変なことがあってね。ぺルル達も聞いた?」


「ええ…」


「リーノさん。あれは何ですか?」


「…お話ししますので、とりあいず家に入りましょう」


リーノは子どもを引き連れて、家に入り、レヴィード達もそれに続いた。

全員が床に座り、リーノは顔を青ざめながらもあの雄叫びについて話してくれた。


「…これは私の祖母から聞いた話なのですが、ずっと昔から西の丘に住む魔獣が吠えた声だと言われています」


「西の丘の魔獣?」


「はい。その不気味な声も恐ろしいのですが、さらに不気味なことにその魔獣が吠えた数日中の間にこのマルトンに不幸な出来事が起こるのです」


「おっかねぇなぁ。でも、偶然じゃねぇのかなぁ」


「ここの住民はそう思いたいのですが、私が知る限り、必ずそうなってしまうのです」


「…不幸というのは?」


「祖母や母から聞いた話では私が生まれる以前は疫病が発生したり、モンスターの群れが襲ったり…最近では半年前に吠えた日の夜中に町長の家に強盗が押し入って町長が亡くなってますし…この前の大日照りで熱中症にかかった人も大勢います…」


「しかし、そんな存在ならばロマニエの聖騎士団もギルドも黙っていないでしょう。討伐の動きはなかったのですか?」


「なんでも祖母の代からそういった話は何度もあったそうですが、魔獣はある程度戦うとすぐに逃げてしまうらしくて討伐できず、雄叫びによる実害もないということで討伐不可の対象になってしまったのです」


「そんなに不幸なことが起きてるのに?」


「雄叫びと不幸の因果関係は証明できない、ただの偶然の一致だと決めつけられたようです。でも、本当は聖騎士団とギルドは何度も討伐に失敗して諦めただけじゃないか、とこの町の人は言います…」


リーノが一通り話し終えると、しばらくシンと静まり返る。


「俺は…魔獣を討つ」


最初に口を開いたのはアインスだった。


「正気かい?」


アインスの決定にレヴィードが訊ねる。


「ああ。俺が魔法を学んだのはこの為だ」


「だけど相手は正体が不鮮明な魔獣だよ」


「だからなんだ!俺は一人でも行く!!」


アインスが一人で部屋を出ようとした時、レヴィードがアインスの服の袖を掴む。


「一人で行かせられないよ。僕らは仲間だからね。ちゃんと作戦を立てなければ」


マルトンに不気味な咆哮と共に不幸を招き、聖騎士団やギルドが匙を投げた魔獣。レヴィード達はそんな化け物を倒せるのだろうか?





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