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第20話 美味しいパンパーガ


レヴィード達がロマニエを出て数時間。朝早く出たおかげで昼頃に宿場町・ヨリモの影が見えた。


「あの町で昼食(ランチ)休憩にしようか」


「…そうですね」


「ふひー。オラ、腹減っただよ」


昼食という響きでレヴィード達がもう一押しと足を早めた時だった。


ガランガラン!ヒヒーン!!


「ん?」


向こうの街道から猛スピードで走る見慣れない橙色(オレンジ)の箱形の荷車を引く馬車がレヴィード達に接近してくる。


「なんだあの馬車は?」


「…何かに追われてるようです」


砂塵が巻き上がるところで、馬車を追う正体が掴めた。


「あれって…ヴェナトーラの群れだね」


ヴェナトーラとは体長1.5m程の小型の竜種のモンスターで、姿はヴェロキラプトルに近く、複数頭のグループで狩りを行い、馬並みの俊足で獲物を逃がさないモンスターである。


「とにかく助けよう」


レヴィード達は馬車の方へと駆けていった。


「ひぃ~!もう、ダメ!!」


馬車は10匹前後のヴェナトーラの群れに追われ、手綱を引く女の子は涙を流していた。


「えい!」


飛氷槍(アイスランス)!」


炎尖矢(パイロアロー)!」


ヴェナトーラの群れに向けて矢と魔法が飛び交い、ヴェナトーラ達を足止めさせる。


「た、たすかったよー!」


馬車はレヴィード達とすれ違って、ヨリモの方向へと走り去って行った。


「な、アイツ!」


「別に構わないよ。それよりもターシャとアインスはこのまま遠距離で群れの左翼を攻撃。僕とぺルルとティップで右翼に斬り込むよ」


「はっ!」


「お、おう」


レヴィードの指示でヴェナトーラの殲滅にあたる。


「ほんりゃー!!」


ティップの大斧のフルスイングでヴェナトーラは吹っ飛び、


「せいっ!」


ぺルルの旋棍(トンファー)がヴェナトーラの顎を砕き、


「そこ!」


岩礫刃(ロックエッジ)!」


ターシャとアインスの矢と魔法でヴェナトーラを駆逐していく。


「シャアァッス!!」


「ちっ、一匹抜けてきたか」


しかし、ヴェナトーラは敏捷性に優れ、矢と魔法を掻い潜ってターシャに飛び掛かってきた。


迅雷脚(イナヅマアクセル)


しかし、それはレヴィードの神速の突きによって阻まれ、ヴェナトーラは喉を貫かれて絶命した。


「よし。今ので最後の一匹だね」


戦闘は快勝で終わり、レヴィードはアカネゾラを鞘に納める。


「さっきの馬車はヨリモの中に無事逃げられたみたいだね」


「だが礼の一言もないとはふざけているな」


「慌てて逃げてたからしょうがないよ。僕達もヨリモに寄るし、あんな派手な荷車はすぐに見つかるさ」


レヴィードは逃げ去った馬車に怒るアインスを宥めてヨリモへと再び歩きだした。







宿場町・ヨリモは特に目立った産物や観光資源はないものの、ロマニエに近いという立地もあって冒険者の行き来が多く、冒険者の休憩地として飲食店や武器屋が多い。

町中には冒険者のグループがそこら中にいて、買い物や情報交換で賑わっていた。


「さて。どこで食事を…あ」


レヴィードは非常に目立つ色のおかげで先程の橙色(オレンジ)の荷車を見つける事ができた。レヴィード達はその荷車に近寄ってみると意外な事が判明した。


「移動軽食販売…パンパーガ。屋台だったんだ」


橙色(オレンジ)の箱形の荷車は珍しいと思ったがそれは店の外装であり、看板を掲げて接客する為の大きな窓も空き、前には小さなベンチが2脚設置されて完全に店の形になっていた。


「いらっしゃいませ!!あっー!」


その窓から虎の獣人種(ビーストノイド)の少女が元気に挨拶するが、驚いた様子で絶叫する。


「どないしたパーフェ?」


「さ、さっきにげた時にすれちがったぼーけんしゃの人が来たよ!」


「ええっ!?」


屋台の中で騒ぎ声がした後、3人の少女が出てきた。

先程の虎の少女以外に狼とリスの獣人種(ビーストノイド)の少女が出てきた。


「先程は礼も言わず逃げてしまい、申し訳ありませんでした。改めてお礼を申し上げます」


小柄だが3人のリーダー格なのか、リスの少女がレヴィードに頭を下げて謝罪と礼を述べる。


「いえいえ。ヴェナトーラの群れは厄介ですからね。逃げるのに必死になるのも分かりますよ。…それよりもこの荷車はあなた達の店ですか?」


「あ、はい。申し遅れましたが私は一応店長のショコラって言います」


「一応?」


「えっと…その…」


「ショコラ!自分が店長なんやからシャキッとせい!!」


「ふにゃっ!」


ショコラの背中を狼の少女がバンと叩く。


「この子、ちっちゃい頃から人見知りで臆病でな。あんま他人(ひと)と長話出来んのや。あ、ウチはモンブラン言うんや。よろしゅう」


「アタイはパーフェだよ!ショコラとモンブランとは赤ちゃんのころからの おさななじみでぇ、いっしょにパンパーガを出すお店をはじめたんだ!」


狼の少女・モンブランと虎の少女・パーフェがショコラを励ますように会話に加わる。


「パンパーガ…?お店の名前じゃなくて食べ物の名前ですか?」


「…聞いた事がないな」


ターシャもぺルルもメイドとして働いていたが、そんな料理名は記憶にない。


「あ、あの…わ、私が考えた、パーガのお肉を使ったオリジナルの料理です…」


ショコラは控えめに小さく手を挙げた。


「オリジナル?ほぇぇ、すんげぇなぁ…」


「へぇ…」(パーガの料理か…)


パーガとは森に生息する鹿のモンスターで、角や毛皮の採取などで冒険者がよく狩るモンスターとして知られている。しかし、その肉は脂肪が少なく焼いても煮ても固くなってしまう、食材としては不人気な代物である。


「…それじゃあ、そのパンパーガを5個貰おうかな」


「は、はい!」


しかし、レヴィードはそんな不人気な食材で何を作るのかという興味が勝って購入を決断する。


「せや!付け合わせにポッテトはどや?」


「ポッテト?それも聞いたことないね」


「まぁ単にジャガイモ細く切って揚げただけやけど、これがごっつう美味いねん」


「そう。じゃあそれも同じく5個で」


「毎度♪全部で銀符3枚、銅貨と銅符1枚になりますぅ」


「はい」


「それでは、し、少々お待ち下さい…」


レヴィードが代金を払うと、ショコラとモンブランとパーフェは大慌てで店に入る。






レヴィード達が設置されたベンチに座って数分。


「お待たせしました」


「どうぞ!」


ショコラとパーフェがお盆にパンパーガとポッテトなる料理を乗せてレヴィード達に持ってきた。


「…これは…サンドイッチ?」


「でも四角でも三角でもない、丸いパンですね」


パンパーガは上下に半分にカットされた丸いパンにレタスとパーカの肉とソースを挟んだサンドイッチに近い軽食、ポッテトは半月状に細長く切ったジャガイモを揚げたものである。パンパーガは紙に包まれ、ポッテトは紙コップに詰められて提供された。


「美味そうだなぁ」


「パンで挟んだパーガの肉でパンパーガ…安直だな」


「まぁネーミングは変に捻るよりかは分かりやすさが大事だよ」


そう言ってレヴィードはパンパーガを一口食べる。


(ん!なるほど。パーガを挽肉(ミンチ)にしたんだ。それを固めて焼くことで食感が固いから食べ応えがある肉々しいジューシーさになってる。塗られたソースはステーキソースを改良したのか、肉に合ってる。挟んでくれてるパンはふんわりしつつ薄い味のおかげでズッシリした肉の旨味を際立たせてくれてる…。それとレタス。肉々し過ぎて味がくどくならないようにこれが程好く緩和しつつシャキッとした食感を加えて食べ飽きしないようになってる…。でも特筆すべきはこの調和の高さ。パンだけじゃ物足りない、肉とソースだけではくどい、レタスだけでは味気ない。全部が合わさって最高のバランスが完成してこれが美味しいとなるんだ。…それじゃあこっちは)


レヴィードは続けざまにポッテトを食べる。


(こっちもこっちでなかなか。ジャガイモを切って揚げただけらしいのに外はカリッと中はホクホクして美味しい。ホントにシンプルだからただの塩でも良いけど、カレー粉とかあっても美味しいだろうね)


「…あの、如何ですか?」


ショコラが恐る恐るレヴィードに訊ねる。


「うん。とても美味しいよ」


レヴィードは素直な感想を述べる。


「うんめぇなぁ」


「わたしはポッテトが好きですね。コップに入ってるから食べやすくて」


レヴィード以外のメンバーも口々に賛辞しか言わず、ショコラの顔色が不安から希望に変わっていった。


「こんなに美味しいなら結構儲かったんじゃないかい?」


「それは…」


レヴィードが何気なく訊いた途端、ショコラの尻尾がだらんと下がる。


「…実はこんなに買うてくれたん自分らが初めてやねん」


「そうなのかい?こんなに美味しいのに」


「いちおー、ほかの獣人種(ビーストノイド)のひとにはウケたんだけど…」


「…多分、私達が獣人種(ビーストノイド)だから…だと思います…」


獣人種(ビーストノイド)の食事は基本的に(なま)を食うか大雑把に丸焼き丸茹での調理しかなく、場合によっては虫や本来は捨ててしまう臓器等まで食すワイルド過ぎる食文化で、他種族からすれば野蛮なものと敬遠されがちなのだ。

故にショコラが生み出したパンパーガも、所詮は獣人種(ビーストノイド)が作ったゲテモノと思われて他種族は誰も買ってくれない、という訳なのだ。


(味は美味しいのに種族の偏見のせいで売れないとは世知辛いね…。なんとか協力したいけど、どうすれば…)


「あれ?レヴィード君じゃないか」


レヴィードが頭を捻っていると誰かが話し掛けてきた。


「あ、ジェイクさん!」


「ルーピンさんの護衛の時以来だな」


「お前の名前、ギルドで良く聞くぜ」


「そんなに有名になった覚えはないけどね」


レヴィードは、カナマンの手前でゴブリンの群れに襲われていたジェイク一行と偶然出くわした。



グゥゥー



突如、大きな腹の虫の音がキースからした。


「今の音は…?」


「あー、それが…」


「どの店も混んでて全然席が空かないの」


「依頼を達成してロマニエに戻る前にお昼をと思ってたのですが…」


今は昼時のピーク。どの店も腹を空かせた冒険者が集まり、列を作っている人気店もある。


「それならここでどう?この子達のお店だけど」


レヴィードはここぞとばかりにショコラのパンパーガを勧める。


「え?獣人種(ビーストノイド)のお店なんだ」


「うん。こんな感じだけど、なかなか美味しいよ」


レヴィードは自分の食べかけのパンパーガをジェイク達に見せつける。


「へぇ、サンドイッチみたいね」


「ジェイク。安いし、とりあいずの繋ぎで買っとこうぜ。もう腹が限界だ」


「そう…だな。レヴィード君も食べていることだし。すいません、俺達にもパンパーガを4つ」


「は、はい!ただいま」


オーダーが入ってショコラ達は店に戻る。

このやり取りは店に並ぶ他の冒険者達も見ていたようで、ショコラ達の店に視線が集まる。


「おいおい獣人種(ビーストノイド)の店だぞ」


「でもアイツら美味しそうに食ってるな」


「どうする?」


「おなか限界だし、食べちゃう?」


最初は空腹でやむ得ずという理由で冒険者達がショコラの店に集まるが、実際に買って食すと全員の(てのひら)が返る。


「うんめぇぇぇ!!」


「結構いけるじゃねぇか!もう3個くらい食えそう」


「ポッテトってなんだろ?そっちも頼んでみる?」


この騒ぎは水面に投げた小石が波紋を広げるように拡大していき、ショコラ達は忙殺を余儀なくされた。






30分後─


「も、申し訳ありませんが、材料が無くなったので今日は閉店になります…」


移動販売店パンパーガに初めてSOLD OUTの看板が掲げられ、集まった冒険者達が散っていく。


「ふへー。こんな働いたんは初めてや」


「いそがしかったよー」


今までにない客の量にモンブランもパーフェもその場に座り込んでしまう。


「ショコラさん、やったね」


「はい、ありがとうございます。…きっと、レヴィードさんやジェイクさん達が足を止めてくれたからだと思います」


「買い被りすぎだよ。実際にパンパーガもポッテトも美味しかったから、全員絶賛で完売したんだ」


「そう言う風に言ってもらえると、嬉しいです…」


レヴィードの言葉にショコラは今までの頑張りが報われた事から涙を流した。


「ショコラ!泣いてる暇ないで!!」


「へぅ」


「今日の売上はウチらのパンパーガが他種族相手でも充分通用するって証明や。明日に備えてパーガをガンガン狩らんと」


「そうだね!アタイたちのでんせつはこれからだよ!」


「モンブラン、パーフェ…うん…うん…」


モンブランとパーフェの励ましにショコラは涙を堪えて力強く頷く。


「ところでショコラさん達はこれからどうする気なの?」


「…私達はロマニエに行ってみようと思います」


「ロマニエ…大きく勝負に出るね」


「はい。材料を調達でき次第開店したいですけど…場所はどうしようかと」


「…あ!それなら僕に良い場所の心当たりがあるよ」


「本当ですか?」


「ああ。ちょっとベンチを借りるよ」


レヴィードは自分の荷物からペンと便箋を取り出し、ベンチで書き始めた。


「…できた。はいどうぞ」


レヴィードは書いた便箋を封筒に入れてショコラに渡す。


「ちなみに何処なんや?」


「ロマニエのギルド本部前の広場だよ」


「おお!確かにそこなら冒険者は必ず通るし、ギルドの職員も昼に買いに行くな!」


レヴィードが示した候補地にジェイクは感心する。


「でもそんな凄い場所…。販売の許可がギルドから降りるのでしょうか?」


「そこでこの手紙さ。これをギルド本部のアイネ・コビッチスキー副代表にレヴィードからの紹介だと見せれば、きっと力になってくれるハズだよ」


「何から何まで、本当にありがとうございます」


「なーに。あんなに美味しいものを食べさせてもらったお礼だよ。それに僕がやったことは、例えるなら良い釣り場を教えただけのようなもの。実際に商売繁盛という釣果を得られるかはショコラさん達の手腕に掛かっていることを忘れてはいけないよ」


「はい!頑張ります」


レヴィードの励ましに人見知りで臆病な筈のショコラは大声で返答する。


「さて。良いお昼も食べたし、僕達も出発するか。それじゃあ、ショコラさん。ご縁があったら、またパンパーガを頼むよ」


笑顔でそう言って、レヴィード達は去っていった。


「レヴィードさん…」


「不思議だな、レヴィード君は」


「えっ?」


ショコラ達がレヴィード達の遠い背を見送る中、ジェイクがレヴィードについて話した。


「俺達は以前ゴブリンの群れに襲われた時に助けてもらったが、あの子はなんと言うか…良い意味で子どもらしくないんだ。飄々としてて、俺達の半分も生きていない筈なのに力も知恵も心も頼もしくて、ずっと年下なのに尊敬している自分がいるんだ」


「そうですね…。私も会って間もないですが、不思議な魅力を感じる子でした」


「なんや?もしかしてレヴィードはんに惚れたんか?」


「ち、違うよ!?た、ただ…私達よりもずっと小さいのに、なんだか私達より年上のお兄さんみたいな…温かい人だなって…」


ショコラは顔を真っ赤にしながらレヴィードの人柄をそう端的に表現した。


(…レヴィードさんがこの先も無事に旅を続けて、いつの日かどこかで会って、また私達のパンパーガを食べて貰えますように…)


ショコラは恩人のレヴィードの平穏な旅路を祈らずにはいられなかった。





読んだら分かりますが、パンパーガはぶっちゃけハンバーガーですね。ただジビエのシカバーガーが美味しかったのでそれを盛り込みました。

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