第14話 アカネゾラ
レヴィードは冒険者プレートを受け取ってから、あれこれ説明を受けて一旦ギルドから出た。
「…依頼を受ける前の準備としてレヴィード様のしっかりとした武器が必要ですね」
「そうだね。これから先、ギガントポッグのようなモンスターに出くわしたら厳しいし…。魔法だけじゃなくてしっかり接近戦も出来るようにしないと」
ぺルルの言う通り、レヴィードが武器として使っているのは屋敷から持ち出したサバイバルナイフ。他の冒険者にしたら動物の皮を剥いだり邪魔な蔓を刈ったりする程度のもので、主武装にするものではない。
「ロマニエには武器屋が色々ありますから見てみましょうよ。ほら、あそこに早速」
ターシャに連れられてレヴィードとぺルルは武器屋に入った。
「ありがとうございました」
しかし、すぐに出てしまうことになった。
当然だがレヴィードは子どもである。どんな武器にしても体が成長した20代前後以上の人が使う前提であり、子どもが武器を振るうなんて想定していないのだ。
今入った武器屋で販売していた一般的で安物の剣でさえレヴィードの身長と同じくらいのため振るどころか腰に差したり背負ったりも出来ない。
「…レヴィード様は成長期の真っ只中とはいえ、すぐに剣を扱えるくらいには伸びませんし…」
「困りましたねぇ~」
全員がレヴィードの武器に頭を悩ましていた時だった。
「ちょっと!そっちが悪いんでしょ!?」
「うるせぇな、このガキ!!」
人の往来のど真ん中で誰かがギャーギャー騒いでいた。何事かとレヴィード達も覗くと小さい女の子と酒瓶を持った大男が口論しているようである。女の子は10歳くらいで、豪華なドレスと髪飾りからどこかのお嬢様を思わせる。
「ミサわるくないもん!そっちがよっぱらって歩いてミサにぶつかったんでしょ!?ミサのクレープをベンショーしなさいよ!」
「酔っちゃいねぇよ!ヒック、そっちがモグモグ食い歩きしてて勝手に俺にぶつかっただけじゃねぇか!そっちこそ汚れた服、弁償しやがれクソガキがぁ!!」ガシャンッ
「きゃっ!」
大男はキレて持っていた酒瓶を地面に叩きつけて割った。
「いい大人が大人げない」
どっちが悪いにしろ、さすがに女の子の身が危険と判断してレヴィードが割って入る。
「なんだ?またガキか?コノヤロー!」
ヒョイ
「おぅ!?」
大男が殴り掛かるが、酔っ払い風情がEランクを伸してしまうレヴィードの相手になるわけがない。レヴィードは突進してくる大男を避けて足を出して躓かせ転ばせた。
「そっちの子。大丈夫?」
「ちょっと!」
「え?」
一応助けた筈だが、何故か怒る女の子にレヴィードは予想外と驚いた。
「あなたミサよりちっちゃいんだから年下でしょ?ミサの方がお姉さんなんだからその口のきき方はダメよ!」
「え…すみません」
「わかればいいのよ」
女の子は得意気な顔を浮かべる。
「それでお怪我は…ありませんか?」
「ええ。でもクレープがだいなしよ!もう気分わるいから帰る!」
「はぁ…」
「あ、そうだ!一応助かったし、お菓子くらいあげるわ。ミサの家に来る?人にたすけてもらったらお礼をしなさいっていうのがママの教えなの」
「そ、そうですか…」
女の子の恐ろしい程のマイペースにレヴィード達は巻き込まれ、半ば強引に連れていかれた。
助け出した女の子、ミサに連れられてレヴィード達がやって来たのはギャンポリー商会の本店であった。
「あれ…ここって確か…」
「そうよ。このロマニエでもサイコーのショーカイ、ギャンポリー商会よ?スゴイでしょ♪」
レヴィードはミサにグイグイ引っ張られて店の中に入る。
(ほぅ…)
さすがはロマニエ随一を名乗る商会の本店だけあって先程覗いた武器屋よりもグレードが高そうな剣などの武器を始め、盾・鎧などの防具、装飾品、高級な薬品や宝石など、その幅広くかつ上質なラインナップにレヴィードは思わず感嘆する。
「あ、お嬢様。お帰りなさいませ。おや、そちらの方は…」
「あ、ルーピンさん。あの節はどうも」
「え?ルーピン、この子と知り合いなの?」
「ええ。私がこの間、荷の運搬から帰る時に出会った旅人の子どもの話をしましたよね。その子ですよ」
「へぇ~」
ミサはホントかな~?と懐疑と興味が混じる視線でレヴィードを見つめる。
「それでレヴィードさん。お嬢様に連れられてどういったご用命で?」
「ええ実は…」
レヴィードが事情を話そうとした時だった。
「あーら♪ワタシの可愛い娘が帰って来たざますね~♪」
「あっ!ママ~♪」
ミサは階段から降りてきたマダムをママと呼んで駆け寄る。これから王族の舞踏会に出るのかと思う程の豪華絢爛なドレスに、大きな宝石で彩られた指輪を両手に2~3個付けており、顔はやや濃い目の化粧をしている。
「どうしたざます?」
「さっきおでかけしたけど、よっぱらいにからまれたところをあの子に助けてもらったの!」
「まぁ!」
ミサの母親はカツカツと階段を急いで降りてレヴィードの元にやって来る。
「まぁ可愛い坊やざます。ワターシはギャンポリー商会夫人のマダム・パピヨーネざます。娘を助けていただき、感謝するざます」
「いえ。成り行きでしたし、お気になさらないで下さい」
「ママ!それだけじゃないのよ!この前のルーピンのうんぱんの時、ゴブリンのむれから守ってくれたんだって」
「まぁ、そんな事まで!!重ね重ねなんとお礼をすればいいざますか!?」
「…それではここの武器を見せて欲しいのですが…」
レヴィードはパピヨーネに自身の武器を探していることを話すと娘と商人を助けた礼として、どんな武器でも半額で売ってくれることになった。
「うぉっ、重い…」
レヴィードは色々な武器を手にしてみる。ギャンポリー商会の武器は品揃えが豊富だが、やはり武器の長さがネックとなった。また、低身長の種族であるドワーフ用の武器も見せて貰ったが、それでも長く、また重量も問題となった。
「品揃えには自信があるのだけれど…面目ないざます…」
「いえ。僕自身の身長が問題だったので。やっぱりここは良いナイフとかを…ん?」
レヴィードがナイフで妥協しようとしていたところだった。ショーケースの端に目に止まるものがあった。
「ルーピンさん。すみませんがこの剣を」
「あ、はい。どうぞ」
レヴィードがルーピンに取り出して貰ったのは、少し反っている1本の短い剣である。
「重さは…合格だね」
レヴィードは、先端に藤鼠の浮雲の模様をあしらった黒の鞘から剣を抜く。剣の刃はおよそ50cmの銀色の片刃で、光の加減でうっすらと刃文に荒波のような紫色の模様が浮かび上がる美しい剣である。
「値段は…ん?」
値札を見ると最初は金貨50枚だったのが、赤線で引かれ40枚、25枚と減り、最終的には金貨5枚という値引きにレヴィードは首を傾げる。
「あの、マダム・パピヨーネ。この剣は一体…」
「それはドーンの名鍛冶職人が打ったもので確か短い方は…アカネゾラだったざます」
「短い方?」
「ええ。元々その剣は長剣とその短剣の二本一組で使う前提のものだったんざますが、2年前だったざましょうか…金が無いからと長剣の方だけ売ってくれという冒険者がいたようでして」
「そうなんですか…」
「ワターシが出張中に売ってしまったらしくその後は行方知れず。残った方を売ろうと思ってもナイフにしては長すぎて携帯に不便、戦闘で使おうにもリーチが短くて不便と全く売れず。値引きに値引いてその値段になったざます」
「ふーん」
レヴィードはアカネゾラをまじまじと眺める。
「短い長さが今の僕にピッタリだし…決めた。僕、これにします」
「そ、そうざますか?」
「ええ。自分が一番上手く使える武器が一番の武器ですよ」
レヴィードはそう笑って代金を支払った。
かなり勿体ぶって書いてますが、要は脇差です。




