047 人外人生、最大の危機
正座し、俯いたままの勇者。
お互いに肩で息をしている状態だ。
……まあ、俺はなで肩だけど。
「……で? お前、本当の名前は?」
「……愛理子。……北瀬愛理子」
「DQNネームか」
「DQNゆうな!!」
今、めっちゃ俺の顔にこいつの唾が飛んだ……。
でも普段からベトベトしている俺に死角は無い!
「DQNネームのDQN世代にしつこくストーキングをされてた大野教授があまりも可哀想だな」
「世代は関係ないでしょう! これは私の問題だ! 同世代に謝れ!」
もうやけくそ気味になっている北瀬という女子高生。
というかずいぶん変わったストーカーだと思う。
確か大野教授から聞いた話では、それなりに美形の女子高生だったとか。
ただ、あまりにも性格に難があるというか――話をするだけでも疲れてしまい、声を掛けられても避けていたらしい。
「お前、大野教授のどこが好きなんだ? 別にそこら辺にいる『気のいい先生』ってだけだと思うけど」
「ふふ、あなた分かっていないわね。大野先生の可愛いところは、頬に4つと首筋に2つ、それに左手の甲に1つと右腕に2つと膝の裏に1つあるホクロなの」
「気持ち悪い! お前の観察眼、ストーカー気質ありすぎて気持ち悪い!」
こいつ……本物だ……!
見すぎ! 大野教授のこと、普段から見すぎ!
そりゃストーカーだと思われる!
「自宅に帰るのは決まって夜の22時。シャワーを浴びている間に電子レンジでコンビニのお弁当をチンして、お風呂上りに飲むのはプレミアムビール。テレビのリモコンを点けてニュースを見て、二本目を空けるころには大きく欠伸をして……。ふふ、すごく可愛い欠伸なの。あとは何が知りたい?」
「もう怖いからいいです!」
これアカンやつや。
もう関わらないほうがいい。
俺はそのままちょっとずつ後ずさる。
「待って。どこに行こうというの」
俺に向かい右手を伸ばした北瀬。
なんか顔が引き攣ってて余計怖いんだけど!
「……いつもそう。私の周りにはいつの間にか誰も居なくなって……私はいつもひとりぼっちで……」
声のトーンがめっちゃ低い。
というか後ずさる俺と同じペースで、ちょっとずつはいはいしながら俺を追ってきている……!
「ねえ、どうして? どうして私は友達がいないの?」
「性格がアレだからじゃないかな!」
マズい……!
このままでは俺の命が危ない気がする……!
「私……このままじゃいけないってことは分かっているの……分かっているんだけど……誰も私を受け入れてくれないの!」
「痛い! やめて! その手を放して!」
「放さない! 絶対に放さない! もうこの際、大野先生じゃなくてもいい! どうせ叶わない恋だもん! 友達もいない、恋人もできない! だったらもう…………人外でもいい!!!」
「ぐ……ぐるちぃ……!!」
全身を締め付けられ、今にも昇天しそうな俺。
嗚呼……短い人生だった――。
ぴろろりーん。
「え?」
「……ん?」
なんか俺達の頭上で変な音が鳴りました。
あまりに突然のことで俺達はキョトンとしたまま上空を眺めています。
《おめでとうございます。貴方の【パートナー】が決まりました。これより【勇者アリス】は、貴方と共にこの世界を生き抜くための良き理解者となるでしょう》
「……」
「……」
しばし固まる俺。
これは……つまり、どういうこと?
「……ふ……ふふ……ふふふふふ……」
不気味に笑い出す北瀬。
さすがにもう慣れてきたけど、でもやっぱ気持ち悪い……。
「やったー! 【パートナー】だって! ねえねえ! 【パートナー】だよっ!」
「……何が?」
「これはつまり、つまるところ、『結婚』ってことだよね!」
「何がっ!?」
羽交い絞めにされたまま俺は恐怖に身を竦めるしかできない。
「きた……! きたきたきた……! ずっと友達すらできなかった私が……! 男子に告白しても逃げられてばかりの、この私が……! 遂に、ついに、つ・い・に……! …………結婚っ!!」
「じ……じぬ……」
「ああ、今日はなんて日なの! 神様、本当にありがとう! 相手は人外だけど、一生添い遂げることを誓います!」
「か……かんべん……し……て……」
「え? 『俺もお前のことを愛してるぜハニー』? きゃー! もうこのヅラ無し! もう、きゃー!」
完全にイってしまっている北瀬に締め付けられ、俺の意識は徐々に遠退いていきます。
俺……一体これからどうなってしまうんだろう……。
USER NAME/桂いさむ
LOGIN NAME/ヅライム
SEX/???
PARTNER/勇者アリス
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