せんせい、せんせい、それはせんっせぇいぃ~♪
思いつかないので、仮です、仮!
やぁみんな、スネアだよ!
言い忘れていたけど、ウチのお袋は「スネちゃま」「~ザマス」って言わないんだぜ。
がっかりだよな!
いや正直、言われたら引くけどさ。
前回までのあらすじ
がんばった。俺たちがんばった! 社交界デビュー!
↓
調子にのった。
↓
お偉いさんに目をつけられた。
↓
第一王子の側近にされた。 ←今ココ
↓
第二王子が即位
第一王子一派粛清される
うん、順調に進んでるね! 回避したはずの危険地帯ど真ん中ですよ!
いーやーっ
さてさて、王宮から出た俺たちが速攻で向かったのは、当然ジャスティンの屋敷だ。
途中でどうにか馬車拾えたけど、役職のことといい帰りの足のことといい、一切説明しないロンシャルドご当主には本気でダメ出ししたい!
ジャスティンはお茶の時間だったらしく、夫婦そろって庭園でくつろいでいた。
そんなところを邪魔しちゃって大変申し訳ありませんっ。でも一大事なんですよ~っ。
ジャスティンの奥方レネさんは、めっちゃ美人だけど、ちょっと風変わりなご婦人だ。どう変わっているかというと、貴族でありながら店を持ち、自ら切り盛りしている。かといって商人出身かと言うと、そうでもない。彼女はいわば、デザイナーだ。それも服のじゃない。
なんと、家のデザイナーなのだ。
日本風に言えば、建築家でインテリアデザイナーで、なおかつ造園家。ざっくりと言うなら住宅のトータルプランナー。
この世界に国家資格はないからね! 言ったもん勝ちだよね!
建築基準とか、耐震構造とか、日本人的にはものすごく気になるけどね! とりあえず、俺の住んでる国には地震はめったにないそうだ。内陸の平地だしな。
実はレネさん。かなりの売れっ子だ。
センスが良く、伝統建築の中に斬新さを忍ばせたユニークなデザインが評判で、旦那と子供を置いて国のあちこちを仕事に走り回っている有能なキャリアウーマンというわけ。前にジャスティンが、オハラ領がダメになっても奥さんに食わせてもらえるから大丈夫とか、真顔で言ってた。マジ笑えない。
しかも、仕事柄外に出ることが多いので、男装してたりする。
あれですよ、ヅカ張りの男装の麗人。ジャスティンの趣味ってわかんねーっ! いや、見ようによっては最高なのか? レネさんのようなタイプは、普通の男じゃまず落とせない。
さすが、紳士は奥が深いぜ。
庭に案内されて来た俺たちを見たとたん、ジャスティンは顔をしかめた。
今日俺たちが呼び出されたことを、知らなかったらしいが、服装を見ただけで何か察したらしく。
「聞きたくない」
バッサリきました。
「その言い方はないでしょう。わたくしは下がりましょうか?」
「ぜひ聞いてください! レネさんのお力を貸して頂きたいんですっ」
「レネは下がっていいぞ」
「もう、ジャスティンたらっ。大人気ないでしょう」
「人の嫁に縋ろうなんて、10年早い」
「男のシットは見苦し……アイタタッ」
ジャスティンに耳を引っ張られた。わざと子ども扱いする時に使う手だけど、これホントに痛いので許してください!
俺がジタジタしている間に、ジャイスとノービスは使用人たちから椅子や茶器を受け取り、さっさと着席していた。なんだろう、この差。友情のあり方について考えてみたくなった。特にノービス、お前空気読みすぎだろ。
そんなこんなで、どうにか場が落ち着き、事の次第を説明。
今回のジャスティンは予想と違い、額を押さえて嘆息するだけで終わった。
「あれ、そんなに驚いてない?」
「驚いているが、呆れの方が強い。大公家がまたずいぶんと、姑息な手を使ってくるとな」
「んん? ごめん、話についていけてない」
「なんで僕たちを起用すると姑息なの?」
「兄上、話がみえない」
「その頭は飾りじゃないんだよ? もうちょっと回そうか」
いやほんと、俺たちそんなに頭良くないんですって。
「ロンシャルド家は、今一番勢いのあるシャイム王子と手を組みたい。かといって伝統を重んじるべき大貴族が、継承権最下位に軽々しく擦り寄るのは問題が多すぎる。それに大貴族の中にもシャイム王子を好ましく思っていない一派がいて──主に男性なんだが──これが馬鹿に出来ないんだ」
ここまで付いてきてるか、と俺たちを見るジャスティン。だ、大丈夫だぞ!
「そこで、ライバルであるデルーゾス王子側に自分の息がかかった人を送り込み、一見ロンシャルド家がデルーゾス王子側についたと見せかけて、シャイム王子に揺さぶりをかけるつもりなんだ。
ここで大事なのは送り込む人選。デルーゾス王子を有利に導く可能性のあるもの、つまり才能にあふれ、人望も人脈もある人物ではいけない。かと言って、明らかに戦力外な人選だと意味がない。
お前たちはその点、理想的だ。能力はないが、他の貴族たちを納得させるだけの教養がある。下位貴族のデビューしたての若造だから、何かを企てそうな人脈も人望も財源もない。そのうえロンシャルド家の意向に逆らう力量もないと思われている。
シャイム王子自身はどうか知らないが、彼の周りにいる側近の女達は有能な者が多い。お前たちの素性などすぐわかる。かならずロンシャルド家の思惑を見抜いて、王子に持ちかけるだろう。なにしろ、大公家とつながりをもてば、王位継承への道のりはかなり有利になるからな。
結果、シャイム王子の方から接触してくる可能性はかなり高くなるんだ。ロンシャルド家から何一つ、直接的な勧誘をせずにな」
苦虫を噛み潰したようなジャスティンとは異なり、俺たちはようやく合点がいってスッキリ!というカンジだ。
「わかってるのか? お前たちは最初から捨て駒と見なされているのだぞ。けして将来を有望視され抜擢されたわけではない」
そう念を押すように言われても、俺たちは互いを見合わせて肩をすくめただけ。
「んー、予想の範囲内かな」
「そういうものじゃないの? 僕たち下っ端貴族なんて」
「別に捨て駒にはならないぞ」
ジャイス……とその場の全員が彼を無言で見つめる。
「あのなぁジャイス、それは確定してるから。俺たちじゃ大貴族相手に何もできないんだ」
「だが、スネアは何かするんだろう? そのために用意するって」
「あー…」
「そうだね、言ってたね。で、何をするの?」
「わたくしはどう力を貸せばいいのかしら?」
ジャスティンの目が怖い~。
「いやあのね、すごい事はしないから! ただちょっと、デルーゾス王子が生きやすくなればいいかなって思ってるぐらいだし(俺たち自身もね)」
「それだけでも、十分すごい事になると思うのだが」
「そ、そうかな?」
「あの王子は放っておけば廃嫡されて終わりだ。ヘタに動けば消される。それが周知の事実となっている今、生きていくことは非常に困難だ。この先、もっと辛いことになるだろう。その状況を改善しようとしたら、生半可なことでは到底かなわない。それでも手を貸すと言うのかい?」
それは、とても静かな口調だったけど。
ジャスティンから、俺の決意と覚悟が試されていたと思う。
でも俺以外、誰も知らないんだ。
これだけ三人の性格も環境も変えてきたのに、敷かれたレールが強固で脱線できないでいることを。
そして俺たちのレールはあと3年分(いやもう2年とちょいか)しか先がない。
俺たちはシャイム王子に楯突いていないはずなのに、結果的にはそうなっているから、おおまかストーリーを変えるのはおそらく無理なのだろう。たとえばシャイム王子の即位とか。
ただ、俺がしたことに起因してか、世界は少しづつズレている。
俺が覚えているゲームのデルーゾス王子は、あんなに暗くて落ち着いた性格じゃなかった。他にも、俺が気付かないところで何かが起こってる気がする。
だから、道筋をほんの少し動かすことはできるかもしれない、と考えたんだ。
それでもって最終的な結果をちょっぴりスライドさせられるかも、と。
それに、なにより。
「放っておけないだよ。殿下は身分を除けば、俺と同じ境遇だ。でも俺にはジャイスとノービスがいて、ジャスティンがいた」
「あら、わたくしは?」
「……麗しのレネさんも。仲間がいるってだけで、俺は生きることが楽になった気がするんだ。きっと一人だったら潰れてたと思う」
「俺だって同じ」
「僕もだよ」
「うん。だからさ、王子様相手に不遜だろうけど、気持ちだけなら殿下の仲間にはなれるんじゃないかなって。俺たちじゃ、シャイム王子をどうこうできないし、今の流れを変えることはできないよ。それはわかってる。でも側にいて、生きる環境を整えることくらいはできると思うんだ」
「環境? 境遇ではなく?」
首をかしげるジャスティン夫妻。
ジャイスとノービスはと言うと。
「あれは、あんまりだったよね。僕、涙が出ちゃったよ。暗くて狭い離宮に、たった一人だなんて」
「ああ。警護の騎士も侍従も女官も置いてない、通いのメイドがたった一人だなんて、俺たちより酷い。俺は自分でお茶も淹れられないのに」
「碌なモノを食べてないのが丸分かりな痩せ方だった。謀殺される前に餓死してもおかしくないな」
ほんのさわりだけだが暴露された殿下の生活に、夫妻は返す言葉もない様子。
確かにデルーゾス王子は人気がない。このままいけば明らかにシャイム王子の治世となる可能性が高い。しかし仮にも世継ぎ候補の王子相手にそこまでやるか、というのが皆の共通の意見だった。
どこの世界でも政治の場は血なまぐさい残酷な場所だが、守らなくてはならないものが存在する。
それは権威だ。
日本の天皇のような象徴ならともかく、ウチのような世襲制の絶対君主制国家は、王族の血統の権威でもって国が治められてわけで、貴族や騎士は、国家よりも王家の血統に忠誠を捧げている。
なんで国にじゃないの、と思うだろ?
理由はカンタン。戦争やなんだかんだで(時の王様の気分で、という事もあったらしい)、国名がコロコロ変わっちゃうからだ。ウチだって、今のドラモンド王国と名乗ってまだ百年チョイ、といったところで、国の大きさも常に変動している。でも血統は数百年続いている老舗レベル。
そりゃあシャイム王子も王の血を引いているけど、デルーゾス王子と比べれば、権威うんぬんが言える立場じゃない。血統書つきのお猫様が野良猫と交わって出来た子猫には、血統書が意味をなさないのと同じこと。
今そう考えると、さすがゲームといったところかな。エロゲーとはいえ、もともとありえない物語を成す為のシミュレーションなのだから。
そういうワケで、影でコソコソいじめがあるぐらいなら日常茶飯事だが、目に見えるカタチで正統な王子を冷遇して、それを周りが許容しちゃってる今、血統はないがしろにされたも同然で、その権威はかなり危うい状況なのだ。
「今の王宮は、とても愚かな場所なのね……」
レネさんの意見に、皆うなずく。
「そうね。それだったら、わたくしの力が少しは役に立つかも。いいかしら?」
「ふう。仕方ないな」
「やたっ、ジャスティンのお許しが出た!」
「ただし!」
「おっと」
「お前たちだけに任せるには無理がありすぎる。自分の嫁を危険にさらす訳にはいかないからな。次期子爵程度の俺では力不足だが、ツテがある。テスロ!」
ジャスティンは年嵩の使用人を呼び、使いを出した。
「私の先生に、助力を頼もうと思う」
「ジャスティンの先生!?」
俺たちトリオが驚きでのけぞる。
「この私とて、その昔はお前たちと同じ生徒だったのだよ? 誰にでも教師はいるものだ」
「結婚式以来ですわね。お元気でいらっしゃるかしら」
「兄上の先生……?」
「ジャイスが生まれる前からの付き合いだ。お前が物心ついた頃にはもう引退されていたからな。私は、
先生の最後の教え子なんだよ」
ジャスティンの若かりし頃という聞き捨てならないフレーズに、激しく食いついた俺たち三人は、状況を忘れて盛り上がってしまった。
レネさんがここぞとばかりに、二人の恋の顛末を話しだすものだから(ジャスティンが止めたが無駄だった)、盛り上がる盛り上がる。男の子だって、恋バナが好きなんだよ!
しかもそれが最強の紳士の入れ食い武勇伝とか! 難攻不落な高嶺の花に挑む波乱万丈なラブサスペンスとか! 聞きたいだろう、ヒトとして! というかレネさんの実家がヤバかった。なんだよサスペンスって。
気が付いたらかなりの時間が経っていて、使いに出していたテスロが返事を携えて帰ってきたところだった。
「ご苦労だったな。先生にはお会いできたか?」
「息災のご様子で、明日午前の訪問を許されました」
「わかった。では明日、ユグナスタ先生の所へ伺うとしよう。いいな、お前たち」
ユグナスタ……? はて、どこかで……。
で、翌日。
俺たちとジャスティン夫妻は、王都からやや離れた郊外の大きくて古めかしい屋敷に出向いていた。
元・王宮筆頭侍従長、ユグナスタ・リドリカイン侯爵のお屋敷だ。
先代の王の頃に采配を振るっていた大御所で、引退してはいるものの、その影響力は今なお広範囲に及ぶとのこと。
「ジャスティンは、ものすごい人に師事していたんだねー」と、ノービス。
「ホントになー」と、俺。
「さすが兄上」
「ブラコンは黙ってろ」
「スネア、ぶらこんって何?」
「兄ちゃんダイスキーってこと」
「おう」
「ああ、そうだね。うん。ジャイスは黙ってるといいよ」
「……お前たち、頼むから先生の前では余計なことを言わないでくれ」
驚きが飽和状態になると、通常運転になる俺たちです。
「よく来たなジャスティン。12年ぶりか?」
「長らくご無沙汰しております、先生」
通された客間で対面した人物は、なかなかのインパクトだった。
中肉中背の痩せ気味体型の見事なまでの真ん丸ボウズ頭に、某日本国民的アニメで海産物一家のナミ○イのような一本のチョロ毛。好々爺然とした表情に、なぜかクールなモノクル装着。チグハグってもんじゃない。バリバリの違和感。だが、そこがエロゲークオリティ!……ん?
「ユン爺!?」
「……なぜ、その名を?」
間違いない、この爺さんはゲームに登場していた人物だ。
しかもゲーム主人公に関わりにある、というかものすごーく関わっている。ぶっちゃけ、ゲーム序盤のキーパーソンだ。
下層民出身の主人公に王族としての教養を授け、ゲーム主人公が王宮にあがるきっかけとなった、幼馴染の少女の祖父。
つまりは、ゲーム主人公の先生なのだ。
あれでも、ゲーム主人公はもう王宮にいるよな? 7歳のお披露目の頃からいたし。
じゃあユン爺とは師弟関係じゃないのか?
いやいや、大事なのはそこじゃない。
………幼馴染のあの子はどうなった??
仕事忙しいのに、引越しがぁっ。




