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ノービス

ツッコミ体質なノービス視点です。次回からは主人公に戻ります。

布石が微妙。まぁいいか。



 ラノビルズ家は、田舎の領主の息子が一念発起して騎士になり、功績をもって準男爵の位を賜った。

 いわば、成り上がりの家。

 貴族のはしくれとはいえ、由緒はないに等しい。

 ちなみに準男爵とは三代限りの爵位のことで、よほどの功績を挙げて昇格しない限り、爵位は返上される決まりだ。


 そんな家の子供に求められるのは、優秀な騎士となること。

 お祖父様から始まり、息子とその兄弟たち、孫たちはすべて幼い頃から騎士となるよう鍛えられる。おかげで、父様も叔父様たちも兄様たちも、唯一の女兄弟である姉様も、みんな立派な脳筋だ。

 脳筋というのは、スネアに教わった。頭の中まで筋肉で出来ているなんて、嫌だよね。


 僕、ノービスはそんな家の末子で四男坊。

 末っ子は可愛がられるというけれど、あいにく僕は鬼子扱い。

 僕が生まれた時はかなりの難産だったそうだ。そのせいなのか体が小さいし、丈夫じゃない。

 運動は嫌いだし、痛いことはもっと嫌いだ。血を見るのも嫌だし、誰かを痛めつけるのはもっともっと嫌だ。朝早くから手のひらを肉刺だらけにして木刀を振るうより、家でゆっくり寝ていたい。

 本を読んだり、草花を育てたり、虫を捕まえて観察するのもわりと好きかな。


 こんな性格を、僕の家族は嫌う。

 せめて魔法学の才能があればよかったのにと、ため息混じりに言われる。

 いつも怒鳴られ殴られ小突かれるから、僕はますます閉じこもった。

 痛いことは嫌だから、人の顔色をうかがい、殴られる前に逃げるようにしていた。

 家族は僕を嫌いじゃないとは思うけど、好きでもないのは知っている。



 スネアとジャイスとの出会いは、僕にとってはそう、世界が変わった日。


 もちろん、最初はそうは思わなかった。

 ジャイスは乱暴モノで、返答ができずにいると殴りかかってくるんだ。

 スネアはそれを止めてくれるけど、強くないから一緒に殴られる時が多かった。ただ友達になりたいんだって言われても、すぐには信じられなかったよ。

 でも人の顔をよく見てきたから、ジャイスの考えてることはすぐわかるようになった。単純だし。

 スネアも分かりやすかったけど、言ってることがとにかく不思議だった。


「もう3日も続いてるよね。なんで雨って降るのかなー?」

「天気予報が外れたからだろ」

「? 天気を誰が予報するの?」

「お天気お姉さん」

「お天気お姉さんって誰?」

「そりゃお前……って、今のナシナシ! お前はなーんにも聞かなかった! ついお約束通りに返答しちまっただろうがっ」

「お約束ってナニ?」

「ぬるぽ、ときたら、ガッ。これがお約束……ってノービス、お前そのツッコミ属性どうにかしろ!」


 さっぱり意味がわからない。

 でも会話を続けるってすごいことなんだよ。相手が僕という人間を、ちゃんと見てくれているってことだから。いるのにいないフリをされるより、ずっとずっといい。

 スネアと話すようになって、ジャイスも話すのが苦手といいつつ、ちゃんと僕と会話してくれるようになった。時々言葉に詰まって、暴力に走るのだけは困るけど。


 家の中だけだった僕の世界は、二人によって外へと広がっていった。

 スネアは臆病なのに外の世界に興味津々で、ジャイスと僕を誘ってはあちこちと歩き回った。王都は広く、子供の足なのですべてはさすがに無理だったけど、いろいろな場所を見て回ったと思う。

 時々スネアが、ここ主人公の家じゃね?!あれでも、王宮にいたよな? とか 幼馴染のあの子はどうなったんだ? とか あの事件の酒場かなー?入れないよなー あの角の店だな!いつかあそこで! とかブツブツ言ってたけど。まぁスネアだし。僕もジャイスも適当に聞き流してたら、


「なんだよ二人ともスルーかよ! ここはスネア君ってばナニ言ってるのー? って、キョドる俺につっこむトコだろ!? いつくるのかと身構えてた俺の気持ちをどうしてくれるっ」


 つっこみ待ちだったらしく、なんだか憤慨してた。面倒くさい。


 普通、貴族階級の子供が街中を歩いていると危ないんだけど(というかフラフラ出歩くことはない)、僕たちは顔どころか服装からしてみすぼらしいので、町で知り合った子供たちは長いこと、僕たちが貴族の子供だと信じてくれなかった。今でも信じてくれたかちょっとアヤシイ。


 僕たちはお金を持たないので、物を買うことができない。

 でもどうしても、屋台で売ってる甘い匂いのお菓子が食べたくて我慢できなかったスネアは、思い立って屋台の店主に交渉しだした。屋台を手伝う代わりに、お菓子を食べさせてくれと。貴族の考えじゃないよね。ちなみに僕もジャイスも手伝ったよ。これはこれで、面白い体験だった。

 屋台の店主は良い人で、スネアの質問攻めに根気よく付き合って調理器具の説明をしてくれた。なんでそんなことに興味持つのか不思議だったけど、それは数日後、あのお菓子をスネアが再現して作ってきたことで判明した。まぁ不器用らしく、そっくりとまではいかなかったけど、美味しかったよ。


「買えないなら、作ればいいじゃないっ! 甘いものがない人生なんて死んでるのと同じよっ」


 という不思議理論をふりかざしていたけど(なんで女口調?)、つまり厨房に忍び込んで作ってまでも食べようとするぐらい甘党で、甘いものを食べるためなら労力を厭わないということらしい。

 


 そんな欲望に忠実なスネアが言い出した事で始まった”紳士になるための授業”で、ますます僕の世界は広がっていく。

 魔法学や剣術の才能がない僕たちだけど、世界はそれだけじゃないって教えてもらえた。


 ジャイスの兄ジャスティンの息子が、反抗期で大変だった事があった。

 常に不機嫌で、モノを何でも投げたり壊したり。まだ3つになってないので言葉で叱っても意味がない。誰もが扱いに困っていた頃、スネアは妙なことをし出したのだ。

 子供の前でトゥルルララ~ンとヘンテコな歌と踊りを披露したかと思えば、タネも仕掛けもありません~と言いながら、どこからか鳥のヌイグルミを取り出しては消し、また取り出す。しまいにはヌイグルミの数がどんどん増えていき、両手いっぱいになった。子供はもう釘づけ。いつのまにかご機嫌になっていた。

 彼によると、マジックショー、というらしい。よく見れば服の中に隠しているのは丸分かりだったけど、幼い子供には十分だったようだ。本当は生きてるハトでやるんだけどなっ! とも言っていたが鳩を捕まえるのは大変だから、やめておいた方がいいと思う。

 なんでも、ジャスティンの屋敷にいるメイドさんがとても大変そうだったので、何か手伝えないかと考えた末に思いついたらしい。彼の原動力は常に下心だ。感心するよ。

 その後、ジャスティンの帽子を勝手にいじって、ウサギのヌイグルミを出すマジックショーもやったら、大人にもウケた。僕も最初は仕掛けがわからず、スネアは本当に魔法を使ったのかと思ったぐらいだよ。しばらく屋敷で大流行だった。

 ジャスティンにはお仕置きされたけどね。

 


 スネアを見ていると、強く思うんだ。

 欲望の力ってすごいな。

 何かが欲しいと思うなら、自分から取りに行くべきだ。

 何かを望む、気持ちが一番大事なんだって。

 あのジャイスだって、望む姿に向かって進んでいる。



 じゃあ僕の望みはなんだろう?



「ノービスはもっと、我儘言ってもいいんだぜ! 聞かないけどな!」

「それ、意味があるの?」

「あるんじゃないか? だって言わないままより良いだろ。もしかしたら、このスネア様が聞いてやらなくもない、みたいな?」

「なぁ、またアレ作れよ、甘いやつ。アレ食いたい」

「ジャイスには聞いてないし!」

「なんだよー。スネアが我儘言えっていっただろ!」

「だからぁっ!」

「僕も食べたいな」

「えーっ」



 離宮で殿下にお会いした時。

 何かがチラッと、僕の心の中で動いた気がした。

 それが何か、まだわからないでいる。


 そして、スネアがまだ僕には見えない、遠い先を目指して動き出した。

 今度はどんな望みが、彼を動かしているのかな?



 この時の僕は知らなかったのだ。


 欲望と欲望がぶつかりあう、その激しさを。

 本当の意味での、生き残りをかけた戦いの過酷さを。

 欲望の、恐ろしさを。



 王宮という欲望の坩堝を舞台に。

 互いの望みを賭けた物語の幕が今、あがったことをー……。




 

壮大な話っぽいですけど、そんなことないデス。

主人公たちが、裏でコソコソしたりガクブルしたりする話なんで……。

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