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中編



 そんなこんなで、俺たちは16歳になっていた。

 がんばった。俺たちチョーッがんばったっ!

 なんと、本日社交界デビューなのである! パンパカパーンッ!


 よくもまぁ、グレずにここまでこれたもんだと、感慨深いぜ。

 この9年、いろいろあった……ような気がするが、俺たちは脇のチョイ役候補なので、まぁその、たいした事はなかった。うん。

 毎日の勉強ずくめにストレスマッハで逃亡し、街中で果物万引きして(金もってないんだよ)食ってたのを見つかってジャスティンにお仕置きされたり、腹いせに馬の鬣にイタズラしてジャスティンにお仕置きされたり、服を改造してハトを出し入れするマジックショーしてたらジャスティンにお仕置きされたり、布を巻いて作った手製の蹴鞠でサッカーもどきをして花瓶を割りジャスティンにお仕置きされたり、こっそり裏庭で焼き芋作って食ってたらボヤ騒ぎとなってやっぱりジャスティンにお仕置きされたり……なんだろう、思い出すだけで涙が。


 三人一緒に遊んで勉強して、バカをして。

 案外長いようで早かった9年だった。

 女ッ気がぜんっぜんナイのにだけは、釈然としないがな。

 なんのための努力だと……!(本末転倒)


 だがそれはきっと、出会いがなかったからだ!


 お約束の若いメイドや幼馴染、美人な姉や美少女な妹といった初恋フラグ要員が回りにいなかったんだよ!

 姉や妹、ついでに兄に弟はてんこ盛りでいるし、みんな俺たちより顔が良く能力も高い。それにあわせて親の期待値も高かったりする。

 つまりは、俺たちと幼い頃から完全別行動なのだ。俺、姉ちゃんや妹の顔とか知らねーし。


 そんな不遇な日々も、ついに報われるのだ。

 今日から俺たちは社交界に出て、多くの人と交流していく。今こそ、俺たちの進化……じゃなくて真価が試される時!

 未知の出会いが俺たちを待っているのだ!(どーんっ)


 社交界デビューするには、実は親の了承はいらなかったりする。

 身元のしっかりとした推薦人がいればいい。

 俺たちの場合、もちろんジャスティンが努めてくれた。

 両親がどう思っているかは知らない。

 日本にいた時ほど親子関係が親密ではないから、知りようがナイともいうが。ぶっちゃけ、ガン無視されてる。何しろ衣食住、すべてにおいて親と顔を合わせない。世話してくれる召使も一人だけ。ネグレクトって言うんじゃね? もう今では、俺もノービスもジャスティンの屋敷に入り浸りだ。

 まだ30前のジャスティンには悪いが、俺たちからすれば彼のほうが親同然である。

 そのジャスティンも、実は子持ちだ。

 ジャイスの甥にあたる御歳6才のチビは、俺たちと一緒に遊びたくてしょっちゅう忍び込んできては、家庭教師に連行されている。将来の嫡男で能力が高いのだ。しかたがない。



 さてさて。

 いよいよ社交界デビューの場、お披露目パーチータイムだよ!


 今日の俺の装いは、残念ながら金がかかってない。

 礼服を新調するのは、とにかく高い。

 ジャスティンはそれくらい構わないといってたけど、やっぱなー。弟のジャイスはともかく、俺とノービスはそこまで甘えられなかった。

 でもいろいろ考えた結果、ジャスティンのお古をリメイクさせてもらうことにした。面白がったジャスティンは、弟の礼服を新調する時に、俺らの意匠とマッチするようにしてくれた。

 もともとセンスが抜群のジャスティンが手伝ってくれたこともあり、3人揃うと互いが互いを際立たせる絶妙な配色になっている。最新流行ではないが、伝統に則った、堅実で品の良いデザイン。まさに良家の子息にふさわしい出来だ。


 ちなみにチャームポイントは、「バックシャン」。


 ジャスティン曰く、顔がアレな俺たちは正面から勝負したら確実に負けるので、後姿でアピールすることが大事だそうだ。

 意外と女性達は、背中から相手のスタイルの良さを、背筋よく歩き去る姿に育ちと性格を推し量り、あの方は誰かしら?と興味を持つ。

 そこが狙い目だ。

 どんなに顔が良くても、背筋が曲がってて粗雑な歩き方をして、最新流行だが似合ってないケバケバ衣装で来られたら、そりゃあ百年の恋も冷めるって。

 俺たちはそのへん、抜かりない。

 この日のために腹筋背筋鍛えまくったからな。ジャイスなど、小太り気味だったゲームの時の面影ないし。あのノービスですら、腹筋われてるんだぜ。脱いだらスゴイのよ、俺たち。

 衣装はもちろん、背筋もスタイルもスマートな歩き方も、他の貴族への挨拶の仕方もパーフェクト。

 この世界ではないがしろにされがちな、ヘアスタイルと清潔感にも気を配ってるし、指や爪といった細かい場所のケアも万全。

 マジな話、この世界の人、たとえ貴族でも毎日風呂に入んないんだぜ。

 2日に一度は風呂る日本人からしたら、ないわー。



 そんなこんなで、会場に到着。馬車で華麗に乗り付ける俺たち。

 案内役の侍従に関心され、慇懃無礼が売りの女官さんに笑顔で送られ、会場の入り口近くにいた保護者と思しき素敵なマダムとその旦那様にも絶賛された。

 まさに輝かしい瞬間!



 キタキタキターッ! 俺たちの時代ぃぃぃっ!



 なんてことで浮かれてて、思いっきり忘れてた。

 この国の王子二人も俺たちと同じ16歳、今日お披露目だ。

 ゲーム開始は18歳。

 それまで会わないからいいや、と思っていたが……。


「「「シャイム様ぁ~っ」」」

「きゃあぁぁ、素敵ぃぃっ!」

「ああぁん、こっちを見てぇ」


 なんというか、アイドルが登場したコンサート会場、だった。

 その場の女性たちはこぞって、第二王子に殺到、ものすごいことになっている。なんと王子に魅了された野郎も取り巻きにけっこうな数いるんだから、恐れ入る。

 美貌というものは、本当に性別を凌駕するんだなぁ。


 だけどですよっ。

 俺の出会いがぁっ。

 ここで知り合う予定だったカワイ子ちゃん達がぁぁぁっ。

 俺たちの努力がぁぁっっ!!

 予定されていた、社交ダンスで颯爽とした格好よさを見せ付ける作戦がぁ。

 その後の立会食でも、さりげなく豊富な薀蓄を披露したり、得意の乗馬に誘っちゃったりするウフフアハハ作戦がぁ。

 もう帰っていいかな。


 俺たちを含め、取り残された男性が数人、この騒動を遠巻きに見ていた。

 ゲームの主人公だと認識しているため興味がない俺はともかく、ジャイスもノービスもゲームの時と違い、この9年間を品行方正に過ごしてきたため、王子に絡むようなネガティブ方向の度胸はない。

 それに境遇からか、美形の男がちょっと苦手なのだ。

 しかし、いかにヤサグレてたとはいえ、ゲームの俺たちはなんだって王子に嫌味を言うなんてことができたのかねぇ。

 まぁ、気持ちはすごくわかる。

 同い年だから、今後もずっとこの展開が続くわけだし。嫌味の一つくらい言いたくなるわな。

 俺も思う。モゲてしまえ。


 だが相手はいずれ、最高権力者だぜ?


 しかもあの王子、根に持つから。メチャメチャ覚えてるから。それこそチョイ役の俺たちを、もれなく粛清しちゃうくらいに。

 とにかく視界に入っちゃダメ。これ絶対。



 なんてこと思ってたら、きゃあきゃあ黄色い声がこっちに移動してきた。

 やべぇ、ヤツだ。

 そっちを気にしていたので、すぐ隣に、もう一人の王子がいたことに俺は最初気付かなかった。

 あれ? と思ったら魔王が降臨。

 デルーゾス王子は非常に不機嫌です、という険しい顔で、赤ワイン入りのグラスを持って立っていた。

 9年ぶりのその顔は、相変わらずコワ過ぎです。

 しかし雰囲気が、なんかこう……。


 いきなり、デルーゾス王子が持っていたグラスを、振り上げた。

 考えているヒマなどなく、気がつけば俺はその前に飛び出していた。


 パシャッ、と俺の頭からかかる赤い液体。

 

 ちょうどその後ろを、何も気づかずに通り過ぎる、シャイム王子たち。

 俺はデルーゾス王子側を向いていたため、たぶん顔は見られてない。セーフッ!


 気にするトコを間違えてるって?

 俺からしたら、圧倒的に厄介なのはアッチだからな。

 それでもって、デルーゾス王子はそのまま立ち去るのかと思っていたが、まだいた。

 その顔は何か言いたそうな、しかし言えない、そんな葛藤する歪んだ表情だった。良く見たら、王子はずいぶんと痩せていた。身長も俺より拳2つほど低い。

 俺と同じ16歳で、王族なんだから良い暮らしをしてるはずなのに。

 清潔感がなく、肌つやが異様に悪い。礼服もモノはいいが、かなり流行遅れのデザイン。

 わかった。嫌になるほど身に覚えがありすぎる。みなまで言うな。


 俺は、事態に呆然としているジャイスとノービスに合図して、そのまま王子を促してホールを出た。

 後ろから二人がついてくるのを確認すると、男性用化粧室(トイレのことだ。化粧するやつもいるけどな!)へ向かう。俺はともかく、正面にいた王子にもワインがちょっとかかってたからな。

 何も言わずにいる王子のことは放置して、俺は洗面台で頭から水をかぶった。ワインなので匂いがすごいが、流すのは楽だ。これがビールだと、眼にしみて軽く死ねる。


「スネア、はいこれ」

「おー、助かる」


 よく気がつくノービスが差し出してくれたタオルでざっとふくと、やっぱり立ち尽くしたままの王子の髪や顔についたワインをガシガシぬぐった。どうやら服には着いてないようだ。うは、タオルが黒ずんだよ!

 王子に対していろいろ無礼だったかもしれんが、俺は被害者だからな。トントンだろ。

 ざっと確認して、もう大丈夫そうだったので、化粧室の外にいた護衛の騎士(そりゃあ王子だからね。でも義務感で嫌々な態度がバレバレ)に引き渡した。


 ワインで濡れた礼服の上着を脱ぐと、俺はジャイスとノービスに向き直った。


「悪いが、もう帰ろうと思う。二人はどうする?」

「帰るに決まってんだろ。もういる意味がない」

「僕も帰りたい。疲れたよ」


 三人で化粧室を出たところを、あの絶賛してくれた素敵なマダムと再会した。

 一部始終を見ていたのだろう、痛ましげな視線を俺と上着に向けたが、それ以上は追求せずに笑顔で話しかけてきた。


「今日は残念だったけど、またぜひ皆さんとお会いしたいわ。これ、受け取ってくださる?」


 3人分の、やたらハイソ感漂う招待状をもらった。


「では、ごきげんよう」


 歩み去るマダムを、呆然と見送る俺たち。

 カワイ子ちゃん目当てが、引っ掛けたのはマダムとか、どうよ?




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