後編……でも続く。
事の顛末を聞いたジャスティンは、絶句してた。
あれほど楽しみにしてたデビューパーティが無残な結果に終わった上、女性とまともに接触すらできず、王子相手に無礼ですからね。まぁ、不人気のデルーゾス殿下相手とはいえ苦情が来ちゃったら弁解のしようがない。大変申し訳ありませんでしたっ。
なんとなく、苦情は来ないと思うけど。
おっと、忘れてた。
最後にもらったマダムの招待状(まだ怖くて開けてなかった)を、恐る恐る提出する。
「こ、この家紋は!」
封蝋を確認したジャスティンは、ピキーンッと固まってた。
え、ヤバイとこだったり!?
「いいかお前たち、良く見ておくのだ。王冠にアザミの花、これはこの国の三大大公家の一つ、ロンシャルド家の家紋。我々のような下位貴族が、そうそう目にするものではない」
今度は俺たちが固まった。
三大大公家は、王家の流れをくむ大貴族中の大貴族。国王ですら、大公家を無下にはできないくらい力を持っている。中でもロンシャルド家は先代王妃の実家であり、当主は現国王の伯父にあたる。
同じ貴族とはいえ、格式から何から俺たちとは雲泥の差なのだ。
「じゃあ、あのマダムは……」
「おそらく、ご当主の妹君のセリリアナ様だな。ご一緒にいたのは夫君のカラト様。お二人のご息女が今年デビューのはずだから。なんと言うか……こういうのは、”ソーセージでベーコンを落とす”と言うのかな」
日本で言うところの”海老で鯛を釣る”だ。
能力も地位もない俺たちが唯一誇れるのは、このマダムに絶賛された服のセンスとマナー、つまり紳士の心得だけ。確かに少ない元手でありえない大物を釣り上げたと、言えなくもない。
しかしロンシャルド家か。なんかゲームの関係で聞き覚えが……。
「これで王子がどうこう言おうと、この招待に応じれば安泰だ。ただ何に招待されたかによるが……」
ジャスティンは慎重に招待状を開いた。
「これはまた、大変なものに……。これによると、内々で行うセリリアナ様の生誕祝賀会へ招かれたようだね。セリリアナ様のサロンといえば、上位貴族でも限られた一部の者だけが参加できる、国内最上級の集いだ。脅すようだが、内々とはいえ相手が相手。不興を買ったら追放どころじゃすまないよ」
あ、ノービスが倒れた。
その後の騒動は、そりゃあもう。
三家族こぞって蜂の巣をつついたような大騒ぎに発展。ようやく落ち着きが見えてきたのはパーティから5日後の事だった。
その間、俺は自室で謹慎を言い渡されていたので詳しくは知らない。
なんでも、招待の返事を求めて大公家の使いが来ちゃったらしく、そこでようやく親父たちはこのままではヤバイと気がついたらしい。
服から何から新調することになったわけだが、親父たちお抱えのデザイナーが持ってきたラフ画が本当にひどくて、即効で追い出した。だってそこが俺の一番大事なトコロだからな!
似たような経緯で逃げ出してきたジャイス、ノービスと落ち合い、ジャスティンの家に駆け込んだ。
「遅かったな」
もうすでに、デザイン案をいくつかまとめたジャスティンが優雅にお茶しながら待っていた。さすがです。
結局ジャスティンが親父たちから資金を巻き上げて、俺たちの用意することになった。
もうこの人なんで、辺境の次期子爵とかやってんの?
内々のパーティなので、礼服は却下。しかしドレスコードは最上位だ。日本でいうところのタキシードに相当する。こっちでは準礼服といい、礼服より自由度は上がる分、難易度は高い。
そんなこんなで話し合った結果、作った服は前回と趣がガラリと変わった。
テーマは「若くて可愛い子犬ちゃん」
前回のバックシャンは主に同年代の女性用で、こっちは妙齢の奥様方向け。バックシャンで奥様方引っ掛けたいのか? と聞かれたら、答えは決まってるだろ。
セリリアナ様のサロンは百戦錬磨の妙齢の女性が多く、手を出したら(出されたら)色々アブナイ。まずもって無事じゃすまない。
ジャスティン曰く。
「地味目で攻めるのもひとつの作戦だが、それじゃあ今回は意味がない。品よりも若さと健全さを前面に出し、セクシャルアピールは極力押さえる。あくまでも愛玩系で可愛がられることが狙いだ。これなら多少は粗相をしても見逃してもらえる……かもしれない」
そんな希望に沿った、準礼服はというと。
明るいが派手ではない色、やや可愛いデザイン。喉もとのクラバットは流行を取り入れた鮮やかな模様のスカーフを使い、若さをアピール。とどめは体型よりほんの少しだけ大きめに作られているジャケット。あれですよ、手が半分隠れる萌えシャツ的。実にあざとい!
俺たちの地味目な顔と、自信なげな表情がイイ塩梅でマッチして、マジ子犬ちゃん。実にあざとい!(大事なので2回言いました)
ただジャイスは可愛いに無理がありすぎたので、一人だけ、ややシャープなデザイン追加でカッコイイ系の子犬ちゃん。ズルイ!
そんなこんなでパーティ当日。
俺たちのこの装いは、奥方様に大ヒット。入り口で出迎えてくれたセリリアナ様は、頭の先から全身をじっくり眺めてからの会心の笑みをくださいました。ヤッタネ!
ちなみに、ものすごく悩んだ末に決めた贈り物は、三人連名での真っ赤なバラの大きな花束デス。ヘタに宝石とか小物を贈るより、インパクトを狙えというのがジャスティンのアドバイス。せっかくなので日本風に、カスミ草とシダを少々いれて白いレースで縁取りした紙で包み、金糸が縁取りされた真っ赤なリボンで飾ったもんだからハンパない出来。持ってるだけで、ものすごく恥ずかしかった! 三人のうち誰が持つかで押し付け合いになり、最終的にジャイスが渡す役で俺がそこまで持っていく係。くそぉ、のび犬めっ!
側にいて受け渡しを見ていた、名も知らぬご婦人が素敵ねぇ、と言っていたので、成功だと思いたい。
セリリアナ様はそれを持ったまま俺たちを会場中連れまわし、たくさんの人々に紹介してくれた。
こ、これはあれですね、コネクション作りってヤツ。
だがしかし、覚えられねぇ! 多すぎ! 無理無理無理~っ!
それにパーティ参加者の年齢層は比較的高く、俺たちと同年代は多少はいるものの、なぜか近づけない。セリリアナ様のご息女リエンナ様なぞ、遠目にチラッと挨拶しただけ。
心躍る出会いはっ!?
笑顔の裏で、黄昏る俺たちだった。
さんざん連れまわされ、疲弊してヘロヘロになった俺たちは、気がつくとあきらかに年配の男性陣だけが集まるスモーキングルームに連れ込まれていた。
なにここ。空気がヤバイ。
あきらかに値踏みする視線。
「部屋を間違えたようですね! 失礼しました」
さりげなく出て行こうとするが、ドアを塞がれ阻まれた。
「落ち着いて。そこに並びなさい」
上座からの声にしたがい、整列する俺たち三人。
男たちの視線が痛い痛い。
よく見ると、上座にいたのはセリリアナ様の旦那様と、セリリアナ様によく似た細身の男性だった。
「なるほど、考えたな。前回の時といい、素晴らしい演出だ。さしずめ、若さと健全さというところかな?」
「一見すると軽々しいが、礼節にかなった品格。考え抜かれたデザイン。これは老獪なまでの企みによるものですな」
「噂とは程遠いな。ここまでくると、そこいらの貴族では太刀打ちできないぞ」
「セリーなぞ、あの花束ともども見せびらかして回っておった。若輩者を装っているが、なかなかどうして。やるじゃないか」
「私も今度あれと同じものを、妻に用意せねば」
めっちゃ見抜かれてますよ!
「ひとつ聞きたい。そなたらは、いかなる人物に師事しているのかな?」
師事って、教えてもらってる先生ってことだよな? そっとジャイスの肘をつつく。
「あ、はい。恐れながら私の兄、ジャスティン・タロス・ゴルベンでございます」
ああ、と妙に納得した声がそこかしこで漏れた。
「あの御仁は表に出ることを良しとしなかったが、こういう事だったのか」
「彼らの優秀さは、十分に信頼に値する」
しつこいようだけど、ジャスティンはなんで次期子爵やってんの!?
「諸君! 私は彼らで決めたい。どうかね?」
上座の細身の男性がそう宣言し、その場の男性がすべて「御意」と賛同を示した。
いったい何のことやら。
意味が分からず呆ける俺たちは、そのままパーティ会場へ戻された。
「……なぁ、ジャイス、お前の兄ちゃん何者よ?」
「僕も知りたい」
「俺だって知りたいわ!」
かと言って、本人に聞けない俺たちだった。怖いじゃん。
会場の端っこで、そんな風にコソコソ話してる俺たちに、カッカッ!と靴音を鳴らして苛立たしく近づいてくる人物がいた。
「ちょっと、貴方たち!」
ばーん! と書き文字が背景にありそうな、そんな仁王立ちポーズで決めたリエンナ嬢だった。
金髪ゆるふわロールに赤いゴージャスドレスの強気系美少女は、ゲームでは攻略対象で、ストーリー上とても重要なキャラだ。なにしろ大貴族の娘である彼女は政略の要で、必ず落とす必要がある。というか、落とさないで済むのは隠しヒロインとの純愛ルートだけ。
性格はツンデレお嬢様なので攻略は簡単だし、Hシーンが豊富で楽しめたけど、とにかく嫉妬心が強く、その後の展開しだいでは主人公とそのハーレムを破滅させる。つまりバッドエンドへの分岐は彼女絡みが一番多い。しかもご機嫌取りの選択肢はランダムで常にスリリングという、ものすごーく扱いが面倒なキャラなのだ。
ただ、どこからみても極上の美少女だし、出るとこはたっぷり出てる。焼き餅焼いたり我儘を言う姿も男としては可愛いく見えるから、嫌いになれないんだよなぁ。
そのお嬢様が、なんだか怒っている。
「な、何でしょう?」
「お母様に気に入られたかって、いい気になってんじゃないわよ! その不細工ヅラで、しかも下位貴族ですって!? 冗談じゃないわ。私のお相手はシャイム様だけよ! 貴方たちなんか、誰が認めるものですかっ! 誰か、屋敷からあの者たちを追い出してちょうだい。今すぐ!」
本日はここでお開きのようです。
事の顛末を聞いたジャスティンは、やっぱり絶句してた。
ご息女に屋敷から追い出されるとか、何をしたのかって言われても、ねぇ? でも相手が相手。濡れ衣着せられても弁解しようがない。
終わったな。
翌日。
大公家から使いが来ました。
よ び だ さ れ ま し た 。
逃げていいですか。
ビックビクな俺たち三人は、平服よりちょっと上の略礼服(スーツに近い)、しかも揃って地味目という、警察に出頭する犯人みたいな雰囲気で大公家の応接間に座っていた。
そこへ現れたのは先日会った細身の男性、ロンシャルド家当主リカルド様とリエンナ嬢。
起立した俺たちを一瞥し、ご当主様は苦笑して言った。
「あー、うん。君たちは実に分かりやすいね。そっちで呼んだのもあるけど。さぁ、リエンナ」
促され、良家の令嬢にあるまじき不機嫌丸出しのリエンナ嬢が進み出て、不承不承という口ぶりで昨夜の行動を謝罪してきた。
つまるところ、主催者でもないのに、なんの非もない招待客を追い出すという行為は大貴族といえど無礼な行い。一部始終を見ていた人がご注進したのだ。良識的な年配者が多かったから良かったものの、これが同年代の多いパーティだったらマジで終わってたな。
そのお嬢様といえば頭を下げないのはいいとして、こっちを見ようともしてない。口調は棒読み。ゲームキャラならともかく、まさに美少女の無駄使い。
これ以上はマズイとみたか、ご当主様はお嬢様をさっさと退出させた。
「良かれと思ったが、逆効果だったか。可愛い姪っ子でね。つい甘やかしてしまうのだよ。どうかこの私に免じて、収めてはくれまいか」
「恐れながら、私どもには過分なお心遣いです」
代表して答えるジャイスの口調は丁寧だが、そっけない。意訳すると「もういいです」。
リエンナ嬢はいい。だがこの家の当主がこれじゃあダメダメだろ。
謝罪は受けたし、もう帰っていいかな。
「では、行こうか」
どこに? と聞くヒマもなく、俺たちは問答無用で馬車に詰め込まれ、大公家を後にしたのだった。
展開はやっ!
ものすごく嫌な予感しかしない。
俺たちを乗せた馬車は王宮をぐるっと迂回して、裏手に回った。裏門を入ってすぐで下車し、王宮の奥まった先にある、寂れた離宮へ。
通された部屋は暗く、あきらかに掃除が行き届いてない。メイドの姿も見えない。
ここ、王宮内だよね?
俺より低い、すさんだ雰囲気の人物が、そこにいた。
「今日から君たちがお仕えすることになる、デルーゾス殿下だ。側近として、殿下の支えになってほしい」
な、なんだってーっ!?
最初のプロットではここで終わる予定だったんですが、新たに話を考えましたので、続きます~。
勢いで書いてたので、ヒロインが出せてない件について。




