○○が、実はただの○○じゃなかった件
「殿下ーっ、ちょっと扉開けてくださいっ! 手が離せないんでっ!」
「いったい何事だ!? この荷物はいったい!?」
「あ、今日から住み込みでお世話することになりましたので、よろしく! 一緒に、生き延びましょう!」
軽い口調で、さらっと決意表明しちゃったよ。
後に続くジャイスもノービスも、殿下相手だってのに「ただいま戻りましたー」と気楽な挨拶をしている。
まったくもって、緊張感がない。
本当だったら、教養ある貴族の一員として優雅に挨拶とかしなくちゃいけないんだろうけど、もう今更だし、殿下も許可してるから、いいよね?
しょせんモブな俺達だしな!
殿下の前を辞してから3日後。
ジャスティンやユン爺の力を借りて、各所に根回しに走り回って、どうにか必要な手続きを終えた俺たちは、疲労の為かなりハイテンションだった。
というか、ロンシャルド家の当主ェ……。
殿下のお側に侍るためには、実はそれなりにの手続きが必要な訳だが(ある意味、お役所だし)、それを通すための根回しを、あの当主は一切してくれてなかったのだ。
本当だったら、手続きだけでひと月は平気でかかる(お役所仕事だし)。
つまりはその間、殿下のもとに戻ることも何かをする事も、本来なら不可能だったのだ。それをたったの3日にしちゃうあたり、ユン爺マジやべぇ。
というか、ぜったい確信犯だよな、あの当主!
普通なら、格が上の貴族が根回しに手を貸すことで、主従的な関係を結ぶわけだが。今回の手続きにロンシャルド家の名がちーっとも出てきていないため、俺たちの上司は、あの当主じゃなかったりする。ワロタ。
ジャスティンから状況を説明してもらえなかったら、ほんとサッパリだったわ。
ちなみに。
王宮に勤めている貴族は、だいたいが仕事してない。無職というか、”貴族してる”のが仕事。
よく映画とかで見るじゃん?
謁見の間とかで、王様の側にこう、ズラーッと並んでる人たち。何かしらんがすぐ王様に意見しちゃったりする、アレよアレ。
一応、王様の側にはべるのが仕事、ということらしい。
そんでもって、なにがしかの役職につかない限り、基本無給。
上司にあたる人のポケットマネーと、実家の仕送りで生活するわけだが、食と住以外はすべて自前。そんでもって無休。
滅私奉公…だとぉ!?
あ、俺たちはというと、デルーゾス殿下付の侍従とあいなりました。
侍従ってのは、女官の男性版な。
給料? なにそれ、オイシイの?
そんなこんなで、呆然と立ち尽くすデルーゾス殿下を尻目に、荷物を運び入れる俺達トリオ。これがハイテンションにならずして、やってられっか! という勢いだ。
その後からガヤガヤと現れる職人達。
資材を積んだ荷馬車も、続々と到着する。
慌しくレネさんの紹介をした頃には、ようやく殿下にも状況が飲み込めてきたようだった。
「…!……!」
殿下が涙目で何か訴えてますが、今は全力でスルー!
そりゃあ殿下からすると、今の状況はカオスだよな。長いことヒッキーだったわけだし。わかるよー。でもごめんよー。時間ができたら説明するつもりだからさっ。
「スネア、二階にいい部屋があったよ。わりと広い」
「じゃ、そこにするか。案内してくれ。ジャイスっ、荷物を動かすぞ! あ、殿下は端の方にいてください。邪魔なので」
荷物を運ぶ俺たちに続き、3人分のベッドやタンスやらも、運ばれてくる。
俺の構想は、まずはこの住処の改造、これ最優先。
見た目えらくボロっちい建物なので、きっと中もあちこと痛んでいるに違いないと、レネさんの協力を仰ぐことにしたのだ。
その際にいろいろ追加してもらって、快適な居住空間を実現!
もちろん風呂も! これ大事! マジ大事!
基本、俺による、俺のための改装。ひいてはそれが殿下のため。殿下バンザイ。
もちろん風呂以外にも、プランはある。たとえば……。
「どうしましょう! どうしようかしら? どうしちゃうべき?!」
何やら興奮した様子のレネさんが、駆け込んできた。
いつもゆったりと優雅なレネさんが、珍しいことになっている。
「義姉上? 大丈夫ですか?」
「素晴らしいのよ! もう信じられないぐらい素晴らしいの! まさにここは王家の秘宝だわ!」
「「「はい?」」」
レネさんによると。
ここはドラモンド建国以前の時代から存在する古い離宮で、王宮内にありながら打ち捨てれて久しく、近年になって資料庫として再利用されるまで放置されていたそうだ。
しかも、適当に資料を放り込んでいるだけの場所、という状態。
外観も一見すると地味だが、実は細かい細工がそこかしこに施され、見る人が見れば驚愕するほどの技術で作られているらしい。さらには高額で操作が難しいため、今では使う人がいなくなった魔法的技術の数々が採用されている、との事。
なんか色々とすごい事になってるらしいのだ、主に内部が。
どうも、古きよき時代の王宮御用達の職人たちによる、至高の芸術品というべきシロモノらしい。
どんだけスゴイのかは、建築の門外漢である俺にはサッパリな訳だが。この建物だけで、国家予算の1年分が飛ぶ計算になるというのだから、確かにスゴイ。
なんというか、国の重要文化財的な?
つまりは。
このパッと見、王宮にホント似つかわしくない、ボロっちーい建物が。
あまりに粗末なもんで、嫌われ者な殿下の住居として提供された資料の墓場が。
時間と技と資金を大量に投入されながら、ワザと目立たないように作られた、王家の秘密の建物だったのだ!
まさに王家すら知らない、王家の秘宝!
な、なんだってーっ!?
興奮気味にそう話すレネさんの手には、この資料庫の図面。ユン爺がどこからか手に入れてきたものだ。
「えっと、それじゃあその図面は……」
「すべて偽り。これは見せかけの図面ね。とにかく! ここは一度、改装計画を練り直します。このような至高の作品に不用意に手を加えることなど、わたくしには許しがたき事ですわ!」
「デスヨネー」
さすが本職、こだわりがハンパねぇ。
「さっそく職人たちと手分けして、見て回りたいと思うのですが。よろしいですか殿下?」
いつのまにか戸口にいた殿下が、ビクッとした。いきなり話しかけられて驚くわな。
「う、うむ。良きにはから……」
「お待ちくださいませ」
ススッと殿下の横をとおり、現れたのは小柄な老婦人だった。
殿下が言っていた、通いのメイドさん……だよな? 服装は簡素なのに、ピンとした背筋と鋭い目つきで、ちっちゃいのに威圧感がスゴイんですけど!? というか、今までいるなんて知らなかったぞ!
「すばらしい目をお持ちの御人とお見受けいたしました。しかしどうか、ここはお人払いを願います。この場の秘密を、そう多くの者にさらす訳には参りませんゆえ」
「ロ、ローザ、何を言ってるのだ?! お前は……何者だっ!?」
たぶん、ここで一番驚いているのは殿下だろうな。
「これは申し遅れました。わたくしは先々代の王宮にて女官長を務めさせていただきました、先代ラスフェラルド大公家が三女、ロザリナ。初代様からの約定に従い、この館の管理を任されている者の一人でございます」
メイドさんまで、ただのメイドさんじゃなかった件。




