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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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番外編その1 お年玉

「なあ、お年玉あげたいんだが」


「なんですか急に」


 今日は12月31日、大晦日である。そんな今年最後の1日も、バーギルドで過ごす本宮一番と峯桜。


「いや、デカい金渡してさ。優越感に浸りたいなと」


「そんな下心剥き出しでお年玉渡す人、多分バンちゃん以外居ない」


 全く持ってその通りである。まあ、どちらかというと世間の大人は懐が痛む中、苦渋の思いで渡しているという人の方が多いか。それで言えば寧ろ自ら渡したいと感じたその心は、評価に値すると言っても良いのかもしれない。


「ていうかそもそも渡す相手居るんですか?お客さんの子供に渡すとか?」


「いやあ、お客さんに渡すのもどうかと思ってな。お子さんとは当然なんの関係性も無い訳だし」


「じゃあ親戚とか?」


「俺親戚の中で1番年下やねん。こっち来てからすっかり疎遠になっちまってるし」


「じゃあ帰省するとか」


「やだ。ガキどもに10万くらい集られそうで行きたくない」


「注文が多いなあ」


 駄々っ子一番ちゃんに呆れ果てる峯。“お年玉渡したい”という言葉の後に“集られそう”なんて言い出すとは全く、我が儘もいいところだが、実際親戚の多いご家庭は毎年大変だろうなと思う。絶対子供になけなしの金を渡すよりも、自分で使った方が幸福度高いもの。金の価値というものを子供はまだ充分に理解していないのだから。18の頃お年玉で貯まった財産全てを溶かし尽くした筆者が言うのだから間違いない。

 と、こんな言葉が出てくる筆者はまさしく親戚どころか親族との関係も希薄そのものなのだがまあ、なんだかんだで人間、色々な付き合いがある方が充実度は高いよなとも思う。そんなこんなで話は横道に逸れてしまったが、峯は暫く考えた後、ある人物に行き着く。


「じゃあ神栖君とかどうです?」


「お。神栖君か?」


「そうですよ。あの子1人暮らしじゃないですか。帰省してる様子も無いですし、ピッタリじゃないです?」


「確かにな、今高2だっけか。年齢的にもまあ問題無いか」


「そうと決まれば早速、ポチ袋買いに行きましょ。大晦日も雑貨屋さん営業してるはずですよ」


「んじゃサクッと店に寄って、ついでに神栖君ちに向かうとしますか」


――――――――――――――――


 その後、都内某所のマンション307号室にて。その玄関前にやってきた27歳児本宮一番くんと保護者峯桜さん。


「かーみすくーん、あーそーぼーてか出てこーい。はーやーくーこいーこーいーおーしょーうーがーつー」


 ガチャリとドアが開くと、チェーン越しに出てきた家主である神栖御琴くんは、


「近所迷惑なんで騒がないでください本宮さん。用があるならインターホン押してください」


「なんだよチェーンなんか付けて。俺達が遊びに来たんだぞ?」


「神栖君、こんな大人って本当迷惑だよな。私もその気持ちよくわかる。ごめんな本当に」


「なあとりあえず開けてくれよ。お前に渡したいものもあるんだ」


「わかりました」


間も無く神栖がチェーンを外すと、待ってましたと言わんばかりに本宮はドカドカと部屋の中を突き進んでいく。


「邪魔するぜーってなんだ、随分散らかってるな」


「良いじゃないですか別に」


「良かないぜ。部屋にゴミの匂い染み付いたら大変なんだぜ」


「あずちゃんという身内が居ながらなんでこんなゴミ部屋になるかな。空の弁当箱ばっかりだし、あずちゃんのご飯食べてねーの?」


 そう、彼らの目の前に広がっていたのはコンビニやスーパーの弁当箱の山。洗面所には脱いだままの衣服が散乱している、それはもう酷い有様だった。でも言うて1人暮らしの男の部屋って大抵こうなるものだよな。え?ならない?


「あずきさんに毎度毎度頼むのも申し訳ないですし」


「いやこの状態を申し訳なく感じてくれよ」


「今日俺達が来て良かったな。掃除するぞ、神栖君。そうでなくとも大晦日なんだからよ。これも何でも屋の仕事だな」


 やるべきことは決まったようだ。まずは部屋中に散らばっている弁当の空き箱回収に始まり、神栖宅の大掃除が幕を開ける。



――――――――――――――――



 いざ大掃除を始めてみれば終わりは早かった。3人でこなしたという点が大きいだろうが、本宮と峯に関して言えばプロ。何でも屋で数をこなしていただけあって手際も良く、2〜3時間であっという間に終わらせて見せた。


 さて大掃除も終われば忘年会だ。近場のコンビニでご飯やツマミ、ソフトドリンクにアルコールなど、各々が思い思いに買い物カゴに入れ、お会計はなんと8千円オーバー。ちなみにこの支払いは本宮が持ってくれた。流石年長者、偉い。


 そしてそして、神栖宅に戻ってきた3人はテーブルにコンビニで手に入れた戦利品を広げ、ドリンクを片手に乾杯。


「いやー今年もお疲れ様でしたってなあ!今日はいっぱい食って飲もうや!」


「神栖君もね、好きなのどんどん取ってって良いからねー」


「はぁい」


 テーブルに並べられた品々。コンビニ弁当は勿論、ホットスナックにおでん、お菓子、スイーツ。ここがコンビニかと思える程に、これでもかと言う程にびっしりと敷き詰められている。

 いざこれを取ろうと選んでも他のものに目移りしてしまう……。そんな幸せな空間が広がる中で神栖少年が一際興味を示したもの。それは、


「酒って美味いんです?」


 そう、お酒。主に神栖用としてソフトドリンクも5〜6本ほど買っていたものの、やっぱり未成年者としてお酒は気になるものである。


「それは20歳になってからのお楽しみだな」


「でもひと口、いやワンペロくらいなら良いんじゃないです?私のレモンサワーちょっとだけ飲んでみなよ」


 とても推奨出来たことでは無いが、誰しも一度は経験があるのではないだろうか。親の飲んでるビールの泡だけを舐めてみる、とか。まあこの場はどうか彼らを大目に見てやってほしい。

 また、決して未成年飲酒を容認、推奨するものではないということも付け加えておく。

 峯は手に持っていたレモンサワーを、ほんの僅かひと口くらいの量だけ注ぐと、それが入ったコップを神栖に手渡した。

 神栖は恐る恐るそのひと口を己が体内に流し込んだが結果は、


「ぅえ、なんか消毒液みたいな味がします」


「あっはははは!多分神栖君お酒ダメなタイプだ!」


「まあ確かに市販の酒はそれっぽい味するのわかるわ。お前が20歳になったら、良い酒ご馳走してやるから楽しみにしとけな?」


 実際のところ安いお酒は消毒液っぽい風味がする。割とあるあるな話である。そこでお酒はアカンタイプだと割り切れれば楽なのだが、酔った感覚に快楽を覚え始めると大マジメにアルコール依存症まっしぐらなので、未成年の読者諸君、あるいは依存症に片足突っ込んでそうな者も、充分に注意してほしい。

 酒は飲んでも飲まれるなとはよく言ったものである。


「後、こりゃ前祝いというかお年玉なんだが、良かったら受け取ってくれや。12月のバイト代と餅代もあわせて入れてある」


「え、ありがとうございます」


 本宮は随分とパンパンになったポチ袋を神栖に差し出した。一体幾ら入ってるのかと、ある意味怖さすら感じてしまえる分厚さだったが、


「とりあえず開けてみ?」


 峯に促され、神栖はポチ袋の中へ手を入れた。

 その額はあえて伏せておくが、神栖少年17歳が中身を見てギョッとしたということだけは伝えておこう。


「神栖君にはなんだかんだで沢山助けられたからなー!それに比べりゃ、こんな金は安いもんよ」


「え…でも良いんですか本当に。」


「ったりめえよ!その金で彼女さんに何かプレゼントしてやりなよ」


「そうだ!明日“らびっつ”のお店行こうぜ。私がついてってやるからさ」


「明日って営業してるものです?元旦ですけど」


「都内なら1店舗くらいはやってるっしょ。あずちゃん人混み苦手だし、私らで限定グッズ買いに行こ」


「2人とも頑張ってな。俺は久々の休みだから丸1日寝てるわ多分」


「よし、そうと決まれば明日7時集合な!場所はここで良いや。寝坊しないように早く食べちゃお。私も食べ終わったらとっとと帰る」


「なあ神栖君、今日ここ泊まって良いか?」


「本宮さんもちゃんと帰ってください。床で寝ることになりますよ」


「それは流石に勘弁だわ……」


 そんなところで、この後コンビニフードフルコースを充分に堪能した彼らは明日に備えて解散するのだった。

 峯に関してはお酒も入ってる様子だが、果たして明日、元旦は集合時間通りに来れるのか。早速次の日まで時を進めてみることにしよう。





「ったく。何で自分で時間設定してすっぽかすんですか」


「だから集合場所神栖君ちって言ったじゃんかよ。自宅なら実質待ち時間ゼロだろ?」


「その理論那須先生の前で提唱したらドヤされますよ。先生が言うには前もって遅めに見積もるべきって話じゃないですか」


「パイセン、生徒にそんな話までしてんの?」


「されました。峯さんと初めて会った日に」


「そっかあ」


 とまあ、結果は言うまでもないが、峯の大遅刻。と言ってもまだ朝の8時。ショップ開店までにはまだまだ時間こそあるものの、元旦はスピードが命。この時間帯から既に開店待ちの行列が出来ているのだから、グッズ争奪戦というのは本当に熾烈なものである。2人だけではあるが、メンバーも揃ったということで、


「それじゃダッシュで行きますか」


「はい」



――――――――――――――――



 そしてそれから数時間後、那須宅にて。果たして彼らは無事に“らびっつ”限定グッズを買えたのか。



「姫、どうぞご査収ください」



 神栖が手に持つは、黒毛ウサギモフ吉くんと茶色のウサギ垂れ耳くんが抱き合う形でくっついたぬいぐるみ。お正月仕様で2匹が袴を着た、とても可愛らしいデザインとなっている。


 そう、神栖と峯は無事限定グッズをその手に収めることが出来たのだ。それも2つ。


 神栖少年の“姫”という言葉に沸き立つ峯と那須など目にも入らぬ程に、顔を真紅に染め上げる彼。まあ要は峯に言わされたんだな。


 だがそんなことなどどうでもいい。肝心の高月はというと限定グッズを前にして小躍りしている。当日限定品ということで彼女自身諦めてしまっていたブツが今手元にあるのだ。そうなるのも無理はない。


「嬉しい。ありがと御琴君」


「いやー!無事買えたから良かったけどマジでギリギリだったんだよなー!1人1個限定なんだけど、棚を見渡しても残り5個しか無くて。2人で1個ずつ買った訳だよな。で、もう1個は神栖君。お前のだ」


「え、僕が貰っちゃって良いんですか」


「良いの良いの。愛する彼女と同じモノ持ってるって嬉しいだろ?だけどゴミ部屋に埋もれさせたら本当に許さねえからな」


「わかりましたよー。しっかり家宝として大切に保管します」


「それで良し」


 とここで、那須が“ゴミ部屋”というワードに食いついた。


「えー、神栖君ちってゴミ屋敷なの?」


「そうそう。昨日私とバンちゃんで片付けたから今は綺麗になってるけど。あと神栖君って家では裸族っぽくてさー?至るところにパンツ落ちてた」


「だからそれ言わないでって言ってるじゃないですか!!??このえっち!!!」


「男のパンツ見て何が“えっち”なんだよ。神栖君てば結構可愛いパンツ履いててさー」


「だーかーらー!!!!!」



 何はともあれ、無事限定グッズを手に入れられて良かったね。神栖君、あずちゃん。

 そして読者の皆様、明けましておめでとうございます。

 今年も異能学区をどうぞよろしくお願い致します。


 この後彼らのもとに諏訪も加わり、那須宅では新年お雑煮パーティが開かれたとさ。

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