神栖と高月
「よし、そろそろ切り上げよっか。神栖君、帰る支度しちゃって」
「え?でも授業終わるまでまだ時間ありますよ」
「良いの良いの。出席的には午前まで授業受けてれば大丈夫だから。午後からの授業はあくまで自主勉ってテイだし。テストの制作とか、先生もやることあるけど、お家にいた方が気が楽だしー」
那須は教室の鍵を指に引っ掛け、クルクルと回しながら神栖の疑問に答える。
時刻は15時を迎えた頃。テスト1週間前の自主勉強期間として、一般生徒の授業は午前で終わり皆が既に下校済み。校内は静寂に包まれていた。
「この学校って結構自由っスよね」
「まあね。自習期間とは言え、実は別室登校で出席扱いになるっていうのも割とレアケースなんだよ?ウチの学校が寛容だって事もあるんだけどね」
高等学校の場合、別室登校そのものは可能であるものの、一般的には欠課扱いとなる学校が多い。
小学校や中学校であれば、義務教育の為別室登校をしていても卒業資格は得られる事が大半だが、高等学校や大学であれば単位が足りず留年となる事が多いようである。
最も那須の言うように、テスト前の自習期間である事に加え、神栖御琴が異能学区有数の特異な異能力者であるという事が要因としては大きいのだが、彼もゆくゆくは通常のクラスに復学する必要がある事を付け加えておく。
「あとその髪も。厳しい学校だと頭髪検査引っ掛かるよ?諏訪ちゃんにバッサリ切ってもらいなよ。前見えないでしょ」
「髪が長くても嫌と言うほど物は視えてるんで大丈夫っス。」
「そっか千里眼か。神栖君の目にはどういう風に物が視えてるのか気になるわ」
「別に普通っスよ。強いて言えば、異能使ってる時は双眼鏡越しにモノを見てる感覚に近いっスかね」
そんな話をしながら二人は教室の戸締りを確認し、その後職員室へ行き鍵を返却する――――
「じゃあ、行こっか」
――――――――――――――――
それから時は進み、時刻にして15時35分。
とあるマンション505号室のリビングに那須と神栖、そして高月の姿が。那須はダイニングテーブルでテスト制作のため絶賛パソコンと睨めっこ中。神栖と高月はテレビ前のソファに隣り合って座っていた。
しかし妙だ。テレビを前にしているにも関わらず電源は付いていない。かと言って2人が何かをしているわけでもない。
「………………。」
「………………。」
まあこれはあれだ。つまり2人ともすっかり緊張しているのだ。
「あの、お弁当。美味しかったっス」
「あ、………ありがと……」
「神栖くーん、“ですます”は?」
「……はい」
「………………。」
「………………。」
会話が終わった。
(どうすんだこれーーー!?)
まあこうなるのも無理はない。だってまだ知り合ってまだ2日目だもの。神栖にとって高月あずきという女は料理が上手い人、あと引っ込み思案な人、くらいの印象しか無いのだから。神栖はここからどうするべきか、必死に思考を凝らしていたのだが、その時高月が小さな声で呟く。
「………レゼ編」
「は………?」
「レゼ編、観たい」
“レゼ編”というと、つまりアレだよな…?最近巷で話題のあの作品。
「一緒にって、ことですか」
高月はコクリと頷いた。神栖少年は“これは好機”と言わんばかりに、
「い、行きましょう!レゼ編、一緒に観に行きましょう!!今度の休みでいいですか!?」
「…………9月」
「へ……?」
「上映、9月開始」
「……3ヶ月後じゃねースか」
神栖少年、これにはガックリ。そう、今はまだ6月。上映までまだ随分と時間がある。並の人間関係なら、その頃には約束そのものを忘れられてるまである。
だが彼は諦めない。ヒントは得られた。レゼ編、そしてカヲル君推し。つまり高月あずきは無類のアニメ好きと見た……!
「あずきさんは、アニメとか観るんですか?」
「うん。色んなの観てるよ」
(よし!!!!!)
神栖、心の中で渾身のガッツポーズ。会話の糸口を掴めた。これで勝てる!!そう確信した彼だったが、その後すぐに根本的な問題点に気がつく。
「………………。」
(僕、大してアニメ観てねーや)
一転して心の内では盛大に頭を抱えている神栖少年。どうしたものかと頭を巡らせていたのだがここで思わぬ助け舟。
「ももちゃんがよくマンガ買ってきてくれるからソレ読んでるの」
と言って高月は指差した。その先にあったのは天井まで届くかという程の大きな本棚。そこにはジャンプやマガジン、そしてそれらの系列の漫画作品単行本がズラリと並べられていた。
(これだー!!!)
活路を見出せた様子。これを目にしたならもう、やるべきことは一つしかない。
「先生、マンガ読んでもいいですか」
「?…あーどうぞご自由にー?」
「あずきさん!僕マンガとかあまり詳しくなくて。だからお勧めの作品教えてほしいです!」
彼の言葉に過去1で目を輝かせて高月は頷く。
「うん。教えてあげる」
(よっしゃああああああ!!)
そんなこんなで、話を膨らませるのに四苦八苦していた神栖だったが、なんとか糸口を見つけ出し、高月と漫画談義に花を咲かせるのだった。




