沈黙の環状線 (踏み出す夜)
この作品を書き始めて、まだ短いですが
新しい小説を書き始めました。
環状の話を。
環状族、夜に還る。
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おそらく
その日、世界は3分間だけ止まった。は、しばらく更新できなくなりそうです。
青年がいた。
環状を知らない世代だった。
動画でしか見たことがない光の帯。
古い掲示板に残る武勇伝、伝説。
それでも胸の奥で、いつも赤いテールランプが揺れていた。
彼の車は中古のコンパクトカー。
とても環状を走るマシンじゃない。
改造も金もない。
仲間もいない。
それでも、夜になるとステアリングを握った。
意味もなく環状の入口を眺めてみる。
少しだけアクセルを深く踏んでみる。
——いつもランプウェイには入れなかった。
行きたいのに、行けない。
怖かった。
一度入ったら、何かが変わってしまいそうで。
ある夜、環状の入口近くのコンビニで缶コーヒーを飲んでいた。
誰もいない駐車場。
遠くに聞こえる、環状を駆け抜けるエキゾースト。
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「……いつまで、ここにいるんだよ。」
小さく独り言を漏らす。
缶コーヒーの苦さだけが、何かを確かめさせた。
アクセルを踏む足が、微かに震える。
その瞬間——
——世界が止まった。
環状の上を駆けていくヘッドライトが凍る。
遠くの車列も、信号も、街のざわめきも止まった。
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少年は息を呑んだ。
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ドアを開けて、冷たいアスファルトに立つ。
凍りついた世界に、ひとりだけ。
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環状へと続く道が、まるで手招きするように光っていた。
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車に戻ると、少年はハンドルを握り直した。
心臓の音だけがうるさかった。
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「……行くしか、ないだろ。」
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小さく笑った。
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——世界が動き出した。
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アクセルを踏んだ。
震える足が床を蹴った。
ランプウェイへ飛び込む。
夜の奥へ、夢の中へ。
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メーターの針が少しずつ上がる。
車は遅い。
それでも風が変わる。
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遠くのテールランプが滲んだ。
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やっと届いた。
ここが、あの日動画で見ていた光の帯。
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少年の車は遅いままだった。
それでも窓を開けた。
夜風が笑った気がした。
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——その夜、世界は3分間だけ止まった。
そして少年は、環状の扉を開けた。




