沈黙の形容(暴力を音にかえて)
手のつけられない不良がいた。
乱暴で、言葉よりも先に拳が出た。
言葉が追いつかなかった。
考えは渦巻くのに、出口が狭すぎた。
だから衝動は拳に乗って外へ出た。
殴った相手も、殴られた自分も、いつも虚しかった。
誰にも触れられない孤独があった。
夜、街をさまようのが癖になった。
ある夜、いつもと違う匂いがした。
路地裏の奥に、不自然な行列。
妙な建物の入り口から、地下へ人が吸い込まれていく。
やかましい若者たちが、誰も騒がずに並んでいる。
異様だった。
けれど、どこか惹かれた。
気がつくと、列の最後尾に立っていた。
暗い階段を降りると、地下のライブハウスだった。
狭い空間に、汗と煙と熱気が渦巻いていた。
訳もわからないまま、壁際に寄りかかる。
爆音が鳴った。
地面を叩きつけるようなドラムが響いた。
拳より速い衝動が胸を叩いた。
その瞬間——
——世界が止まった。
汗を飛ばす観客も、唾を吐き捨てるボーカルも凍りつく。
自分だけが、音に呼ばれて動けた。
足が勝手に前へ出た。
夢遊病のように人を縫い、最前列まで歩いた。
ステージの奥、ドラムセット。
筋肉質な男が、全身でリズムを叩きつけている。
拳よりも強い言葉だった。
——世界が動き出す。
頭を揺さぶる音の波。
暴れるドラムに、自分の奥の叫びが溶けていった。
拳はいらなかった。
殴るより速く、伝わるものがあると思った。
ライブが終わるころ、誰かの汗と埃で服が重くなっていた。
けれど心は軽かった。
地下を出ると、夜風がひどく優しく感じた。
その足で楽器屋に入った。
回らない口を必死に動かした。
初めて、伝えたい言葉を探した。
「……ドラムが……やりたい。」
声が震えた。
言葉が出るまでの間を、店員はじっと待ってくれた。
初めて、自分の衝動に名前がついた気がした。
——その夜、世界は3分間だけ止まった。




