表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/94

沈黙の厨二病(隠れた英雄)



漆黒の防風衣(黒のパーカー)

スカルオブチェイン(ドクロのネックレス)

覗き見る未来の眼(どこか斜に構えた視線)


そんな痛い名前と服装で身を固める男。

彼は、いわゆる“厨二病”だった。


授業中、窓の外ばかり見ていた。

ノートの端には、呪文のような言葉を書きなぐる。

クラスでは少し浮いていた。

いや、本人もそれを望んでいた。


「俺には使命がある」

「この世界はまだ目覚めていないだけだ」

「災厄は、いつも静かに訪れる」


そんなことを語る彼に、真顔で付き合う者はいなかった。

だが、彼は本気だった。

冗談ではない。どこかで、ずっと“何か”が起こると信じていた。


それは、ある放課後のことだった。

帰り道、いつもの公園。


小学生たちの叫び声が聞こえる。

何かがおかしい。

遊んで騒ぐ声ではない。


自転車が転がっている。

その隣には、小さな女の子が倒れていた。

目前では、大型犬が吠えている。


腰が抜けて動けないのだろうか。

大型犬は今にも飛びかかろうとしている。

近くには、小学生しかいない。


「誰か助けてやってくれ」

そう思った。だが、助けられる者はいない。


大型犬が身を沈め、飛びかかる体勢をとった——そのとき。


——世界が、止まった。


風が止まり、大型犬も止まった。

泣き叫んでいた女の子も、地面に凍りついたように動かない。


駆け出そうとした足は宙に浮いたまま、

思考だけが置いてけぼりになる。


だが、すぐに理解した。


「これは……本物だ」

「災厄の番犬が現れた。だが、俺が守る」


普段つぶやいていた“決め台詞”が、自然と口をついて出た。

それがなぜか、自分自身を勇気づける。


“闇の騎士”になりきってみると、

心の奥から力が湧き上がった。


犬は怖かった。

でも、震える足を前に出す。

止まった世界の中で、少女のもとへ向かう。


小さい頃、兄が野良犬から身を挺して守ってくれた背中を思い出していた。


少女の前にたどり着いた彼は、背負っていたリュックを下ろし、

中からハンカチを取り出す。

それを、少女のすりむいた膝にそっと巻いた。


そして、大型犬の前へ。


飛びかかろうとしていたその顔に、そっと手を伸ばす。


怖い。

だけど、震えながらも彼は言った。


「もう、大丈夫だよ……お前も、きっと寂しかっただけなんだろ……?」


彼は、大型犬を子供たちの視界から外れる茂みのそばまで抱えて運んだ。

そして、おやつに持っていたパンを置いてやる。


そのとき——世界が、動き出した。


大型犬はパンをくわえ、静かに道端の茂みに消えていった。

少女は、泣きながら立ち上がる。

友達らしい小学生たちが駆け寄ってくる。


彼は騒ぎを背に、そっと公園を出た。

誰も彼のことなど見ていなかった。


それでよかった。


声高に語らないヒーローも、きっといる。

厨二病だろうが、

自分を奮い立たせる言葉や姿勢は——確かに、彼を動かした。


“痛い言葉”じゃない。

それは、彼だけの魔法だった。


そして彼は、少しだけ自信を持てるようになった。


——その日、世界は3分間だけ止まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ