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沈黙の道のり (最後の合コン)



駅のホームを軽やかに歩く。


「ま、今日も“ハズレ”じゃなきゃいいけど」


鏡を開く。髪もメイクも完璧だった。 ふんわり揺れるスカートに、歩きやすいけど細く見えるヒール。 今日の自分に、抜かりはない。


何度目の合コンか、もう思い出せない。 楽しかった夜もあれば、つまらなかった夜もある。


それでも—— 結局、誰かを本気で好きになれたことは、なかった。


「まぁ、どうせ今日も適当に笑って、うまくかわして終わり」


それがいつものパターン。 だから今日も、特に期待していたわけじゃない。 ただ、なんとなく「最後にしてもいいかな」くらいに思っていた。


駅の出口を抜け、街に出たとき。 ポツリ、と頬に落ちる冷たいしずく。


空を見上げる。 雨だった。


少しずつ、濡れていく前髪。 アイラインがにじむ前に——そう思って足を速めた。


そのときだった。


——世界が、止まった。


歩いていた人も、車も、信号も。 空から落ちる雨粒でさえ、空中で止まっていた。


「えっ……?」


誰も動かない。 声も音もない。 静けさが耳に張りついてくる。


だけど、自分の体は動いていた。


ヒールを鳴らしながら、女はとっさに走り出した。 目的地は近い。あと数十メートルの店。


濡れないように、メイクが落ちないように——。 だけど、いつしか、それだけではなかった。


走っている自分の姿に、ふと驚いた。


こんなに必死に走るなんて、いつ以来だっただろう。


小学生のとき、大好きだった漫画のヒロインに憧れて、体育のかけっこを全力で走った。 中学の頃、先輩に声をかけられたくて、毎朝早く来てメイクの練習をしていた。 高校、大学、社会人になって——


ずっと、頑張ってきた。 誰かの気を引くため、じゃない。 「綺麗になりたい」 「好きになってほしい」 でもその前に—— 「ちゃんと自分が、自分を好きでいられるように」


誰よりも努力してきたのは、自分だった。 誰にも見せないところで。


気づいたとき、少しだけ泣きそうになった。


「ただの合コンで終わらせたくない」


そう思った。


世界が、動き出す。


再び音が戻り、人が歩き出す。 雨は変わらず降っていたけれど、不思議とその冷たさが、気持ちよく感じられた。


店の前に立ったとき、女は鏡を開かなかった。 にじんだままでも、いいと思った。


——今日、誰かに好かれなくてもいい。 ただ、自分をごまかしたくない。


その夜、彼女はいつもより少し静かだった。 無理に笑わず、取り繕わず。 自分の話をして、自分の言葉で答えた。


そして——出会った。


数ヶ月後。


晴れた駅前、薬指に小さな指輪をつけたカップルが、笑い合いながら歩いていく。 肩を並べて、なんでもない日常を楽しんでいる。

そして彼女の世界は動き出した。


ーーあの日、世界は3分間だけ止まった。



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