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運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる  作者:


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29/45

組織

「いよいよですネ」


「頑張って! 応援してるから!」


 アレクシアと中島さんの声援を背中に受けながら、僕は試合場に向かう。


 試合場に向かう時、観客席から決勝にまで進めなかった選手、彼らのコーチ、師範たちの視線が僕に向けられていた。


「あれが今回決勝にまで勝ち抜いた柳生流剣術とかいう流派の選手か」


「細身だが……並みいる強豪をすべて討ち果たしてきたと」


「まじかっけえっすね、師範」


「バカ者! 日本古流連盟にも属していない田舎剣法だぞ、まぐれにきまっている」


「北辰一刀流と戦えば化けの皮がはがれる」


「そうだ、北辰一刀流に勝てるわけがない」


 北辰一刀流は、ここ数年大会の優勝を独占している。それなら僕を応援してくれるかもとも思ったけど、現実は甘くなかった。


 聖演武祭の大会組織委員会に関わる日本古流連盟は、日本に現存する古流の多くが所属する組織だ。


 安全性や流派同士のいざこざの問題もあり昔は他流試合禁止のことも多かった。そのため昔は古流同士が集まって演武会を開くくらいの間柄だったらしい。


 でもマヨイガが発明され、聖演武祭が開催されるようになると古流同士が手合わせする機会も自然と増える。


 そうなると試合のための準備や手続きをする必要ができ、日本古流連盟は自然と古流が集まるサロンのような組織となったらしい。


 試合会場への扉を開けると、大勢の観客と目を焼かんばかりの照明が僕を出迎える。眩しさと気恥ずかしさで目を伏せた。


 予選までは何組もの試合が同時に行われていた試合場。そこに立つのは、今僕と葵さんしかいない。


 僕と反対側の出入り口から歩いてくる葵さんの足だけが視界に入る。


 その足取りにはブレはなく、その歩みには気恥ずかしさもてらいもない。


『葵様、絶対優勝』


『あおいちゃんがんば』


 観客で埋め尽くされたアリーナのあちこちに横断幕が飾られ、歓声や口笛が飛び交う。


「葵様―!」


「かわいい! 強い! 格好いい!」


「結婚してくれー!」


 幼さを残す顔立ちで目を細め、軽く手を振って声援にこたえる彼女はまるでアイドルだ。


 道着を着ていなければ彼女が北辰一刀流の使い手だとは誰も信じないだろう。


 和服に身を包んだ別の古流の師範らしき人たちも腕を組み、彼女の様子を孫でも見るかのように見守っていた。


 自分の流派が負けたというのに、悔しくないのか。北辰葵が相手では仕方がなかったかもしれないけれど、まるで負けて当然とでも言いたげな態度だ。


『日本古流連盟など、嫌な組織だ』


 父さんは確か、こう言っていた。


 学校でも社会でも組織・グループは存在する。所属するグループによって人はランク付けされ、色眼鏡で見られ、どういう扱いをされるかが決まる。


 僕はいつだって、上位のグループに参加できなかった。


 そんなことを思っていると僕に向けられる師範からの視線が突き刺さるように感じられ、自然と足取りが早くなる。


 でも手を振るアレクシア、指を組み祈るように僕を見つめる中島さんの姿が見えると少し勇気が出る。


『聖演武祭の大会組織委員会と距離を置いている流派の方が、都合がイイ』


僕を聖演武祭にねじ込んだ時のアレクシアのセリフが、ふと思い出された。彼女も彼らが嫌いなのだろうか。日本に来てから、何かあったのだろうか。


「ふん。聖演武祭で北辰一刀流に勝つことなど、不可能だというのに」


 特等席に座る他の師範たちからの言葉も聞こえてくる。


「『イワナガ』の力、思い知るがいい」


 イワナガとは、何のことだろう。北辰一刀流の奥義だろうか。


 なんだか言われっぱなしでむかついてきた。


 まだ使ってないけれど、柳生流剣術にだって奥義はある。


 父さんと稽古した日々のことがまぶたの奥に浮かび上がってくる。父さんの言葉が、姿が鮮明に思い出されて。同時に負けん気が沸々と湧いてきた。


「頑張れよー」


「柳生流、ファイトー」


 葵さん一色だとばかり思っていた声援に、僕へ向けられたものも混じっているのが聞こえてきた。


 指を組んだ中島さんと目が合う。彼女が以前言っていた台詞を、もう一度思い出した。


『人はそんなに怖くないよ』


 緊張や闘志で強張っていた肩から、力が抜けた。

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