181 トリックスター
「――けどよ、野郎がそう都合よく動くか?」
疑わしそうな顔をするリトに、首を振った。
「ちゅごうがいいかどうかは、わかやないけど。でも、今、動いた時点でちゅごうがいい」
「まあ、欲の塊だからな。騒ぎに乗じて偽赤琥珀を盗み出そうとするだろうよ。けど、アイツはアジトを知らねえ――あ、だから男の情報を見せたのか」
今度はしっかり頷いた。
まあ、目的はもうひとつ、鍵を持った衛兵を牢に寄せるだめでもあったけれど。こういうことは、中々手際がいい。リトのアクセサリーを盗った時も、感心したものだ。
ラザクは、何がどうあってもアジトに行こうとするだろう。
別の出入口を見つけるのは、私たちでも、衛兵でも、ラザクでもいい。
かき回す人数は、多い方がいい。
「そえに、らざくは情報屋。案外、裏にもちゅうじて首尾よく発見の可能性――あ」
「どうした」
「接触ちた」
「何の話だ」
ちょっと黙っていて、と手で制し、目を閉じてガルーの視界に集中する。
……私は、少々侮っていたかもしれない。
思わず浮かべた笑みは、『悪い顔すんな』と潰された。
「らざく、優秀」
「はぁ? まさか、もう?! ……なんでそういうの、普段発揮されねえんだ?」
むしろ、そうしてキャッチした情報に首を突っ込みまくったが故に、方々で捕まっているという結果なのかもしれない。いかんせん、欠けている能力が多すぎるのだ。
港付近で見事あの男と遭遇したラザクが、何やら耳打ちして粘着質な笑みを浮かべた。
胸倉を掴んだ男に、いつもの調子であれこれ吹き込んでいるだろう様子がうかがえる。
やがて……二人は歩き出した。
「りと、らざくにちゅいていく」
「大丈夫なのか……?」
さあ……それは、分からないけれど。
大丈夫、その時は私がリトという切り札を出すから。
「ぱんときんたろも、出動!」
「わうっ!」
勇ましく吠えたパンに、キンタロが飛び乗った。
地上と上空から監視していれば、そうそう見失うことはないだろう。
リトは、あくまで怪しまれない動きをしなくてはいけない。
「りと、ゆっくり、普通に歩く」
「ああ。けど俺はどこへ向かうか分かんねえぞ」
このまま真っ直ぐ、と言ったところでふと気づく。
そうだ、この方がよほど怪しまれない。
リトの腕から抜け出すと、私が先に立ってリトを引っ張って歩く。
これなら、リトの意思だとは思われない。
「方角としちゃ、やっぱあの海際の岩壁方面か」
「合ってた」
きっとラザクが吹き込んでいるだろう、衛兵がアジトに向かっていると。
そして、衛兵はリトの情報を調査するためにうろついているだろう。
申し訳ないけれど、陽動になってもらう。
やがて海沿いの一軒家に辿り着いたラザクたちは、そのまま中へ入ろうとしている。
家……? もしや、アジトに向かったのではなかったのだろうか。
すうっと滑空したガルーが、その門に留まる。
悪党が関係する家には違いない。門から出て来たいかにも荒事に慣れている風の男に、ラザクが途端に怖気づいている。脂汗を流して逃げようとするラザクが、回り込まれた。
ふいに、その視線が門の外へ向く。
飛び跳ねながらやってきたパンが、大きな声で吠えているのが分かる。
ラザクが、パンを見た。覚えているだろうか。ここは、賭けでしかない。ただ、もうここで負けてもそう害はない。
「――らざく、家の中に入った」
「家? アジトは建物内か。工房だけが地下か?」
「……ちやう。家の……地下へ行って……」
ぱちり、と目を開けてリトを見た。
「あじと、発見」
にやっと、リトが笑った。
◆
「――誰だ、コイツは」
ぶへえ、と床に転がったラザクは、素早く起き上がって胸を張る。
……なぜだ。いい情報を持っているのだから、もっと丁重に扱うはずでは。
想定と違った状況に、脂汗と震えが止まらない。そしてまさか、こんな大きな組織であったとは。
「誰だとは聞き捨てならねぇなあ! この神業の情報屋、ラザク様を知らねえとは言わせねえ!」
「知るかよ。てめえ……なんでこんな野郎を入れた」
じろり、男を睨む視線に、ラザクの方まですくみ上がる。
奥にいる男、あれがいわゆるボスだろうか。
「い、いや、衛兵に俺らの情報のタレコミがあったつうからよぉ! 実際、衛兵共がまわりうろついてんだよ、違ったら魚のエサにすりゃいいだけだろ!」
「……えっ」
「魚にも好みってもんがあんだろうがよぉ」
どっと沸いた荒くれ共の中、ぱちくり、ラザクが瞬いた。
……そんな話になる?
おかしい。情報を大金で買われた上に、アジトで好待遇。そういう手はずだったのに。そして、衛兵突入の隙に乗じてお宝も頂戴する。
完璧な作戦が、脆くも崩れ始めていることを感じて、忙しく視線を彷徨わせる。
よし、逃げるか!
見栄も外聞も脈絡もなく、全ての視線がラザクへの興味を薄れさせた瞬間、素早く方向転換した。
「……なんだコイツ」
ただ、決して日ごろの行いのせいではないと信じているけれど、運は味方しなかったようで。
ちょうど通路へ飛び込もうとした先から、ぞろぞろ男たちが入って来た。
難なく捕まったラザクが、再び転がされる。
大した興味もなさそうにそれを見た男が、奥の男へ声をかけた。
「外の様子が変だ。準備を急がせた方がいいぞ。衛兵の動きが怪しい」
「なに……?」
部屋にいた男たちが、ラザクの方へ視線を移動させる。
ここぞとばかりにふんぞり返ったラザクが、声を張り上げた。
「だろうがよぉ! どこまでバレてるか、知りたくねえのぉ? その情報を持っているのは俺様――」
「あぁ? てめえ、立場分かってんのか。知ってることを言え」
知らぬ間に距離を詰められ、胸ぐらを掴み上げられていた。
一気に喉が閉まって、その手を振りほどこうともがく。
どかり、と打ち捨てられてようやく吸い込めた空気に、息つく間もなく声を上げた。
「言いますぅ! 待って待って! このラザク、いっくらでも情報提供できるからぁ! いやはや、殺さず置いておく方が便利よ? マジで! あっ、痛い目とか想像で大丈夫! 実際やらなくて大丈夫! 俺様想像力豊かだから! えっとぉ、俺様が聞いた情報は――」
立て板に水で話し始めたラザクに、悪党共は胡散臭そうに顔を見合わせた。




