13.ある日のローズ菓子店
ここは王都の店舗が建ち並ぶ一角にあるローズ菓子店。
今やフラワード王国の有名菓子となった『マカロン』が人気で、若い女性を中心に毎日たくさんのお客様がご来店する。
今日は朝から通常の営業分とお得意様からのご注文分を準備する為に慌ただしく時間が過ぎていた。
「ショートケーキのデコレーションは終了しました!」
「マカロンも焼き上がりました!」
「クッキーの店舗用の分はこちらにください!」
「いらっしゃいませ!」
「プレゼント用ですか?」
従業員は厨房や売場を行き来し、声を掛け合う。
そして、お菓子の甘い幸せな香りがお店に広がる。
とても忙しいけれど、それよりも心が浮き立つ。
パティシエ達は自分達が誇る菓子をたくさん作り、販売員達は営業中もそわそわしている。
「こーら。何回鏡を見に行くの?大丈夫!可愛いわよ!」
「店長!すみません。でも、もうすぐご来店する時間だから気になっちゃって」
ローズ菓子店の店長、イリスは頬を染めた若い従業員を見てクスリと笑う。
イリスは黒い髪をひとつにまとめ帽子を被り、茶色のワンピースに白いエプロンのローズ菓子店の制服を着ている。年齢は20代後半くらいの女性だ。
「そうね。そろそろいらっしゃるわね」
すると、馬車が止まる音が聞こえた。
「あら」
「 き、きた!!」
カラン!とドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「急に注文を増やしてしまってすみません」
「とんでもございません。ルイ様、ルカ様、いつもありがとうございます。まだ作っているところですが、約束のお時間までには必ず」
「ありがとう。その前に少しだけ包んでもらいたいのだけど、いいかな?」
「もちろんでございます」
「わぁ!これは新作のマカロンですか?」
ルカは色とりどりに並んでいるマカロンのショーケースの前に進む。
「は、はい!隣国の特産フルーツを使用している季節商品です!」
「ではこれと……」
ルカは細く長い綺麗な指を顎に添えて真剣にマカロンを選び始めた。
注文を聞いているのは、先程店長に注意された店員だ。
顔を真っ赤にしてルカに見惚れながら接客している。
イリスはそのままルイと話をしていた。
「今日はお誕生日パーティーでは?」
イリスはルイとルカの服装を見てから質問した。
ご注文は特大バースデーケーキとマカロンとクッキー。
あとは手土産用のお菓子の詰め合わせが150個。
「ええ。クスフォード侯爵家の音楽団に所属している演奏家の複数人が今月誕生月なので、演奏会のあとに皆でお祝いをするのですが、今日の演奏会に僕とルカも急遽出演することになって」
ルイはチラリとタキシード姿の自分を見る。
「そうなのですね。とてもお似合いですわ」
ええ、うちの従業員達が倒れてしまいそうなくらいに。
まだ10歳なのになんて綺麗なのかしら。
従業員達も店内にいるお客様達もふたりに目を奪われている。
「予想していたよりもお客様が多くなってしまったんだ」
困った風に笑うルイに、イリスは頷いた。
噂のふたりが出演するなら、そうなるでしょうねと思った。
「ルカは演奏会の前に少し食べたくなったみたいでね、僕達のおやつ用と皆への差し入れ用に少し先に貰って行きますね」
「ありがとうございます。すぐにご用意いたします」
イリスはルイからの追加注文のお菓子を用意し、ルカも女性店員達と笑顔でオススメの商品を聞いて選び終わった。
「では、後程他のご注文分をお届けにまいります」
イリスやパティシエ、販売員達はルイとルカに挨拶をした。
「よろしくお願いいたします」
「楽しみにしています」
ふたりは綺麗な微笑みを浮かべてお店を出た。
そして、店内に複数人のため息がもれる。
注文を受けた日から楽しみにしていた従業員達は感想を言ってから自分の持ち場に戻る者、腰が抜けてしまいしばらく動けそうにない者、感動している者がいた。
「本当に綺麗ねぇ」
「いやぁ、10歳であの落ち着きと色気!末恐ろしいですね」
「ルカ様…とても良い香りがしました…。声も素敵」
「今日出勤してて良かった!!」
ふたりに見惚れていたお客様達もやっと動き出す。
『素敵ですわ…』
『ローズ菓子店がお気に入りという噂は本当でしたのね』
『タキシード姿も麗しい…』
そして、ますますローズ菓子店は評判になるのだった。




