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愛人を許可したら拒否されました

 あれ? 私、口に出していたかしら? いいえ、そんなわけがない。だって明らかに、声が野太かったもの!!

 まさか、と思って顔を上げる。その瞬間、目の前の美丈夫が野太い声でキャッと言った。キャッ……!? 恥じらう姿は、私の良く知る旦那様の姿をしているのに、行動がどうもおかしい。どうして、女性みたいな言動なの!?

 唖然と、彼を見つめる。彼……彼、なのか? 彼と称していいのかどうかも分からない。

 目の前にいるのは、間違いなく私の旦那様……の、はず。


「ごめんなさい。驚かせたわよね? だけど、私がアリアナちゃんと結婚して嬉しいのは事実よ。だって、昔アリアナちゃんにお会いした時、そのあまりの美しさに一目惚れしたんだもの!!」


 うん……あれ? まだ、心がついて行かない。なのにアレックス様は自分語りを止めない。


「あれは13年前。ビスクドールのような美しいお姿を拝見した時、私の心は雷に撃たれたの。この子を全力で守りたいって!!」


 ビスクドール……へぇ、この世界にもビスクドールってあるんだぁ、へぇ。いいよね、ビスクドール。日本人形みたいに目が怖いのが玉に瑕だけど、そんなこと言ったら人形のほとんどが目が死んでいて怖いしね。小さい子はお人形が大好きだよね。自分よりも小さな子を守りたくなる感情が芽生えるからなのかしら?

 雷に打たれたって表現、この世界にもあるのね。ちょっと安心したわ。

 あぁそう。やっぱり、自分より幼い子供への庇護欲が刺激されるものなのねぇ……くっ、どんなに意識を他に向けようとしても、目の前の人の変貌ぶりのインパクトの方が強すぎて勝てない!!


「この天使をどうやったら守れるかしら? この崇拝の感情をどう表現すればいいのか!!」


 崇拝って、あなたは私の信者なの?


「そして愛でたい!!」


 愛玩動物確定です。ありがとうございます。


「誰かに取られたくない。私だけのミューズでいて欲しい」


 この場合、ギリシャ神話の音楽・舞踏・学術・文芸などを司る女神のことかしら? まさか洗剤じゃないわよね? この世界には存在しないし。そもそもギリシャ神話がない。

 芸術関連に見識もないのに、何故にミューズなのか。ちょっと盲目的過ぎて、おかしなことを言っているよ?


 語りが長い。私薄着なので、そろそろベッドに横になって現実逃避したいんですけどいいですか。もはやこの方がオネェでも何でも別に良いので、とにかく就寝させてほしい。


「そ、そうですか。とにかく、夜も更けましたし眠りましょう」

「!? そ、そんな!! 私、アリアナちゃんと同衾なんて、そんなことできない!! だってっ、だってっ……私、筋肉質でガタイのいい男性がタイプなの!!」


 でしょうな!! 別に取って食ったりはしないので、とにかく寝て頂きたい。私は疲れた。色々な意味で。

 疲労は体に毒ですから横になるだけでもされてはどうですか、と提案する。尚も恥じらっておられたけど、疲れていることには違いはないのか大人しく横になって下さった。

 しかし、隣からの熱視線があまりにも痛くて、瞼を閉じているのに眠れない。やめて、あなたも瞼を閉じて。ちゃんと眠って!!

 私の願いが届く頃、外は白んでいた。






 もう、寝不足な表情の私を見る侍女達の視線が痛いこと痛いこと。本当に何もなかったんだけど、彼女達は信じてくれない。お疲れでしょうと言いながら、精のつくものばかり進めてくる。違うのに。本当に違うのに。

 旦那様は朝早くに職場に呼び出されたらしく、大量の真っ赤なガーベラで私の部屋を満たして行かれた。因みにこのエレメンタルという世界は、植物や食物の名前がちぐはぐになっている。たった今ガーベラだと言った花は、見た目がバラに似たキク科の花である。ややこしい。

 本来ならば、初夜を済ませたばかりの旦那様に仕事が舞い込むことはないのだけど、余程の問題が起きたのね。まぁ、朝からあの現実を目の当たりにさせられるよりはマシだ。まさか私が嫁いだ旦那様が、オネェ公爵様だったなんて。

 ふっ、まぁこれでよかったのよ。私もあのご尊顔を存分に見て楽しめるし、彼も私の姿を崇拝しているのだから。ウィンウィンよ。


 しかし一つ合点がいく。お姉様達とお会いした時、くれぐれも弟を宜しくと頼まれたのだけど何だか様子がおかしかったから。彼の本性をご家族が知らないわけがない。知っていた上でくれぐれも、と言っていたのね。

 まぁ、これからの人生は何事もなく仮面夫婦としてやっていけそう。他所で男を作るようならば、公爵家として一応警戒するようにとお伝えしておけばいいでしょう。うん、完璧!


 旦那様宛の手紙に、男性とのお付き合いは隠れてなさって下されば何も望みません、と書いて執事に託す。さぁ、お茶でも飲みながら方々から届けられたお茶会への招待状に一応目を通しつつ引き籠りライフの計画でも立てましょうかと手紙を手に取った瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。

 びっくりして扉を見たら、先程出したばかりの手紙を握りしめた、汗だくの旦那様が……え? 数分前に出した手紙よ? 何故旦那様がここに!?


「だ、旦那様?」

「アリ、アナ……ちゃぁ~ん!!」

「!?」


 ご、号泣!? しかも、事情を知らない私の侍女達が困惑気に見ている!! そりゃそうだ。普段のあの姿からは想像もできない程の変わりようだものね。私も夕べ初対面しているとはいえ、ここまで取り乱されると困惑するわ。

 しくしく泣き続ける旦那様に、どうなさったのですかと問えば、旦那様は神をも籠絡してしまえるのではないかと思えるほどに美しい涙を流して私に縋りつく。


「誤解しているわ! 私、浮気なんて絶対しないもの! 確かに、熱い胸板、逞しい二の腕、引き締まった硬いお尻を見ているとときめいてしまうけど」


 ときめいてしまうんかい! いや、別にいいんですけどね。私はそこまで男の人に理想を求めていないから分からないけど、趣味は人それぞれだから。しかし、顔を赤らめながら言わないで。うちの侍女達がドン引きしているから。


「私、今まで誰ともお付き合いしたことはないの。だって、私の理想像はいつだってアリアナちゃんだったんだもの!! 私もこんな人になりたいって、ずっと思っていたの!!」


 己の目指している目標という意味の理想像か。旦那様なら、その気になればなれる気がする。女装趣味がおありならば、お手伝いいたしますが?

 誰とも付き合わないことの説明としてはおかしい気がする。別に旦那様は誰かと付き合っていても良かったでしょうに。まさか、私が引き籠っていたことと何か関係している?

 単純に皇女としての付き合いを拒絶して、人との関わりを絶っていただけなのだけど、それが元で婚姻のお申し出も来なかったから、高潔な恋愛観でそうしていたのだと勘違いされている?


「アリアナちゃんのような美しい人はこの世に二人と居ないわ。だから傍にいたいの。愛でていたいの!!」


 二度目の愛玩動物宣言です。ありがとうございます。


「不幸にしたくないのよ。笑顔でいて欲しいの」


 さっきまでの勢いは形を潜め、両目からはらはらと涙を零す。この人は、男性が好きなはずなのに、何故私と結婚したのだろう。この涙の裏に、その意味が隠されているような気がする。知るべきか、知らざるべきか。今はただ、この涙を拭うことだけ考えましょう。


「旦那様、私は旦那様が不幸ではないのならばそれでいいのです。我慢されているのではないかと邪推してしまったことをどうかお許しください」

「アリアナちゃん……」


 感動から、旦那様はまた泣き出してしまわれた。ハンカチで何度も拭うけれど、ついには私に抱き着いてしまう。夫婦として過ごしたのは半日に満たないのに、どうしてこの方はこんなにも涙脆いのかしら。何故か事情も分からない侍女達までも貰い泣きしている。さっきまでドン引きしていたとは思えない変わりようね。

 喪女歴が長すぎて恋愛感情が枯れ切った私にはまだまだハードルが高そうだけど、この方が幸せでいられるように努めることくらいはできる。


 誰かの幸せの礎に、そうね。それも悪くはないわ。前世のトラウマはあるけれど、少なくとも彼が幸せでいられるように努力しよう。笑顔でいることは一番だもの。







 と、決意した日から二か月。刺繍も編み物も世間話ですら、旦那様の女子力に適わない。私、こんなことなら弓術がやりたい。皇室では、剣は危険だからと剣術はやらせてもらえなかったけれど、弓術だけは許して貰えた。狩猟大会では女性でも弓を片手に矢を射ることが許されているからなのだけど、それに際して馬術まで叩き込まれたのは本当にしんどかったわ。相手が生き物だから、恐怖を覚えてしまっていたのよね。結局、馬術の楽しさを知ったら知ったで、振り落とされたら危険だからあまり乗ってはいけないと言われてしまったのだけど。

 弟はどうしているかしら。あの子は私が嫁ぐことが決まってからというもの、何とかして破談にできないか裏で画策していたのよね。まぁ、両陛下に尽く阻止されてしまったみたいだけど。

 子供の頃、姉上は私が娶る、なんて可愛いことを言っていたわ。おませちゃんよね。


 口角が怪死していると言っても過言ではないほど笑わない私が笑ったのを旦那様は目聡く気付いた。


「まぁ、何か楽しいことでも考えていたの?」

「えぇ、弟のエイドリアンのことを思い出して」

「皇太子、殿下の?」

「えぇ」


 何かしら? 旦那様の笑顔が硬直している気がする。若干、笑顔が引きつっているような?


「どうかなさったのですか?」

「いいえ? 何も?」


 いや、何かあったでしょう。何故あからさまに目を逸らすのです? 実はね、何かあったんです、と言わんばかりではないの。はぁ、お互いに取り決めたことをもう忘れてしまわれたのかしら?


「旦那様、困っていることがあるのでしたら話して下さるとおっしゃっていたではないですか。お互いの幸せのために、心中を打ち明け合うと約束したでしょう?」

「っ、それは……」

「言えないようなことなのでしたら、いいのですけど」

「!? 別に、言えないことじゃないわ!!」


 私の作戦通り、旦那様は否定を口にした。はっとした時には既に遅し。宣言した以上、話して貰わなくては、ね?

 おずおずと話してくれたその内容を端的に説明すると……


「つまりエイドリアンが、私達の離縁を旦那様に迫っている、と?」


 肯定の意を込めて頷く旦那様。まぁ、なんてことでしょう。でも何故? 確かに当初は私の結婚を快く思ってはいなかったけれど、私が幸せになるならと認めてくれていたはずなのに。

 今更、と言っても二か月しか経ってはいないとはいえ、既に既婚者となった姉の結婚に異を唱える理由は一体何なのかしら。今度、会ってみる必要性があるわね。


「旦那様、ご安心して下さい。私は既に嫁いだ身。ミレニアム公爵夫人ですわ。エイドリアンが何と言おうと、私はここにいます」

「アリアナちゃん……」


 あぁ、また泣きそうな顔を。旦那様の泣き顔は多くの使用人達を虜にし、開けてはいけない扉を開けさせかねないのでやめて欲しい。侍女なら身分違いの恋だけど、侍従だったら禁断の恋よ。旦那様的にはいいかもしれないけれど、彼等の未来のために泣くのは控えて頂きたいわ。

 旦那様はいつも私を抱きしめて安心したがるから、まるで大きな子供みたいに思えてしまう。おぉよしよし、と口に出さないように気を付けながら背中を叩いていると……何処からともなく突き刺さるような視線が。


「姉上……」


 噂のエイドリアンが、家人の許しもなく何故かそこにいた。わなわなと拳が震えている。あら、大変なことになったわ。一方旦那様は、エイドリアンの存在に怯えて縮み上がって動けなくなっている。このままだと、もっと大変なことになるわ。現に、エイドリアンのボルテージが上がっていくのが見えるようだもの。

 そもそも、何故家人の許しもなく入って来られたのかしらと思っていると、アドリアナお姉様がいらっしゃった。


「あら、随分と仲がいいのね! 良かったわ! 愚弟……いえ、愛しい弟と地上の祝福と称されるアリアナ王女殿下のむつみ合う姿に、姉として感無量よ。神に感謝しなくては!!」


 愚弟? いえ、その前に空気を読んでお姉様!

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