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第1話「46歳社畜おじさん、異世界へ転生する」

はじめまして!

TM部長(仮)と申します。


これまで異世界転生ものが大好きで、たくさんの作品を読んできました。

そんな中で、「自分でもこんな物語を書いてみたい!」と思うようになり、思い切って小説を書き始めてみました。

小説を書くのは今回が初めてなので、文章や表現など、まだまだ至らない点も多いかと思います。


もし作品を読んで「ここが気になる」「こうした方がもっと面白くなるかも!」と感じることがありましたら、感想やアドバイスをいただけると、とても嬉しいです。

少しでも皆さんに楽しんでいただける作品を目指して、コツコツ書いていきたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします!

 人生、何が起こるかわからない。


 そんな言葉を聞くたびに、俺は思っていた。


 いやいや、人生なんてだいたい決まっているだろう、と。


 朝起きて、満員電車に揺られて、会社で働いて、上司に怒られて、帰宅して寝る。


 その繰り返し。


 少なくとも、46歳にもなれば大抵のことは予想できる。


 そう思っていた。


 ――あの日までは。


 ◇◆◇


「成田さん、ちょっといいですか?」


「はいはい、なんでしょう?」


 午後八時四十分。


 秋葉原のオフィスで、俺はパソコンの画面から顔を上げた。


 目の前には、入社二年目の女性社員が立っていた。


「明日の面談なんですけど、お客様から追加の相談がありまして……」


「あー、大丈夫ですよ。見せてもらえます?」


 俺の名前は成田和彦。


 46歳。


 妻一人、子供二人。


 職業は、オタク専門の結婚相談所で働く婚活アドバイザーである。


 簡単に説明すると、アニメやゲーム、漫画が好きな人たちの結婚をサポートする仕事だ。

 世間一般には少し珍しい職業かもしれない。


 だが、やっていることは至って真面目である。


 会員のプロフィールを作り、お見合いをセッティングし、交際の相談に乗る。


 時には失恋した会員を励まし、時には理想の条件について厳しい現実を伝える。


 そして無事に成婚した会員を送り出す。


 人の幸せを手伝う仕事だ。


 やりがいはある。


 とても、ある。


 ただし。


「……あれ? 成田さん、まだ帰らないんですか?」


「この資料をまとめたら帰ります」


「でも、もう九時ですよ?」


「いやあ、ははは……」


 帰れないのである。


 別にブラック企業だと言いたいわけではない。


 ただ、俺は昔から仕事を断るのが苦手だった。


 困っている会員がいれば放っておけない。


 後輩に相談されれば、ついつい最後まで付き合ってしまう。


 その結果、今日も残業だ。


 スマホが震えた。


 妻からのメッセージだった。


『今日も遅いの?』


 俺は慌てて返信する。


『ごめん。もう少しかかる』


 数秒後。


『明日、悠斗の学校の三者面談があるからね。忘れないでよ』


『わかってる。大丈夫』


『あと、結衣の塾代、今月から上がったから』


「……マジか」


 思わず声が出た。


 我が家には二人の子供がいる。


 高校二年生の息子、悠斗。


 中学二年生の娘、結衣。


 どちらも金のかかる年頃だ。


 そこに住宅ローン。


 食費。


 光熱費。


 保険。


 教育費。


 俺の財布は毎月、瀕死の重傷を負っていた。


「成田さん、どうしました?」


「いや……娘の塾代がレベルアップしたみたいで」


「あはは、ゲームみたいですね」


「経験値は俺が払ってるんですけどね……」


 笑いながらも、心の中では泣いていた。


 ちなみに俺の毎月のお小遣いは一万円だ。


 一万円。


 46歳の男が自由に使える金額である。


 昔は漫画を大量に買い、深夜アニメを録画し、休日は秋葉原を歩き回っていた。


 今では新作ゲームを買うことすら躊躇する。


 積みゲーだけが増えていく。


 いや、最近はゲーム自体を買えていない。


 積んでいるのは、いつか遊びたいという願望だけだ。


「……帰ろう」


 俺はパソコンの電源を落とした。


 時計は午後九時三十二分。


 今日も長い一日だった。


 ◇◆◇


 秋葉原の街は、夜になっても明るかった。


 巨大なアニメの広告。


 ゲームショップ。


 フィギュアを並べたショーウィンドウ。


 そして、行き交う若いオタクたち。


「……いいなあ」


 思わずつぶやく。


 昔の俺もあんな感じだった。


 新作アニメの話をして、友人とゲームをして、給料日には欲しかったフィギュアを買う。


 そんな時代もあった。


 だが、後悔はしていない。


 俺には家族がいる。


 妻の美咲と、二人の子供。


 家に帰れば、冷蔵庫に俺の夕飯が用意されている。


 たまに娘から「お父さん、うざい」と言われる。


 息子とは最近、会話が減った。


 妻には毎日のように節約しろと怒られる。


 それでも。


「……悪くない人生だよな」


 少なくとも、俺はそう思っていた。


 交差点の信号が青になった。


 俺は歩き出す。


 その時だった。


「危ないっ!!」


 誰かの叫び声が響いた。


 反射的に振り向いた。


 道路の真ん中に、小さな男の子が立っていた。


 五歳くらいだろうか。


 手にはアニメキャラクターのキーホルダー。


 どうやら落としたものを拾おうとしたらしい。


 そして、その向こうから。


 大型のワゴン車が猛スピードで迫っていた。


「おいおいおい、嘘だろ!?」


 考えるより先に身体が動いた。


 俺は走った。


 46歳。


 運動不足。


 健康診断では毎年、体重を減らせと言われる。


 階段を二階まで上がっただけで息切れする。


 そんなおじさんの身体が、なぜかこの瞬間だけは信じられないほど動いた。


「坊主っ!!」


 男の子を突き飛ばす。


 小さな身体が歩道側へ転がった。


 よし。


 間に合っ――。


 ドンッ!!


 凄まじい衝撃。


 視界が回転した。


 地面が近づく。


 何かが折れるような音がした。


 そして、痛み。


 いや。


 不思議なことに、痛みはすぐに消えた。


 代わりに、身体がひどく重くなっていく。


「……あ、これ……」


 知っている。


 いや、正確には知識として知っている。


 アニメで何度も見た。


 漫画で何百回も読んだ。


 ライトノベルでもお馴染みの展開。


「……まさか、俺が……?」


 異世界転生もの。


 その典型的な導入だ。


 いやいや。


 ちょっと待て。


 俺は高校生でも大学生でもない。


 46歳だぞ。


 妻もいる。


 子供もいる。


 住宅ローンだって、まだ二十年以上残っている。


「……美咲……」


 妻の名前が口から漏れた。


 明日は息子の三者面談だった。


 娘の塾代も払わなければならない。


 そうだ。


 来月は結婚記念日だった。


 今年こそ、何かプレゼントを買おうと思っていたのに。


「……ごめん……」


 意識が薄れていく。


 最後に見えたのは、無事に助かった男の子が泣いている姿だった。


 ……ああ。


 よかった。


 それだけは、本当によかった。


 ◇◆◇


『――成田和彦さん』


「……はい?」


 誰かに呼ばれた。


『成田和彦さん、聞こえますか?』


「はい、聞こえますけど……」


 目を開ける。


 真っ白な空間だった。


 床も壁も天井もない。


 ただ、ひたすら白い。


「……病院?」


『違います』


「じゃあ、ここは?」


『神界です』


「……は?」


 目の前に、美しい女性が浮かんでいた。


 金色の長い髪。


 純白のドレス。


 背中には光り輝く翼。


 頭上には輪っかまである。


 どう見ても女神だった。


『はじめまして。私は転生を司る女神、エリシアです』


「…………」


『あなたは先ほど、地球で命を落としました』


「…………」


『ですが、あなたの勇敢な行動により、一人の幼い命が救われました。その功績を称え――』


「ちょっと待ってください」


『はい?』


「帰してください」


『……え?』


「元の世界に帰してください」


 女神が固まった。


『あ、あの……普通はここで驚いたり、特殊能力について聞いたりするところなのですが……』


「いや、そんなのどうでもいいんで」


『どうでもいい!?』


「俺、妻子持ちなんですよ」


『……はい』


「子供が二人いるんですよ」


『存じております』


「住宅ローンもあるんですよ!」


『じゅ、住宅ローン……?』


「明日、息子の三者面談なんですよ!」


『ええと……』


「あと娘の塾代が上がったばかりなんですよ!!」


『ちょ、ちょっと落ち着いてください!』


 女神が慌てたように両手を振る。


 落ち着けるわけがない。


 こちらは46歳の社会人だ。


 突然死にました、転生します、おめでとうございます。


 そんな話で納得できるか。


「そもそも転生って、普通は高校生とかがするもんでしょう!?」


『そ、それは偏見です!』


「いやいや、俺みたいなおっさんが異世界に行ってどうするんですか!」


『だ、大丈夫です! 特別な能力を授けますから!』


「能力?」


『はい! あなたに最も適した固有スキルを授けます!』


 女神が両手を広げた。


 空中に青白い画面が浮かぶ。


 まるでゲームのステータス画面だ。


 そこに文字が表示された。


<ステータス>

《縁結び》

レアリティ:EX

対象者の潜在的な相性、信頼関係、感情の変化を可視化できる。

また、一定条件を満たすことで、人と人の間に存在する「縁」を強化することが可能。

ーーーーー

「…………」


『どうです? 素晴らしいでしょう!』


「いや……」


 俺は画面を凝視した。


 もう一度、読み直す。


 縁結び。


 相性。


 信頼関係。


 感情の変化。


「……それ、今の仕事と一緒じゃないですか」


『え?』


「いや、俺、婚活アドバイザーなんですけど?」


『はい! ですから最も適した能力を――』


「転職させてくれよぉぉぉぉ!!」


 俺の絶叫が神界に響き渡った。


 せっかく異世界に転生するなら、もっとこう。


 剣聖とか。


 大魔導士とか。


 勇者とか。


 そういうのがあるだろう!


『で、ですが、その能力は世界で唯一の――』


「攻撃魔法とかないんですか!?」


『ありません』


「身体能力強化は!?」


『ありません』


「無限収納は!?」


『ありません』


「鑑定スキルは!?」


『人間関係限定なら……』


「戦闘に使える能力は!?」


『……ありません』


「…………」


 終わった。


 俺の異世界生活、始まる前から終わった。


『そ、その代わり、転生先ではあなたの知識をすべて引き継げます!』


「知識?」


『地球で得た経験、技術、記憶。そのすべてです!』


「……オタク知識も?」


『もちろんです!』


 俺は腕を組んだ。


 なるほど。


 確かに、それなら少しは使い道があるかもしれない。


 長年のアニメ・ゲーム・漫画生活。


 そして、婚活アドバイザーとして積み重ねてきた経験。


 交渉術。


 心理学。


 コミュニケーション。


 人間関係のトラブル解決。


 ……まあ、剣と魔法の世界で役立つかは疑問だが。


「……で、帰る方法は?」


 俺が尋ねると、女神は急に目をそらした。


『…………』


「ありますよね?」


『……可能性は、あります』


「可能性?」


『異世界には、世界と世界を繋ぐ古代魔法が存在します。ただし、それを使用できる者は……』


「できる者は?」


『現在、確認されておりません』


「ダメじゃねーか!!」


『で、ですが! 完全に不可能というわけではありません!』


 女神は必死だった。


『あなたの縁結びの能力が成長すれば、いずれ世界そのものの縁を繋ぐことも……』


「……世界の縁?」


『はい』


 その言葉に、俺は少しだけ希望を感じた。


 世界と世界を繋ぐ。


 つまり、地球に帰れるかもしれない。


 妻に会える。


 子供たちに会える。


 もう一度、あの家に帰れるかもしれない。


「……わかりました」


『では、転生を受け入れていただけますか?』


「ただし、条件があります」


『条件?』


「絶対に帰る方法を探します」


『……はい』


「魔王でも何でも、必要なら会いに行きます」


『はい!』


「あと、できれば身体は二十歳くらいにしてほしいんですけど」


『それは無理です』


「即答!?」


『あなたは今の姿、今の年齢のまま転生します』


「いや、せめて腰痛くらい治してくださいよ!」


『……それくらいなら』


 女神が苦笑した。


 そして。


『成田和彦さん。あなたの新しい人生に、幸多からんことを』


 足元が光り始めた。


 身体がゆっくりと沈んでいく。


「ちょ、ちょっと! せめて転生先の情報くらい!」


『大丈夫です! あなたならきっと上手くいきます!』


「その根拠は!?」


『私の勘です!』


「女神が勘で仕事するなぁぁぁ!!」


 視界が白く染まった。


 ◇◆◇


「……いてて」


 目を覚ますと、俺は草原に寝転がっていた。


 青い空。


 白い雲。


 見渡す限りの緑。


 遠くには巨大な山脈がそびえている。


 そして、空には――。


「……月が、二つ?」


 青白い月と、赤い月。


 どうやら本当に異世界らしい。


「……マジかよ」


 俺は起き上がった。


 身体を確認する。


 白いワイシャツ。


 黒いスラックス。


 革靴。


 会社帰りの格好、そのままだ。


 ポケットを探る。


 財布。


 社員証。


 家の鍵。


 そしてスマートフォン。


「……圏外、か」


 当然だった。


 試しに妻とのメッセージ画面を開く。


 最後のやり取りが表示されていた。


『あと、結衣の塾代、今月から上がったから』


 たったそれだけの文章。


 なのに、涙が出そうになった。


「……美咲」


 スマホを胸ポケットにしまう。


 泣いている場合じゃない。


 俺には帰る場所がある。


 だったら、何が何でも帰らなければならない。


「……よし」


 立ち上がる。


 その瞬間。


 ガサガサッ。


 近くの茂みが揺れた。


「ん?」


 何かが出てきた。


 緑色の小さな生き物。


 丸い身体。


 大きな目。


 頭には角が一本。


「……ゴブリン?」


 違う。


 ゴブリンにしては丸すぎる。


 どちらかというと、ゲームでよく見る――。


「……スライム?」


『ギュルルルッ!』


 スライムらしき生物が唸った。


 俺はゆっくり後ずさる。


「……えーと」


 武器はない。


 防具もない。


 魔法も使えない。


 身体能力は46歳のおじさん。


 そして相手は、異世界の魔物。


「……詰んだ?」


 スライムが飛びかかってきた。


「うわぁぁぁぁ!!」


 俺は全力で逃げ出した。


 しかし。


 走り出して、わずか十秒。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


 息が切れた。


 運動不足。


 圧倒的運動不足。


「くそっ! 異世界転生しても体力は据え置きかよ!」


 スライムが迫ってくる。


 もうダメだ。


 そう思った瞬間だった。


『――固有スキル《縁結び》が発動しました』


「……は?」


 突然、目の前に青い画面が現れた。

<ステータス>

対象:グリーンスライム(雌)

項目状態

年齢3歳

性格寂しがり屋

現在の感情怒り・不安

求めるもの安心できる居場所

好物甘い果実

相性のよい相手穏やかな気質の生物



「…………」


 俺は思わず足を止めた。


「……待てよ」


 スライムが迫ってくる。


 だが、俺の頭には妙な考えが浮かんでいた。


 寂しがり屋。


 怒り。


 不安。


 安心できる居場所。


 そして、甘い果実。


「……なるほど」


 俺はスライムに向き直った。


「君、もしかして寂しいの?」


『ギュル?』


「そうかそうか。急に知らないおじさんが縄張りに入ってきたから、警戒してたんだね」


『……ギュ』


「わかるよ。知らない人が突然近づいてきたら、怖いよね」


 俺はゆっくりしゃがんだ。


 そして、できる限り穏やかな声で話しかけた。


「でもね、俺も困ってるんだ」


『……ギュ?』


「いきなり知らない場所に放り出されてさ。家族にも会えなくなって……」


 口にした瞬間、胸が締めつけられた。


 だが、俺は笑った。


「……お互い、大変だよな」


 スライムが動きを止めた。


 そして、ゆっくりと俺に近づいてきた。


『……ギュ』


「ん?」


 ぽよん。


 スライムが俺の靴に身体を寄せた。


 その瞬間。


『――対象との信頼関係が成立しました』


『――固有スキル《縁結び》の熟練度が上昇しました』


『――特殊称号《魔物の心を理解する者》を獲得しました』


「……え?」


 青い画面が次々と現れる。


『――世界初の実績を確認』


『――称号《魔物と対話せし者》を獲得しました』


「ちょ、ちょっと待て」


『――成長条件を達成』


『――固有スキル《縁結び》に新たな機能が解放されました』


「……は?」


 最後の画面には、こう書かれていた。


《縁結び》新機能:契約仲介


 異なる種族間の意思疎通、協力関係、契約成立を補助する。


 さらに、成立した契約に応じて、契約者の潜在能力を一部共有することが可能。


「…………」


 俺はスライムを見た。


 スライムも俺を見た。


『ギュ?』


「……いや、待って」


 俺は額の汗を拭った。


「これって、ひょっとして……」


 戦闘能力ゼロ。


 魔力もない。


 剣も使えない。


 そんな俺が。


「……仲良くなるだけで、強くなれるってこと?」


『――肯定します』


「…………」


 俺はスライムを見た。


 スライムも俺を見た。


『ギュ?』


 そして、俺は天を仰いだ。


「……マジか」


 思わず口元が緩む。


 異世界転生。


 固有スキル。


 隠された能力の覚醒。


 何百冊ものライトノベルで読んできた、あの展開。


 まさか46歳になって、自分が体験することになるとは。


「……ふ、ふふ」


 俺は両手を握りしめた。


 そして。


「チートシステム来たー!!」


 46歳のおじさんの歓声が、異世界の草原に響き渡った。


 こうして。


 46歳、社畜おじさん。


 成田和彦の異世界生活が始まった。


 もちろん、この時の俺はまだ知らなかった。


 この小さなスライムとの出会いが、やがて王国を救い、魔族と人間を和解させ、世界の歴史を変えることになるなんて。


 そして何より。


 俺が異世界で最初に成婚させる相手が、人間ですらないことを。


 ――第1話・完――

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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