実家に中国版(?)のグリム童話(?)があったので漢文が割と得意だったので書き下した
実家に中国版(?)の白雪姫があったので漢文が割と得意だったので書き下した
一
妖鏡告げて曰く、「此の国を傾くべき者は、白雪なり」と。
女王、之を懼れ、誓って必ず誅伐せんとす。
二
白雪は、絶代の佳人なり。
六歳にして軍を破り、十歳にして熊を殺す。
烹て以て羹と為す。
年十六に至り、長十七尺。
重さ千斤に達し、堂々たる淑女なり。
右に蛇矛四百斤を提げ、左に偃月三百斤を擎ぐ。
奮迅縦横なること、宛も飛雪の如し。
過ぐる所の処、白雪、皆紅なり。
忽ち叱して曰く、「無礼甚だし」と。
姫、本より怒り無く、天性唯だ猛きのみ。
一閃して龍を斬れるは、其の前を過ぎたるを以てなり。
獲る所の首幾千万、滅ぼせる国已に十を逾ゆ。
朝に東を征し、夕に西を撃つ。
四海敵無く、深歎に沈む。
姫、常に曰く、「美人薄命」と。
死地を求めて已まず、然れども死も亦姫を畏れ、四海に死すべき場無し。
遂に民をして急ぎ巨舶を造らしめ、滄海を渡らんと欲し、死地を異域に定む。
屠龍の業は、無聊を慰むるに足らず。
凡馬は其の重きに堪へず。
故に白象に跨る。乃ち異国の朝貢なり。
三
白雪姫のみめうるはしき御かたちに王は屈し給ひ、女王はうつつともおぼえで目を背け給へり。
今日も女王、鏡に問ひ給ふ。
「鏡よ。天の下にいみじく美しきは誰そ」
鏡、答へて申さく。
「そは女王の御前――」
「いな、しばし待て!」
御格子、ふと蹴破られぬ。白雪姫の御しわざなり。御背には偃月と申す刀を負ひ、右の御手に蛇矛、左の御手に龍の首を提げ給へり。
女王、「あなや」と叫ばむとし給へど御声も出でず、ただ恐れおののき給ふ。
「久しう拝し奉らず、母上」
白き『どれす』、血の朱に染まれり。姫君、蛇矛を壁に立て掛け、心おごりたるさまにて椅子にうち掛け給へり。椅子の軋むをもえ憚らず、龍の首を御机に投げ遣り給ふ。
「土産に侍り。御かたち作りにいとよしと聞き及び侍れば」
姫君、龍のまなこを抉り出だし、拳の大きさばかりなる玉を御口に投げ入れ給へり。生のまま数度噛みて、やがて飲み下し給ふ。
「眼は『こらあげむ』とかや申すものいと多しと聞き侍り。あな、これぞ『があるずとおく』なるべし」
御腰に結ばれたる三尺の酒瓶にて御口をすすぎ、猛る御心を鎮め、冷やかにうち笑ひて鏡に歩み寄り給ふ。
「鏡よ! 汝に問ふ! まことに美しきは誰そ!」
有無をも言はせぬ御けしきなり。
「そは女王の御前――」
「聞こえざるぞ?」
姫君、鏡ざまに偃月を振り給ふ。されど偃月は傍らなる女王の御鼻先にて止まりぬ。女王はすくみゐ給へり。
「あな? 母上、そこにおはしましけるか」
そればかり宣ひて、酒を一口含み、ふたたび鏡にただ問ひ給ふ。
「美しきは誰そ?」
「……白雪姫の御前にこそおはしまし侍れ」
鏡の答へに姫君、やをら頷き給ひ、龍のいま一方の眼を抉り出だし給へり。
「母上もいかがせむ? わがごとき美貌を得ること難からず」
姫君、うち笑ひて重ね給ふ。
「若さのみは奉るに及ばざれど」
姫君、いまだ立ち上り給はぬ女王の御口元へ、その目玉を押し付け給へり。
「や、やめ給へ!」
女王、力の限り抗ひ給ふ。姫君、小首を傾げて御手を留め給ふ。
「かく美味にして肌にもよしと申すを、いとめづらかなることかな」
掲げたる目玉をみづから落とし、御口にて受け止め飲み下し給へり。
「去れ! 疾く去り給へ!」
いとむつかしき御さまにて、女王もはや堪へ給はず。
「追放と申すか」
姫君、酒瓶を御手に取り満足げに頷き給へり。
「うむ、これぞ『ぱわああっぷいべんと』なるものぞ。これにて目覚むるとぞ聞く。いとをかし」
姫君、いと楽しげなり。
「さても母上、しろしめすや? 追放されし者、みそかに賢くおはして、陰より国を支へたる者ありと――かかる物語を。いさ知らず、妾去りなむのち、この国はいかにならむ。平らげし諸国、こぞりて背くやも知れず」
女王、「そは汝が平らけき国々をことごとく踏みにじりたるゆゑなり」と宣はむとし給へども、つひに一言も発し給はず。
「よし。若さをねたむ心、美しさをそねむ思ひ、同じき女の身としてことわりなり。今日より、母にあらず、娘にもあらず。追放、確かに承りぬ。これぞ『ざまを見よ』といふものよ」
白雪姫、からからとうち笑ひ給ふ。かくして御局を、城を、国をも後にし給ひけり。
四
城を逐はれ給へる白雪姫、やがて一つの森に至り給へり。
御足にて締めて白象を留め、軽げに地を揺らして飛び降り給ひぬ。
「いとをかし。匂へり、匂へり。息を潜め猛き御けしきを隠し給へども……隠し果つべくもなき血と死の匂ひ。ああ、佳人の宿世なり。死より逃るることえせむや」
面輪に満つれる笑みをたたへて、森のかたを指し給ふ。
「一、二、三……」
うち笑ひつつ数へ給ひ、七に至りて止み給ふ。
「妾に死を! 血を! 戦ひを! 薄命の宿世を!」
姫君、あなづりてもろ御手を広げ誘ひ給へり。
これに応ふるやうに、森よりかたち清らなる七人の男ども飛び出でたり。
「汝ら、射掛くるや? いや、射掛けざるや」
姫君、すさまじうあへなき心地して、もろ御手に御得物を構へ給ふ。男ども、地に伏して額づきたり。
「なにとぞ、なにとぞお許し給へ。白雪姫君のいみじうたけくおはしますこと、戦場にて承り侍りき。我ら辛うじて生き長らへ、この森に落ち延びたる身に侍り。のどけき末をのみこそ望み侍れ」
「弓を取れ。欲する物は己が手にて勝ち取るものぞ。のどけき末を望まば、この白雪姫を討ち取るがよし。それとも望むは、この妾か?」
白雪姫、『うゐんく』を一つし給へり。されど面を上げざる男どもには届かざりき。
「たはぶれ言を宣ふな。姫君のいみじき御ほど、よく存じ奉りて侍り。我らが矢の及ぶ御方ならば、はや仕掛け奉りなまし。のどけき暮らし許され侍らずば、ただ御手にかけ給へ」
姫君、うち嘆き給ひ、ふたたび象に跨り給ひぬ。
「妾は追放されし身ぞ。宿に案内せよ! 小さき者ども!」
男ども、己らが小さきにはあらず、ただ姫君のおほきにおはしませばこそと思へども、口に出だすべくもあらず、逆らふすべもなくて、隠れ家へと導き奉れり。
五
白雪姫、己を薄命の佳人なりと深く信じて疑ひ給はず。かくて、かかる暴君より、人々は辛うじて解き放たれけり。城下は日々の祭のにぎはひにて、喜びの声、天に満ちたり。
されど、城まで届くかまびすしき響きのうちにも、女王の御心は晴れ給はざりき。
白雪姫の残し給へる、恨みのほの見ゆる言の葉。これぞ女王の御胸の底に留まりて払はれざりけり。
「かの武威、もし我らに向けられなばいかにせむ」
この国もまた、踏みにじられし国々の数に入りなむ。あるいは遺臣どもが仇を報いむと企てば、禍事いかばかりならむ、知るべくもあらず。
我らがうち、ただ一人だに争ひを望む者なし。和を乞ふとも、さりとて彼ら受け引かむや、知るべくもあらず。
「鏡よ。この国を滅ぼすべき者は誰そ」
鏡、答へて申さく。
「この国を滅ぼすべき者、白雪姫におはします」
女王の御心、ここに定まり給ひぬ。いかでか白雪姫を誅せざらむ。刺し違ふるとも討ち果たさむ。
「しかる後、その御首を晒さむ。この国、他国の遺臣の手にて滅ぼさるるとも、ともかくも滅びむ。かの悪鬼を生み出したるは、ひとへに我が罪なればなり」
六
「いかにや? たぐひなき佳人に仕へて、果報この上なからむ?」
白雪姫、うち臥し給ひつつ塩を嘗めて問ひ給ふ。
第一の小さき者、大団扇にて姫君を扇ぎつつ答へたり。
「仰せのままに侍り」
その面には、日々の疲れの色ありありと見えたり。
「汝らが家のうちのことども、みな引き受けて、ひたぶるに留まらむことを乞ひ願ひたれば、妾はよしなくここに留まりたり。塩を嘗め、酒を呑む――邪気祓ひにこれにしかるものなし。え酒呑まぬ小人ども、邪鬼にも劣りていとあはれなるかな」
姫君、第二の小さき者に酌をさせ給ひ、大皿のごとくなる杯を一息に飲み干し給へり。
「すはや一大事なり! 領主の軍勢、攻め寄せたり!」
第三の小さき者、まどひ騒ぎて家に飛び入りたれば、姫君は高らかにうち笑ひ給へり。
「佳人の噂を聞きつけたるか。領主なる者には、富と色と勢ひとの他なきと見えたり」
さもあきれたる御気色にてうちつぶやき給ふ。
「武器を持て」
第四の小さき者、『どれす』を運び参らせ、第五の小さき者、偃月を負ひ、第六の小さき者、蛇矛を引き摺り、第七の小さき者、白象を牽き参らせたり。
姫君、これらを奪ふやうに御手に取り、象に跨り給ひぬ。
「昼までには戻らむ! 米なりともかしぎ置け!」
宣ひ放ちて、疾き風のごとくに駆け去り給ひけり。
七
領主は、百五十の兵を率ゐたり。
「あはれと思ひて見過ごし来つるに……」
領主、嘆き怒れる気色、面に顕れたり。
森に旧王族の郎等の住まふこと、かねてより知れることなり。白雪姫に害はれし者どもを捨て置くのみならず、みそかに庇ひ来つるなり。落人どもも、これまではのどかに過ぐしゐたり。
されどこのごろ、かの者ども賊となりて、里を襲ふことうち続けり。領主、白雪姫の逐電を知り、再起を図らむとするにやあらむと思へり。
かの者どもの、姫の果てなき酒肴を貢がむがために、盗賊に身をやつしたりなどとは、夢にも思ひ至らざりけり。
かくして領主もまた、心づかぬほどに白雪姫の戯れのままに動かさるる者のひとりとなりぬ。
その領主のもとへ、物見、まどひて立ち帰れり。されどその告げを待つほどもなく、物見が背にははや巨象の影さしたりけり。
白雪姫、白象に括り付けたる銅鑼をみづから打ち鳴らし、蛇矛と青龍偃月刀とを御手に取り給へり。
「目ある者はしかと見よ! 耳ある者は音に聞け! 妾のぼでぃます指標、二十三なるぞ」
姫君、「ふくよかならず、ただなみなみなり」と宣ひて、ひといきに駆け出で給へり。
白象に跨り、白き『どれす』を纏ひ給へるおほきなる御姿、一目見るより、いづれも白雪姫よと知りぬ。ただそれのみにて、軍勢は崩れぬ。
されど姫君は止まり給はざりき。あたり一面、紅の肉のひら、雪のごとく降り積もるまで。
八
白雪姫、現れ給ふ。
その報せに、国中の人々、いみじく愁へ沈みけり。かの姫君の御身を慎み給はむなどとは、ただ一人だに信ずる者なかりけり。まがごとに添へてその御名の伝はるは、かねて思ひまうけしことなり。ただ、しましののどやかさを夢に見侍りしばかりなり。
民草こぞりて夢に沈むに、女王ただひとり目覚めさせ給ひて、うつし世におはしましけり。
「このまがごと、起こるべきゆゑあればこそ起これれ。今より後、おほきなる禍なほ続かむ」
女王、深く思し召しけり。されば、今より後、二たび起こさせじ。その御心まうけ、いみじう深し。
いみじきつはものをもただ一打ちに斬り伏せ、龍をほふり、あまたの兵を追ひ散らし給ふ白雪姫。その姫君に、か弱き女王、いざ挑まむとし給ふ。
「御前、いざ此方へ」
第一の小さき者、女王を導き聞こえけり。この者どももまた、心定めたり。
隠れ家のあたりには、いかめしき鼾響きわたりたり。大酒を召したる姫君のものなり。
小さき者と女王、ものも言はず頷き合ひて、家に火を放ちければ、白昼なれど炎いと明らかに燃え立ち、落ち人どもはここにふたたびの落城に逢ひたり。されど落ち人どもの面には、うれしとも悲しとも、力落としたるけしきもなし。ただ、これより後いかなることか起こらむと、行く末おぼつかなく、さりとて心定めたるけしきばかりなり。
「美人薄命~~~!」
炎の中より、おほきなる欠伸とともに白雪姫現れ給ふ。
「おお、母上におはしまさずや。没落か? 没落せしか? 『ざまを見よ』なるか? 今さらに戻り来よと宣ふとも、はや遅し」
姫君、ねぶたげなる御目を擦り、御身を掻き給へり。落ち人ども、歎き敢へず。
「ほう、白昼より『きゃんぷふぁいやあ』とや? 吾を差し置きて楽しげなること」
姫君、背後にて己が御寝所の燃え盛るに、やうやう心づき給へる御ありさまなり。
「……汝、食すや?」
女王、白雪姫に林檎を差し出し奉り給へり。
「おお、あしたの御膳いまだ取らざりき。さすがに母上、御心づかひのよきことよ」
姫君、皮ながらに食み給ふ。籠に満ちたる林檎、瞬く間に尽きたり。
女王、おづおづと姫君の御気色を窺ひて問ひ給ふ。
「……して、御身のありさまはいかにや?」
姫君、この御問ひをば、娘の身を案ずる母のあはれみと受け止め、うち笑み給へり。
「おお、母上は吾が体を案じ給ふか。よべの酒いささか残れども、かくいとつつがなし」
姫君、快げに己の御腹を打ち叩き給へり。女王、いぶかしみつつ、重ねて問ひ給へり。
「さ、さやうか。なれば、その……林檎の味はひはいかなりしや?」
姫君、心ゆきたるさまに頷きて答へ給へり。
「うむ。舌を刺すやうなめづらかなる心地いとをかしく、いとうまき林檎なりき。母の情け、確かに味はひたり」
さ宣ひてふたたび横たはり給ひ、「酒の後は、なほ『ふるうつ』にしかるものなし」と宣ひ鼾をかき始め給へり。
せむすべ尽き給へる女王、小さき者どもにあまたの物どもを賜びて、その費えを贖ひ給ひて、うちしをれて帰りゆき給ひけり。
九
白雪姫、槍を投げ給ふ。この数日、朝ごとのならはしなり。
広げ給へる御手に、小さき者どもが第二の槍を載せ奉れり。
白雪姫、ふたたび投げ給ふ。
槍の向かふ方は、王城なり。遥かなる彼方に届く、娘が親君に贈る『もうにんぐこおる』なり。
「なにとぞ許させ給へ……。大殿、北の方におはしますを」
耐へかねたる小さき者、諫め奉りぬ。姫君、その頭を押さへつけ給へり。小さき者、死を思ひまうく。
「親子の縁を切れと申すか? 母は過ちを悔い、おろかにこそあれ詫びに参りしなり。娘たる者、恨みを留めず交はりをふたたび結ぶは、人のならひにあらずや」
姫君にのみは人の道を説くべきすぢなし――小さき者ども、心中かく呟けり。
「湯殿、沸きたるや? 朝の湯浴みて一献、いささか奢りに過ぐるや。ゆめゆめ覗き見るべからず」
世に長らふる限り湯に浴み居給へ、また出で来給ふな――かく念ずれども、小さき者は口に出だすべくもあらず。
かかる姫君のもとへ訪れし者ありしは、日たけて後のことなりけり。
酔ひ痴れて出迎へ給へる姫君の前に現れしは、遥けき国より遣はされたる使ひなり。いみじき武勇のほまれ高く、死に所を求めて海を渡らむと宣ふ白雪姫の御うはさ、遠く伝はりければ、ともがらとならむことを乞はむとて遣はされたるなり。
「初めてまみえつかまつり侍り、白雪姫の御前。御名は遠く我が国までも伝はりて侍り」
若くかたちよき使ひを前に、姫君、やをら問ひ掛け給へり。
「汝、王子なりや? 妾を狙ひて参りしか? 妾を望むか?」
「否、さにはあら――」
姫君、いらへを待たず使ひを御肩に担ぎ上げ給へり。
「よし、王子に攫はれてやらむ」
さて後、白象に跨り給ひぬ。
小さき者ども、うれし涙にむせぶばかりなり。今しも姫君は去りなむ、おのれらもやうやうのがれぬべしと思ひあへり。
「小さき者どもよ! 付き従ひて参れ! 市はよきところぞ。酒も女も金も奪ふに任すなり。よからぬ小さき者なれば、かかる物を好むものならむ?」
小さき者どもいと本意なう思ひ、使ひはものにもあらずあきれゐたるを、姫君のみぞ心ゆきたるさまにてひとりごち給ふ。
「かの地、いかなる死地が妾を待ち居るか、心躍るかな」
姫君、したりがほにうなづき給へり。
「常世の国にて、かたちよく優しき背の君にあつく愛しまるるのどけき暮らしなり。この佳人、薄命のいのち終ふるまで。しかして追放せし者は、鉄にて焼きたる靴を履かせられ『ざまを見る』――かかる運びにこそおはすれ」
さて後、からからとうち笑ひ給ひけり。
漢文って身の丈◯尺って書いてあるイメージだったけど違うのを知りました。
勉強になりました。やっぱり漢文って難しい!
あと、なんか少し違うのは流石は中国ですね!




