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コーヒーの渋み

 オルドはそのまま眠りについた。余程疲弊していたのだろう。ミストが再びオルドに視線を向けた時には、もう眠っていた。


 ミストの前に一杯のミルクティーが現れた。ポールが淹れたものだった。ミストはミルクティーを受け取った。


「あ、ありがとうございます。」

「はは、気にするな。にしても、こいつは昔から変わらねぇなぁ。」

「…どうして、オルドさんは爆破事件を追っているんですか?」

「…そうか。ミストは知らないのか。」


 ポールはそう言って立ち上がり、窓の外を見つめる。視線の先は、あの時計塔だった。その目は、どこか遠い目をしていた。


「…こいつはな、あの爆破事件で友を失っちまったんだ…いや、失ったというか、寝たきりになったというか…目覚めては、ないんだ。」

「ご友人…」

「…お前がどこまでこいつのことを知ってるかわからねぇが、こいつは昔、刑事をやってたんだ。」

「え、オルドさんが?」


 ポールは頷いた。ミストは、コーヒーショップの店主をしているオルドが刑事だとは考えたことがなかった。しかし、言われてみれば納得できる節はいくつかあった。しっかりと鍛えられた肉体と、優れた洞察力。そして、爆破事件の記事を見た反応。


「あぁ、そうさ。オルドは優秀な刑事だった。熱意があって…実力もあった。頭もよく回るからな。文字通りの若手のエースってやつだった。」

「どうして刑事を辞めてしまったんですか?」

「…それが、あの爆破事件にかかわるのさ。」


 ポールは椅子に腰を掛け、大きく息を吐いた。ミストに緊張が走る。縮こまるミストを見て、ポールは話を続けた。


「あの事件でオルドは、ボンスを捕まえる一歩前まで追い詰めたんだ。だが、逃がしてしまった。」

「オルドさんが捕まえたんじゃないんですね…」

「あぁ。捕まえたのはオルドの後輩だ…でも、捕まえるのが一歩遅かった。」

「…え?」

「…オルドが重傷を負って動けなくなった時、あいつの目の前で友が爆破に巻き込まれたんだ。」

「…そんな。」


 ポールの口から語られる、オルドの過去。それは、ミストが想像していたものと全く違っていた。コーヒーショップで危険な遺物を回収する親切な店主。その人物の過去は、悲惨なものだった。


 ミストは言葉を失った。部屋の中は沈黙に包まれる。時計の針が動く音だけが、こだましている。


「…無念だったろうな。自分が動けねぇ状態で友が爆破に巻き込まれるのは…加えて、オルドの方が重傷だからって、そいつは後回しにされたんだ。」

「後回しって…救助が、ですか?」

「あぁ。そのおかげで、オルドは生き延びた…友は植物状態になっちまったがな。オルドは罪悪感に押し潰されそうになって、事件の真相を追い始めたんだ。」

「…?どういうことですか、ボンスはその事件で捕まったんですよね?」

「…あぁ。問題は事件の”裏”だ。警察の調査で、ボンスの使った爆弾は遺物だと判明した…その爆弾は、過去に警察が押収した”記録”が残っていた。」

「…え?それって?」


 ミストの脳裏にある考えがよぎる。爆弾は、遺物だった。過去に押収された記録があった。それを、ボンスが持っていた。それは、つまり―――


「…間違いねぇ。警察の内部に黒幕がいる。オルドはそうだと踏んで、警察を辞めたんだ。」

「…」


 もう、ミストは返す言葉が見つからない。話が悲劇的、かつ複雑だったからだ。なぜ、オルドが遺物を回収しているのか。なぜ、オルドの体が鍛え上げられているのか。なぜ、オルドが爆破事件に固執するのか。点と点がすべてつながった。


「…友の名前はブレン・ワンダー…闇市の情報屋だった。刑事と裏社会の情報屋。オルドとえらく仲が良かったよ。最初は敵同士だったのにな。」

「情報屋?」

「あぁ。ブレンはこの闇市の情報を売ってた。オルドは本当に困ったときはブレンの力を借りてたな。ま、代金は高くついたらしいが。」


 ポールは軽く笑って言った。口角は上がってたが、目に光はなかった。そして、ポールは思い出したかのように口を開いた。


「あ…あとはそうだな…オルドの師匠の教えもあるんだろうな。」

「師匠?」

「そうだ。あいつには、刑事のいろはを叩きこんでくれた師匠がいるんだ…殉職しちまったがな。その時の教えのせいなのか、どんな事件でも首を突っ込む刑事になっちまった。自分の安全が保障されなくてもな。今はもっとひどい。」


 ポールは傍にある灰皿を近くに寄せた。煙草に火をつけた。ミストはミルクティーを一気に飲み干した。


「…ブレンさんって、どんな人だったんですか?」


 ミストは何の気なしに聞いた。ブレンという人物はどういう人間で、オルドとどういう関係だったのか。もっと深くまで知りたくなった。


「ブレン?そうだな…あいつは気ままな猫みたいなやつだったな。勝手に来て勝手にいなくなる。定位置がないからどこにいるのかわからない奴だった。」


 ミストとポールが話をしていると、時刻はすっかり夜になってしまった。動けない怪我人のオルドと小柄なミストを外へ出すわけにもいかず、今夜はポールの店に泊まることになった。

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