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遺物コレクター オルド・ロックマン

 世界は、蒸気に満ちていた。街には機械仕掛けの巨大な時計塔が建てられた。街は歯車だらけになり、轟音が響いている。


 人類は一度、太陽を失った。サイバー文明の輝かしい威光は廃れ、人類は路頭に迷った。長い歴史を紡いできた人類の英知は、太陽を失い、太陽を取り戻したことによって崩壊した。


 時は流れ、約二百年後。人類は思わぬ方向で再び文明を発展させた。蒸気機関。スチームパンクの世界を実現させた。これまでフィクションだった世界が、ノンフィクションと化した瞬間だった。


「…で、今日はどんな代物をお持ちで?」


 とあるコーヒーショップで、男が客と話している。コートに身を包み、茶色のペストマスクを着けている。金属だらけの帽子をかぶり、片手には金属製の杖を握っていた。


 彼の名は、オルド・ロックマン。この蒸気の世界で生きる、ただの一般人だ。


 客は、怯えている。オルドは怯えた客を落ち着かせるべく、一杯のコーヒーを差し出す。「サービスです。」と言って笑ってみせる。しかし、客はオルドの表情を読み取れない。


「…おいしい。」


 オルドの淹れるコーヒーは絶品だ。だが、オルドの店が混むことはない。オルドは店が混み、客が待つことを嫌う。だからわざわざ人通りの少ない場所に店を構えたのだ。誰でも気が向いたときに店に立ち寄り、コーヒーを飲んでくつろげる。これこそ、オルドが望んだ店そのものだ。


「何があったか、お聞かせ願えますか。」

「はい、実は…この遺物、呪われているんです。」


 そう言って、客は鞄から小さな箱を取りだした。オルドはその箱を受けとった。特に、外から見た限りは何の変哲もない箱だ。問題は、中身にある。


「失礼。」


 オルドは箱をゆっくりと開く。中に入っているのは時計だった。しかし、この時代の時計ではない。旧文明の産物。サイバー文明の置き土産だ。


 オルドは時計を手に取ると、笑って見せた。この時計は、もう壊れている。


「この時計が、家の戸棚から見つかったんです。この時計を見つけてから友達とも仲が悪くなるし、機械の動きが悪くなるし…」

「失礼ですが、この時計は壊れていますよ。ご友人と仲が悪くなってしまう。そういうこともあるでしょう。機械の動きが悪いのは、油を差せば、よくなると思いますよ。とりあえず、こちらは引き取る形でよろしいでしょうか。」

「はい、お願いします…」


 オルドは時計を箱にそっとしまい、店の奥へと持って行った。客はコーヒーを飲み終え、店を後にした。きっと、あの客はまた会うことになるだろう。オルドはそう感じた。


 オルドは客が見えなくなるのを確認すると、店の看板を「OPEN」から「CLOSED」へ変えた。そして、あの時計の箱を机の上に置く。机の上に広がる歯車をどかし、再び時計を手に取った。


「…やはり、壊れてしまっている。」


 オルドの趣味は遺物の収集だ。サイバー文明の遺物を集めている。サイバー文明の遺物は、今やこの世界では忌み物とされてしまっている。遺物の大半は安全なものだが、中には危険なものがある。レーザー刀や銃など、犯罪にうってつけの掘り出し物が存在する。


 オルドはそういった、危険な遺物を無償で引き取っている。本来は、警察のするべき仕事だ。しかし、オルドはこの国の警察を信用していない。


「…危険性はない、か。」


 この時計に危険性は全くない。「遺物」と聞くだけで、この世界では誰もが怯えてしまう。危険性があるにしろ無いにしろ、人々は遺物というものを忌み、嫌っている。それだけ、遺物による事件は後を絶たない。


「さて、そろそろか。」


 オルドは支度をする。といっても、殆どすることはない。服装はそのままで、時計を左腕に着けるだけだ。片手に杖を持ち、どこかへ出かける。


 夕暮れ時。それが、チケット代わりとなっている。決められた時刻に来ることが、闇市場に入る条件だ。オルドは一分も遅れることなく、闇市場の入り口へやってきた。見張りを見つけると、帽子を片手で抑え、軽く会釈をする。そのまま、闇市場の中を歩いていく。


 オルドは店の商品を見つめながら歩き続ける。商品を見つめ、足を止めることなく去る。


 その時、オルドは横を向く。オルドはある男の姿を見る。オルドは、闇市場の入り口でもその男を見ていた。


 後をつけられている。オルドは確信した。男は一見すると、ただ商品を見ているだけの客だ。しかし、オルドが次の店に向かって歩くたびに、男も商品を見るのを止める。あまりにも不自然すぎる動きだ。


 オルドはすぐに、路地裏へ移動し、壁に取り付けられた歯車を見る。歯車に映る男も、路地裏にやってきた。やはり、尾行されていた。


「…勘違いでしたら申し訳ない。私に、何か御用でしょうか。」


 オルドはあるところで足を止め、後ろを振り返る。男は沈黙を貫いたまま、ナイフを懐から取り出す。オルドはその様子に驚くことはなく、冷静に話し続ける。


「落ち着いてください。まず、話し合いましょう。」

「…貴様がロックマンだな。」

「そうですが…」

「悪いが、お前にはここで消えて貰う!」


 その時、男はナイフをオルドに向かって投げつける。オルドは寸前で回避する。そのまま、オルドは裏路地の壁を上る。壁の上を駆け回る。男はオルドにナイフを投げ続けるが、オルドはすべて回避していく。


 そのまま、オルドは人混みの中へ紛れ込む。男はオルドを見失い、辺りを見回す。しかし、オルドの姿は、もうそこにはなかった。

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