第33話 VS 空を歩く槍鬼 四天王 東翔宮 凛
最悪の状況だ。今は広い道の真ん中、少し離れた建物も殆ど崩壊して、屋根なんて無い。こんな所で東翔宮に出くわしてしまうなんて!
「自分達の不運を呪うといいわ。いえ、あなた達にお似合いの当然の運命かもしれないわね」
東翔宮は、うっすら笑いながら、再び手に持った槍を投下する。
理瑚が素早く盾で防ぎ、激しい衝突音が響く。しかし、その瞬間、槍は消え、槍を投げる姿勢で構えている東翔宮の右手に再び出現する。
槍を握った感触があるのかないのか、それすら感じさせないほどの速さで、東翔宮はすぐさま槍を投げつける。
つまり、東翔宮は右腕を振るだけで、次々と槍を投げ放つことができるのだ。
「うわっ、これキリが無いよ!」必死に盾で守る理瑚が叫ぶ。
こんなに連続で投げられるのか!
目的地の学校も近いとはいえ、まだ距離がある。攻撃を防ぎながら3人で逃げ切るのは困難だ。でも、このままじゃ理瑚の体力も持たない。
幾度となく槍の衝撃を受け、理瑚の腕は震えてきていた。
「アハハッ、無様ね。超必死じゃない!ほらほら、頑張って〜。それとも諦めて、下民らしく地面に這いつくばれば〜」
弄ぶように槍を投げ続ける東翔宮が嘲笑う。
クソー!いい気になりやがって!でも、どうする事も出来ない。理瑚の陰に隠れていた委員長が意を決して叫ぶ。
「東翔宮さん!あなた、人の事をバカにするけど、クイーンの言いなりになってる、あなたの方が、よっぽど惨めですよ!自分の事、客観視してみたらどうですか!」
「ハァ?何言ってんだ!クイーンは格が違うんだよ、この貧乏人共が!」
東翔宮の言葉が乱暴になっている。余程プライドが高いのだろう。侮辱されて、明らかに熱くなっている。すかさず私も叫ぶ。
「金持ちだからって偉いわけじゃないんだぞ!しかも、親の金じゃないか、お前なんか何の価値もないぞ!」
「クソが、この貧乏人め!羨ましいだけだろ!私の小遣いいくらか教えてやろうか?」
「金にしか価値を見いだせないなんて、悲しい奴だ。大事なものほど目に見えないんだぞ!」
「出た、貧乏人の戯言!いったい何が大事なんだ、エッー!」
東翔宮 凛は、心に闇を持っている。そうでなければ、こんな荒廃した街は出現しないだろう。
投げつけられる槍を防ぎながらも、思い余ったように理瑚が叫ぶ。
「だ、大事なものはねぇ、愛だよ!」
「ハァ?何恥ずかしい事言ってんだ、チビスケ!」
東翔宮が呆れているが、構わず理瑚が叫ぶ。
「愛って、特に家族の愛だ!ウチは確かに裕福では無いけどさ、父ちゃんと母ちゃんと兄ちゃんとアタシで、とっても仲が良いんだ!高いカップアイスは、4等分して食べるんだぞ!」
「はぁ〜、何だそれ?親の稼ぎが無いとそんなに惨めなの?私の家の冷蔵庫には、高級スイーツがいくらでも常備されてるわ」
「アンタそれ、1人で食うだけだろ?いくら美味しくても、一緒に食べる人がいないと寂しくないの?アタシは家族が大好きだ!小さい頃から色んなとこへ遊びに行って、沢山写真撮って、沢山笑ってさ、楽しい思い出ばかりだよ!」
「家族だ――な、なにが……」
東翔宮の様子がおかしい。どうやら動揺しているようだ。
委員長が話を続ける。
「私の家も決して裕福ではないけど、何の不便もありません。学校で辛いことがあっても、家に帰れば母が笑顔で迎えてくれます!」
「や、やめろ!」
東翔宮は明らかに動揺して、槍を投げる手が止まっている。
理瑚が再び話し出す。
「アタシんチは、毎日夕食の時、家族4人で食卓を囲んで、アタシが今日あった出来事とか話すと皆笑ってくれるんだ。アタシはこの時間が大好き!これはお金で買えないでしょ?アンタの昨日の夕食はどうだったの!?」
「か、か……」
東翔宮は何か言おうとしたが、突然体勢を崩すと、そのまま地面へ落下していく。
「ドチャッ――」
無残な衝突音と共に地面に叩きつけられ、光の粒になって消えてしまった。
「お、落ちた……」
私達は呆気に取られて、東翔宮が消えた地面をただ見つめた。
「自信を保てなくなったのかな?それで、空を歩く……人の上に立つという能力を制御出来なくなったのか」
「そうかもしれないですね……」
思わぬ結末に、素直に喜べない気持ちだ。
「……東翔宮はさぁ、家庭に問題抱えてたのかな?」
「アタシはよく知らないけど、アイツの親は1代で、この町で1番ぐらいの建築会社を作ったんでしょ?忙しくて、家族団らんとか、あんまり無いんだろうなと思うよ。委員長は知ってる?」
「私は少し聞いたことがあります。母親も役員みたいで、両親とも家にいないことが多いのだと思う。隙を作るために、あのような事を言いましたが、まさか落ちるとは思いませんでした。東翔宮さんの事はもちろん好きじゃ無かったですが、可哀想な気もします……」
思えば、東翔宮の支配領域の建物がボロボロになっていたのは、建築会社の親への反発だったのかもしれない。
「ところで理瑚、カッコよかったよ。やっぱ愛だね」
「ちょ、ちょっとやめてよ、舞が大事なものは目に見えないとか言うからだよ」
「いや、私のは昔読んだ本の受け売りなんだけどね」
「アタシも普段から思ってたんだ、目に見えないもの、お金で買えないものの方が価値があるって。まぁ、半分金持ちの奴らへのひがみかもね」
理瑚は照れて頭をかく。
お金で買えないものの方が価値があるっていうのは本当だと思う。友達だってお金で買えないもんね。
何はともあれ、2人目の四天王を倒したんだ。大きな前進だ。
クイーンがいるであろう、学校も近い。ただ、もうすぐ日が落ちてくるので、深入りはせず、校舎に乗り込むのは明日にしようと決めた。学校の中で目覚めてしまったら、ヤバイからね。
泊まる場所を探しに3人で歩き出す。ふと、振り返って、東翔宮がいた上空を見ると、以前と変わらない青空が広がっていた。




