私と八重。
おじさんとの挨拶を済ませ、私は八重の部屋へと向かう。八重と会うのはお正月以来だ。天文学部の八重は、夜遅くに星を見にいく事が多々あるので、たまにお義兄ちゃんの家に行っても会えない事が多い。
八重の部屋の前についた私は、扉を三回ノックする。
「どうぞ~」
扉の向こうから入室を許可する八重の声が聞こえてきた。私は「おじゃましまぁ~す」と軽い口調で言いながら、扉を開けて八重の部屋の中へと入っていく。
勉強机の椅子に座り、部屋に入ってくる私を見つめる八重の目はキラキラと輝いていた。私が来るのをウキウキとしながら待ってくれていたようだ。
「いらっしゃい、桜。椅子は私が座っている椅子しかないから、ベッドにでも腰かけてよ」
「うん」
私は八重の勧めどおり、薄いピンク色のフワフワしたベッドの上に座った。八重の部屋は全体的にピンク色で、可愛い小物が多い。大和撫子という言葉が似合いそうな見た目の印象とは違い、凄く乙女チックな部屋をしている。
フリフリした可愛い服を着る趣味とかは無く、今は青いブラウスにジーンズと、自分を乙女ちっくにコーディネートする気は無いらしい。
ただ、自分の周りは可愛いもので固めたいようだ。そして、今日の私の服装は八重にとってはドストライクらしく……
「いや~、桜!下で会った時から思ってたんだけど、今日の桜の服装凄く可愛い!!凄くいいよ!!」
「エヘヘ、ありがとう。さっきオバサンにもそう言ってもらえたよ」
少し照れくさいけど、服装を褒められるのは素直に嬉しい。今日着ている、白いノースリーブのワンピースはフリフリが沢山ついており、確かに八重の大好物そうな服装だ。
「どうしたの?普段は私と一緒でパンツスタイルが多いじゃない?何か心境の変化でもあったの?」
八重は興味津々といったような顔で、私に今日のコーディネートの理由を聞いてきた。そんなに珍しいかな?確かに、街に出る時とかたまに気まぐれでしか、こういった服装はしないけど。
まぁ、今日のこのコーディネートに思惑をはらんでいない事は無いのだけどね。
「心境の変化というか……環境の変化かな?」
「環境の変化?」
私の返答に、八重は首を傾げる。そう、環境の変化があったのだ。それは、私の環境の変化では無く……
「実はね……、お義兄ちゃんの事を狙っている女性が最近現れたの」
「マジで!?」
「マジなの……」
八重は驚いた表情を私に見せ、私は名探偵のような鋭い目付きで事の顛末を八重に話し始める。
お義兄ちゃんは今、ハンターに狙われている。その名も「安室 杏子」、別名「ハンター安室」お義兄ちゃんの会社の同僚で、一つ年下の女性だ。
何故かこの前、私の体育祭にお義兄ちゃん達と観戦に来たのだ。私の学校が母校で、懐かしくなって観に来たとそれっぽい理由を言っていたけど、そんなはずがない!!
絶対お義兄ちゃんを狙って体育祭に来たのよ!ずっとお義兄ちゃんの隣にいたし、作ってきたサンドイッチはなんか手間隙かかってそうだったしね!あの目はハンターの目よ。私の目はごまかせないの!
その事を八重に説明すると、八重は「ひぇ~」と言って目を丸くしていた。
「マジかぁ。……っで、お兄ちゃんはその人とお付き合いしそうな感じなの?」
八重の質問に、私は右手をアゴに置いて「う~ん」と言いながら考えこむ。
「……多分、お義兄ちゃんは今の所は安室さんとお付き合いを考えてるとかは無さそうだけど……今の所はね」
「ふ~ん」
そう、今の所はだ。悔しいが、ハンター安室は中々の美人さんだった。清楚系という言葉が似合う大人の女性だ。そんな人にアプローチをかけられてしまったら、いくらお姉ちゃんの事が大好きなお義兄ちゃんでも、心が揺らいでしまうかもしれない。
いずれ、お義兄ちゃんだって再婚をする時があると思う。しかし、今はまだお姉ちゃんが死んで一年経とうかという時だ。
そんな時に、お義兄ちゃんにアプローチをかけるだなんて無神経な女だ。そんな人に私の大事なお義兄ちゃんは渡せない。
「だからこそ、このコーディネートなの!!」
私はベッドから立ち上がりながらそう言い、両手を広げて服を八重に見せびらかした。それに対して八重は「どういう事?」と冷静に疑問を投げ掛けてくる。
私は「フフフ」と少し不敵な笑みを浮かべながら、八重に説明をする。
「敵は憎い事に清楚系美人……、男の一人や二人を手玉にとる事くらい訳が無いくらいの器量を持っているわ」
「ふむふむ」
「だから、私は清楚系の逆をついて、可愛い系のフリフリワンピースで今日はコーディネートをしてみたの!可愛い系の私にお義兄ちゃんの目は釘付けよ!清楚系なんかに目もくれさせないわ!」
私は身振り手振りを使って説明をした。それに八重は「おぉ~」と言って、感心した様子で私に拍手をパチパチと送ってくれた。
「凄いわ桜!自分の可愛いさを理解して最大限に生かすその発想!貴方は可愛い上に天才だわ!」
「いやぁ~…別に自分の事を可愛いだなんて思ってはいないんだけど……照れますなぁ」
鳴りやまぬ賛辞の拍手に照れる私。しかし、拍手を送っている途中、八重は何か思う事が出来たのか、笑顔から少し疑問めいた表情となっていき、拍手をするのを次第に辞めた。
そして、「う~ん」と言いながら間を開けて、思っていた事を口に出す。
「凄い良い作戦だとは思うけど、デメリットもあるかもしれないね?」
「デメリット?」
「うん。普段から可愛い系の桜を見ていたら、違うタイプの清楚系お姉さんが新鮮に感じて、より引き立つというか……桜が可愛く見える分、清楚系のお姉さんもより美人に見えるかもね!」
「なっ!?」
盲点だった。確かに、清楚系のハンター安室の逆をつけば、私は可愛く映えるかもしれない。しかし、それは逆もしかり。
私がした事は、甘いお汁粉に塩昆布をわざわざ添えて、よりお汁粉の甘さを引き立たせたようなもの。まさに、敵に塩を送るとはこの事……。
私は、私の愚かさに絶望をし、両手を床について項垂れた。あぁ……やってしまったの……。




