合同行軍訓練の終わり
【注意!】
現在全体を修正中であり、以降のお話は特に大きく内容を変更する可能性があります。
大筋はそこまで変えないつもりでいますが、関係性等は大きく変化する場合があります。
私とリッサが温泉のおかげか非常にぐっすり眠れた翌日、私はアルドリック様の騎士であるキーランドと訓練をさせて貰っていた。反対にアルドリック様はベアノンと訓練している。
キーランドの教え方はとても丁寧で上手い、ベアノンは習うより慣れろという感じの教え方だが、キーランドは一つ一つ言語化して教えてくれる。
ベアノンの教え方に不満があるわけでは無いが、最近のアルドリック様の急成長も頷ける気がした。
キーランドは鎧をつけているとあまり見えないが、鮮やかな青の目と髪をしている格好いい男性で、中年というには少し若いかもしれないけれど、二十代ではないだろうと思うくらいの歳だ。
他のアルドリック様の騎士達の中ではやや若い方だろうか。
暫く剣を試合形式で剣を交えさせてもらった後、キーランドが爽やかな笑顔で話しかけてきた。
「ヴァレーリア様はとても力強い戦い方をされますね。型に囚われるのではなく、その場で最も効率よく相手を倒せる選択をされております」
……それは形式を無視して、勝てばいいという戦い方をしているってことかしら。
反応に困る言い方ではあったがとりあえず私は笑顔で返す。騎士の大半は貴族だ、アルドリック様の護衛を任されているキーランドが私に直接嫌味をぶつけるともあまり考えにくい。
「それは、褒められていると受け取ってしまってよろしいのでしょうか」
「勿論です。ベアノン殿の教えによるものでしょうが、対応に迷いが無く速い、それでいて致命的な失敗を殆どしていない。これは一朝一夕に出来る事ではありません。ヴァレーリア様の歳でどれだけ剣を振ってどれだけ剣を受けたのかと驚きましたよ」
そこまで手放しで褒めらるとそれはそれで照れてしまう。確かにベアノンとの訓練は身体で感覚を覚えろとばかりに攻めと対応をひたすら繰り返させられる事が多いが、殆ど毎日やっているから覚えただけだ。
同じだけの訓練をやれば誰にでも出来る。そう思っているとキーランドが厳しい目になりただ、と続けた。
「ヴァレーリア様の剣は確かに強いですが、基本的に攻めの剣です。そして瞬時の判断に失敗が少ないとはいえ、今打ち合っただけでも何度かは致命的と言える失敗がありました。ヴァレーリア様が次に学ぶべき事は待ちでしょう」
「待ち、ですか?」
キーランドの言葉に私は首を傾げてしまう、一応受けかたやカウンターはベアノンから学んでいるつもりだ。それをもっと深めるべきという事だろうか。
「はい。待ちといっても相手の攻撃をただ待つという事ではありません。牽制や軽い打ち合いなどを織り交ぜ、自分に有利な形に持って行く、そうして攻撃の機会を待つ。という事です」
なるほど、確かにベアノンから学んでいる事は基本的に一撃離脱、一撃必殺だ。
私としても後ろに誰かを守って、複数人と戦うのであればそれが一番効率が良いと思っていたが、確かに剣技としてみるならそこは欠点として映るだろう。
「ありがとうございます。ですが私は多対一を想定して剣を学んでいます。一人に時間を掛けていれば私は私の守りたいものを守れきれないでしょう」
「なるほど、これはアルドリック王子が苦戦するわけですね」
キーランドの目を見て私がそう答えると、彼は困ったような笑顔になって呟いた。
「キーランド様?」
「いえ、アルドリック王子はヴァレーリア様に勝つ為にと必死に努力なさっております。私がどれほど厳しい事を言おうとも、です。しかしそのヴァレーリア様は既にご自身の戦場を自覚なさっている。漠然と何かを守る為にと剣を振るっているアルドリック様よりも既に先の段階にいらっしゃったのですね」
キーランドがそう熱弁を振るっていたが、もちろん私は別にそれほどたいそうな事を考えているわけではない。事実として私が戦わなければいけないと思っているイベントが多対一で襲撃されるものだからだ。
ゲームでそういう事があったから警戒しているだけです、だなんて言えるわけも無いので、私はとりあえず微笑んで誤魔化した。
ヴァレーリア様に勝てるようアルドリック王子の訓練も次の段階に、などと言っていたのでアルドリック様は大変になるかもしれないが、強くなるのはいい事なので頑張って欲しいと思う。
訓練を終えた後、まだ暗くなり切らないうちにアルドリック様は護衛を連れて温泉へと向かった。
前日に私達が入ったのでおそらく大丈夫だとは思うが、一応アルドリック様が行く前に湯あたりには注意する事と、もし入ってみて肌がひりひりしたり、気分が悪くなるような異常があれば直ぐに温泉から出るようには伝えておいた。
普段ケルツェ山に入っている村人からも山で人が倒れただとか、動物が異常な死に方をしていたという話は全く聞かなかったものの念の為だ。
暫くしてアルドリック様の護衛がお風呂が無事に終わったことを告げに来たので、私とリッサもお風呂に向かった。昨日は少し長く入り過ぎてしまったが今日は短めだ。前世で温泉での長湯はあまり良くないと聞いた気がしたのだ。
「ヴァレーリア、温泉は中々良いものだな」
翌日、小屋を発つ準備を慌ただしくするなかアルドリック様に会うと、開口一番にそう言われた。
子供はあまり温泉に感動する事がないようなイメージを持っていたのだが、アルドリック様は違ったようだ。
「気に入って頂けたようでしたら何よりです、アルドリック様」
「あぁ、とても気に入った。入るとすぐに身体が温まったし、訓練の疲れも一気に取れた気がしたのだ」
アルドリック様は興奮気味にそう語る。そこまで顕著に効果が出るものかしらと私は少し疑問にも思ったが、例えブラシーボだとしても効果は効果だろう。
今日から暫くベッドで眠れないので、疲労が少ないに越したことはない。あとベアノンは馬上の旅の前日にアルドリック様がそんな疲れるような訓練をさせないであげて欲しかった。
「あの温泉は未完成だと聞いたが、いつ頃完成する予定なのだ?」
「そうですね、村の方たちはひと月で完成させると意気込んでいましたが、おそらく二、三カ月は掛かるでしょうし、温泉以外の諸々を含めるともう少しかかるかも知れません」
魔術が使えるならまた話が別なのだろうが、この村の人達は魔術が使えない平民だ。リッサと一緒に考えた私の目算はそう大きく外れないと思っている。
それに温泉以外にも硫黄や温泉卵のような温泉グッズや、温泉がしっかり見つかった事でもっとしっかりとした宿の増設も村長に相談しておいた。その辺りも含めるとひと月では絶対に終わらない。
「期限もあるのでなるべく急いで貰ってはいるのですが、それでも時間は短縮できませんからね」
もし間に合わなかったらと考えると少し気になるが、燃料の方は今回十分に集めることが出来た。もしもの場合はこちらの方法を城に献上してどうにかするしかない。
まだ色々と考える必要がありそうだと思うと若干憂鬱だ。
「期限? あぁ、そうか。それはいつまでなのだ?」
「私の八歳の誕生日までと聞いていますので、後半年程ですね」
そういえばそんな話だったと思い出した様子だったアルドリック様は、私の答えを聞いて目を見開き驚いた顔になった。
「すぐでは無いか!」
「えぇ、あまり時間がありません。ですがもしもの時は他の手段も考えておりますので、それほど心配はいらないのです」
穏やかな口調の私にアルドリック様は気勢を削がれたように静かになったが、目はいまいち納得がいっていないように見える。
アルドリック様は金色の目を鋭くして私を真っ直ぐ見た。
「ここまで大掛かりな事をしたのだ、他の手段というのは出来れば取りたくない理由があるのではないか?」
大掛かりに見えるのはアルドリック様の護衛の騎士三十人強がいるからではとちょっと言いたくなったが、実際その考えは的を射ている。
ライターのような今ここに無い技術はなるべく広げたくない、特に使い方によっては戦争に使えそうなものに関しては。
ライター程度なら火の魔術があるこの世界ではせいぜい火打石を良くしたもの程度の扱いになると思うが、それでも出来れば積極的に世に出したいわけでは無いのだ。
「そうですね、その通りです。ですから温泉が利用できるようになるまで、私は広報活動をしっかり行うつもりですよ。効果のほどはアルドリック様も体験してくださった通りですから問題なんてありません」
上手く広げる事さえできれば、という言葉は飲み込んで私は笑顔で答えた。
広報活動についてはリッサに少し伝手があるそうなので、主にそこを頼るつもりだ。不安はもちろんあるが、そんな事を言っていても話は先に進まない。
アルドリック様は何か言いたげにしていたが、少ししてからそうか、と言ってその話は終わった。
その後の帰り道は行きよりも少し時間がかかり五日を要したが、特にそれほど問題は無く終わった。
強いて言えばアルドリック様が行きのテンションは流石に維持していなかったとか、リッサが携帯食を見ながら溜息を吐くようになっていたとかその程度だろう。
予定外の事はあったものの、二十日間の行軍訓練を経て私はとても多くのものを得る事が出来たと思う。
全てまだ解決したわけでは無いものの、私はアルドリック様に感謝し、今回の結果に満足していた。
そしてその二か月後、私はお父様から再度呼び出される事となった。
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