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読心への罪悪感


 マリスマス村は本当に小さな村ではあったが、のどかで自然あふれる、気持ちの良い村であった。そこの宿屋『憩いの槍剣亭』で部屋を取ってからは、自由行動ということになり、各自思い思いの過ごし方をはじめた。ナーシャは村の子供たちと遊んでいたし、エレグは鍛錬していた。


「ギブアップ! やっぱりわからないな」


 僕はミラと特性を発動させるための練習をしていたが、その途中でアレクスの特性を当てるという思考訓練を放棄した。


 ミラは深海のように深いため息をついてから、

「やつの特性は、『修復』だ」

 と教えてくれた。ミラはその『修復』がどういうものなのか説明してくれる。


「『修復』を使えばどんな壊れた物でも修復ができる。それがたとえ命を落とした者であったとしても、身体の一部分が残ってさえいれば『修復』が可能だ。弱点は、自分の怪我や損傷を『修復』することはできないということと、一度にたくさんの対象を『修復』することはできないという点。さらに体力の消耗も激しく、一度『修復』したものをもう一度『修復』することもできない。やつは骨をばらまいてそれを『修復』することで、魔鬼獣を蘇らせていたということだ。しかし、あいつのもっとも馬鹿な点は、あの魔鬼獣はあいつ自身も攻撃するということを忘れていたことだ。私が助けに現れずお前たちに勝利していたとしても、やつは無差別な魔鬼獣にやられていただろう。まあ、逃げればいいのだろうが、その場合はお前たちを捕らえて身代金を得ることも叶うまい。やつの『特性』は強力ではあったが、やつのおつむ自身は貧弱だっだ。その点は、昔とほとんど変わっていなかったということだ」


「なんか、僕の特性より、みんな強い特性ばかりな気がするんだけど」


「お前は六つも特性があるんだ。しかもその一つ一つが成長していくことができるのだぞ。贅沢を言うな、馬鹿が」


「馬鹿は余計だよ……。ま、そうだね、じゃあ特性の練習、続けますか!」


「せいぜい頑張れ。見守っててやる」

 トウヤはまずは『強化』を発動させて、村の武器屋で買った新しい剣を振り回してみる。

 だが、それを十分ほど繰り返した所で、極度の疲労感に襲われて動けなくなってしまう。


「これが、今の僕の『強化』の限界か」

「まあ、連続で十分も使えるというのは、戦場でも有効ではあるがな」

「少し休憩したら、『鼓舞』だね」


 トウヤは休憩の後、『鼓舞』を発動させるために、ミラに向けて意識を集中させる。


 しかし、そこでまた不思議な現象が生じた。ミラとエレグの意識が重なり、一つの線となって時をさかのぼっていく感覚。その線はとても長くて、そして真っ赤でどこか熱い。トウヤが線に触れてみるとミラの意識がそれを拒否し、指が弾かれてしまう。線は、どこまでも伸びていく。それがミラの過去、その異常なほどの長い年月を表しているのだ……。

「ごめん、ミラ」

「は? いきなり何だ」

 トウヤは慌てる。まだみんなには『読心』に目覚めたことは言っていないのだ。


「い、いや、なんとなく、練習に付き合わせて悪いなって」

 誤魔化すと、ミラはこくりと頷いた。

「そう思うのだったら、この練習を甲斐のあるものにする努力をしろ。お前が特性を強化していけばアレクスのような魔導師相手でも、たとえ私が相手だとしても、勝てるようになる可能性を秘めているのだ。光闇の魔導師は、伊達ではないのだぞ」

「うん。わかってる」

「だったら無駄話などせず、もっと集中しろ」


 トウヤは『読心』を発動しないように気をつけながら、再度『鼓舞』を試みた。


 すぐに『鼓舞』は発動され、ミラが高速で動きはじめた。

「ふむ、悪くない。……試してみるか」

 ミラは紅蓮の炎を両手から出して、それを地面に撒いた。すると地面に撒いた炎が火柱のように燃え上がり、そしてその無数の火柱が合体していき、一本の大きな火の柱となって天を貫くかのような勢いで、伸び上がった。


「どうやら、『鼓舞』は魔導にも有効らしい。使える特性だな。今のところ、『強化』よりも便利な能力だといえるだろう。これがもし戦争で兵士全員を『鼓舞』することができれば、負けることはまずないだろうな」


「僕は、戦争をするために『鼓舞』を使うつもりはないけどね」

「この大陸では争いは避けられん。使うつもりがなくても、使う必要性は十分にある」

「……殺し合いの道具には、なりたくないんだ」

「平和のために殺すのだ。道具になるかどうかは、お前の心持ち次第で決まる」


 心持ち……。


「ミラはどんな心持ちで戦いに挑むの?」

「私のことは、どうでもいい」

「いや、仲間のことは知っておきたいじゃないか」

「仲間? お前と私はそういう関係性だったか? 一緒に旅をしていれば仲間になるのか? 違う、人と人というものはみんな繋がりを求め、望むが、お互いのそれが望み合ってはじめて仲間になるのではないか? ……いいか、私のことは、どうでもいい、と私は言ったんだ。お前はお前のことだけを考えていればいい。それが結局、一番の近道だ」


 違う。一人ではできないことも、仲間と共にいるからできるんだ。僕の『鼓舞』だって、仲間がい

なければ使い物にならないじゃないか。


 なぜ、ミラはこんなにも人との繋がりを拒むのか。何度も疑問に思ってきたが、僕はその理由を知るための術を手に入れたじゃないか、と思い出す。


『読心』をミラに使えば、彼女の過去を知ることができるのではないか。


 そうすれば、ミラが冷たい理由も、わかるじゃないか。

 ……だめだ。

 そんなことをするのは、僕自身が許せない。

 人の過去を覗き見する特性なんて、必要ない。


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