仲間の喪失 御者の優しさ
馬車の中でトウヤは、結局なんだったんだろう、と考えてみる。
「あのアレクスという魔導師。あいつの特性、わからない内に倒しちゃったな」
ミラが呆れる。
「あれだけ使われておいて、気がつかなかったのか? あいつの特性はな……」
答えてくれる前に、自分で考えてみたかった。
「待ってくれ。今、思い返してみて、当ててみせるから」
「思考訓練といったところか? ちなみに今回のあいつの特性の使い方には、欠点があったとだけ教えておこう。おそらく、あいつは興奮していて自分の失敗に気がつかなかったのだろうが」
「失敗、か……やっぱりあいつ、間抜けな奴だったんだな」
あいつの特性……。
んー。魔鬼獣を扱うことができるような特性……。
やつは骨を投げていた。その骨が、魔鬼獣へと変わったのだ。
……わからない。特性をあぶり出す作業は、だいぶ頭を使うのだと理解した。
トウヤが考えている間に、ミラは昔話をはじめた。
「あのアレクスという男は、火竜の国で召喚された魔導師ではあったが、非常に問題児でな。召喚された瞬間から尊大で、虚栄心にとりつかれていた。だが腐っても魔導師は魔導師だ。百年に一度の『魔導宝具』を利用して召喚された、貴重な戦力。ゆえに奴の性格に多少問題があっても、見て見ぬ振りのような状態だった」
ナーシャが膨れる。
「あんな奴が大切に扱われるだなんて、召喚というのは因果なものですね」
エレグが続く。
「強い者の性格がひねくれている場合が一番厄介だからな」
ミラはエレグを睨みつける。
「お前、私がひねくれているとでも言いたげな様子だったな、今」
「錯覚だ。気にするな」
エレグは小さく笑った。ミラは小さく舌打ちをした。
そんな会話の後、昔話を続ける。
「この大陸は常に争いあってきた。魔導と特性が扱えるアレクスは、あんな奴ではあったが、国のために働いたことは事実だった。しかし、時と共に奴はその働くという心さえも麻痺させ、自らの力を使っていかに楽な人生を送るかという試みばかりを行うようになった。そういうわけで、奴はどんな戦いでも自分が危機に陥らない程度に手を抜き、数多くの兵士を見殺しにした。そんな奴の戦いぶりを、当然、指導役の私は許せなかった。少しの間目を離した内に、こんなにも人は堕落するものなのかと、あの時私はショックを受けていたな。……私の指導力不足だったことは、認めてはいないが、まあ、あまりに奴の人格はクソみたいなものだったということだ。私はやつを火竜の国から追放し、様々な権利を奪い取った。その結果が、さっきの通り、金目の物ばかりに飛びつく下衆な盗賊ということだ」
アレクスはミラの弟子みたいなものだったということか。
だからひねくれたのではないだろうか、と言ったら五臓六腑を弱火でことこと煮込まれてから完璧に燃やされそうなのでやめておこう。
おそらくミラのせいではない。やつ自身の性格の問題だ。
「あの盗賊さん。殺しちゃって良かったんですか? 知り合い、というか、仲間だったんですよね」
ナーシャの問いにミラは頭を横に振った。
「私には仲間などいない。そんなものは必要のないものだ」
トウヤは、暗い気持ちになった。
この人は、僕たちのことも仲間だと思っていないのだろうか。
僕の仲間を大切にしたいという気持ちは、一方通行なのだろうか。
なぜ、ミラは、こんなにも孤独を望むというか、人との繋がりを拒むのだろうか。
それを本人から聞き出すことは、まず不可能だろうな。
「村が見えてきたようだ」
エレグが呟くので、トウヤも前を見る。
御者が笑いながら語りかけてくる。
「あれは私の故郷、『マリスマス村』です。みなさん、ゆっくりして疲れを癒してください」
「へえ、とても小さな村ですね!」
ナーシャが失礼なことを言ったが、御者は声をあげて笑ってくれた。
「小さいことが、あの村の良いところですから!」
優しい性格の御者だと思った。
こういう人ばかりが魔導師だったら、きっと、大陸の戦争だって終わるのではないだろうか。
僕も、優しくありたいものだ。




