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大盾の学徒兵 ー大和魔法術学園 特別練成科ー  作者: 柴犬道
第二章・学園編(1年)
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25.風乱鳥討伐

魔獣討伐のラストだよー!



「具現魔法『氷結(アイス)の矢(プファイレ)』!」

「燃えろ!具現魔法『五連(ヒュンフ・)炎槍(フランメバル)』!」


 青い光の矢が風を切って飛び、後を追うように炎槍が続く。

 全ての魔法が数十メートル先の風乱鳥に着弾したーーが、まったくの無傷。怪鳥の突進は止まらない。


「……基礎魔法『筋力強化(フェルシュテルクング)』……具現魔法『銃剣(バヨネット)』」


 さらに続いて司が風乱鳥に肉薄する。

 高く跳躍し、ありったけの力を込めて振り下ろすのは銃身から伸びる魔力の刃だ。

 甲高い音とともに火花が散った。しかし鎧と化した羽毛は、司の全力の刃も通さなかった。


 そして幸雄たちの攻撃の手が緩むと、こちらの番だと言わんばかりに、風乱鳥は周囲にいくつか雷球を生み出した。


「司、俺の後ろに回れ!」


 幸雄はクロガネを地面に突き立て、風乱鳥が放つ雷の弾丸に備える。最も接近した司を狙ったのだろう。クロガネに数回衝撃を受け、指輪からまた魔力が削られた。

 幸雄たちは雷撃を防ぎきると、すぐさま走り出した。少しでも風乱鳥から距離を取るために。



「くそっ、さっきからこれの繰り返しだ!涼、どうする!?」


「今考えてるから待って!」


 幸雄の叫びに、涼もまた叫び返すしかない。


 いま四人は追い詰められていた。

 というのも、風乱鳥がその姿を鎧の様に変えてから全く攻撃が通らなくなったのだ。加えて、狂ったように暴れながら魔法を放ち、こちらへ突進してくるというおまけ付きである。

 先ほどまで瀕死だったというのに、今は怯むことなく、生きた鉄の塊となって押し寄せてきていた。


 何を考えているのか……魔獣の思いなど想像も出来ないが、風乱鳥が残る命を激しく燃やし、最後に一矢報いようとしていると、幸雄は感じていた。


風乱鳥(あいつ)を倒さなきゃこっちが死にそうだ……けど、どうしたらいい?)


 考えるが、答えは出ない。

 この瞬間も風乱鳥は距離を詰めてくる。四人の近くで魔法が爆ぜた。


 すると、司が口を開いた。


「……風乱鳥(あいつ)、硬すぎる。私の魔法じゃ、威力が足りない……」


「おいおい、司の魔法が通用しないならどう倒すんだよ?」


 笑えない冗談だ。

 特別練成科で一番の実力者は明らかに司だ。その司が風乱鳥を倒せないなら、誰があれを倒せると言うのか。



「……一輝(いつき)なら……出来るかもしれない」



「何か策があるのか!?」


 幸雄は期待を込めて一輝に視線を向けた。だが、名を挙げられた彼の顔は曇っていた。


「……司、俺はまだ()()()を撃った事が無いぞ」


「……でも、やり方は知ってるはず。それに……このまま逃げても追いつかれるのは時間の問題。……死に際の魔獣はきっと私たちを道連れにする」


「海道……助けがいつくるか分からない以上、やるしかないわ!」


 司に続いて、涼が発破をかける。

 しばらく誰も言葉を発さなかった。風乱鳥の咆哮と、少し後ろで魔法が爆ぜる音だけが響く。



「……五分だ。五分だけ時間をかせげ」 



 一輝の頼みに、幸雄たちは深く頷いた。



     ※      ※      ※



 腰を据えて作戦を立てる暇など無い。

 全ての手順が走りながら確認され、幸雄はそれを頭に叩き込んでいく。


「ーーでは、十秒後に作戦開始。みんな頼むわよ!」


 指揮をとる涼のカウントダウンが始まり、四人は一斉に動いた。

 そして他の三人が距離を取る中、幸雄だけは風乱鳥に向かって駆け出した。



「さあ、ちょっと止まってもらうぞ!」


 ぐんぐんと距離が縮まり、あと十数メートルというところで、幸雄は手にしていた物を投げつける。

 それは放物線を描いて二者のちょうど中間に落ち、次の瞬間には目蓋を貫くほどの閃光が辺りに満ちた。


 ーー閃光手榴弾だ。



 たとえ怒りに我を忘れた魔獣でも、突然視界を奪われれば混乱するに違いない。


 その目論み通り、風乱鳥は閃光にたじろぎ、大きくバランスを崩す。

 その隙を逃すまいと、幸雄は再び駆け出した。

 そして足下へ潜り込み、軸足めがけ大盾を渾身の力で叩き込んだ。


「ぶっ……倒れろ!」


 物理的衝撃を与え過ぎたクロガネが軋み、悲鳴を上げる。

 だが気にしてはいられない。ここで風乱鳥の歩みを止めることが自分の役目なのだと、幸雄は自分自身を奮い立たせた。


 全身を使う。総動員された筋肉が唸りをあげる。


「おおぉぉぉぉらぁ!」


 クロガネを渾身の力で振り抜く。


 確かな手ごたえを感じ、彼は小さく笑った。


 事前に司から『筋力強化(フェルシュテルクング)』を掛けてもらった自分を褒めてやりたかった。たった数分間の怪力だが、これが無ければ足払いなど到底不可能だったろう。


 そして軸足を払われた巨体は一瞬宙を舞い、そのまま大きな音をたて倒れた。


 ――第一段階、完了だ。



「司、涼、頼む!」


「本城くん、すぐはなれて!いくわよ天道!」

「……ん!」


 幸雄の呼びかけに、建物の上で待機していた司たちが動く。次は作戦の第二段階……彼女たちの出番だ。


 まず涼が矢を放つと、何十本もの輝く矢が風乱鳥を丸く囲うように突き立っていく。一本、その横にまた一本と突き立つたびに白い光が強くなり、最後の一本が突き立ち円が描かれると一際強く輝いた。

 これで()の完成である。


 そして司と涼は、自分たちの弾丸と矢に全く同じ魔法を構築し、唱えた。


「具現魔法ーー」「……『磁力(マグネティシャー)(ケーフィック)』」



 弾丸と矢が放たれ、陣の内側に魔法が満ちる。


 その効果は、()()()()()

 本来は敵の通信妨害などに用いられる程度の魔法だ。

 しかし、陣を用いて効果範囲を限定・集中し、さらに二人分の魔力を込めたことにより、その効果は跳ね上がっていた。鋼鉄をまとった風乱鳥を地面にびったりと固定するまでに。


「よし……一輝!準備は!?」


 磁力に縛られ、足掻く魔獣。その声に負けぬよう幸雄は声を張り上げた。

 もう五分は経ったはずだーー。


「貴様、俺を誰だと思ってる……出来てるに決まってるだろう!」


 一輝もまた、声を張り上げた。

 不安そうに顔を曇らせていた奴の言葉とは思えないなと、幸雄は心の中で笑うと同時に、彼を中心に渦巻く魔力に目を見張った。


 一輝が高く掲げる杖の魔道具――『蒼角(そうかく)』が、今までよりもはるかに明るく、白く輝いている。その杖身に収まりきらない熱と炎があふれ出し、離れた幸雄にまで熱波が届いた。

 術者である一輝でさえも苦痛に顔をゆがめている。


「射線に立つなよ本城ォ!巻き込まれても、責任は持てないからなぁ!」


「了解だ!さあ、ぶちかませ!」



 ついに作戦は最終段階へ移行した。


 炎熱と閃光を放つ蒼角を、一輝は真っ直ぐ風乱鳥へと向ける。

 魔法が暴発しないように懸命に抑え、定める。その照準を。

 意識を集中し、四方に散ろうとする魔力を一点集中。反動に備え、グッと腰を落とした。



 ーー途端、生命の危機を感じた風乱鳥がさらに暴れ出した。


「ちょ!?暴れるんじゃないわよっ!」

「大人しく……して……!」


 涼と司がさらに魔力を注ぎ込むが、風乱鳥も負けじと残された魔力で対抗する。

 磁力と雷撃がせめぎ合い、わずかな瞬間、雷撃が勝った。



 そのわずかな間に、魔獣は雷撃を……最期の一矢を放った。

 それは真っ直ぐに、一輝めがけ飛んでいく。


「海道!避けなさい!」


 涼の言葉が響いた。

 しかし、一輝は動かない……否、動けないのだ。


(くそっ……今避けたら暴発する!)


 練り上げられた魔法は今にも放たれようとしている。それは術者の一輝といえど、今更止められる物ではない。

 雷撃を回避しようと無理に動けば、制御を失った魔法が暴発し、全員が灰と化すだろう。しかし、だからといって避けなければ、雷撃に撃ち抜かれてしまう。


(……相討ちか)


 一輝は諦めと共に覚悟を決めた。

 死なば諸共、雷撃が自分を貫くよりも先に魔獣を焼き尽くそう、と。


「蒼角限定具現……ーー」


 雷撃が迫る。

 蒼角の先で炎が具現化されていく。後は射出するのみというその時、()()()()()()()()()()()



 直後に鳴り響く甲高い音。

 雷撃が霧散し、何事もなかったかの如くかき消えていく。



(とど)め、よろしくな」


 躍り出た影ーークロガネを構えた幸雄が、肩越しに笑った。


「……はっ言われずとも。邪魔だ、本城」


 悪態で返す一輝。その顔に既に諦めの色は無く、代わりに凶悪な笑みを浮かべている。

 そして一輝は、溜めに溜めた魔法を解き放った。



「ーー蒼角限定具現魔法『鹿王蒼炎角砲ろくおうそうえんかくほう』」



 その瞬間、蒼角の先にある牡鹿の角から()()()()()()()()()

 熱が辺りを満たし、蒼き炎が形を成していく。そして現れたのは、()()()()()()鹿()


「くらえ風乱鳥(でかぶつ)……!」


 牡鹿が駆け出した。一直線に風乱鳥へと迫っていく。

 迫りくる死を恐れた風乱鳥の断末魔が響き、その直後、巨大な牡鹿が炎の角を振り下ろす。


 次の瞬間、風乱鳥の叫びは断ち切られた。

 鋼鉄の融点よりも高温の炎が魔獣の首を捉え、溶かし、燃やし尽していく。


 熱風が吹き荒び、炎が全て消えると静寂が辺りを満たした。





「……やった」

「か、かか勝ったぁぁぁ!魔獣に、魔獣に勝ったよ天道ぉぉ!!」

「……痛い痛い痛い……抱きしめないで」



 静寂を破ったのは司と涼の二人だった。

 彼女たちの眼下では、身体の上半分を失った風乱鳥だったものが、未だ地面に固定されている。

 両翼を失い、胸を抉られようと倒れなかった存在が、今や完全に沈黙していたーー。





 その後の学園の対応は、非常に早かった。


 数分も経たずして教師数名を連れた特練担任……永田美樹(ながたみき)が駆けつけ、幸雄たちの安否確認や現場保存、討伐確認を行なっていったのである。


 美樹曰く、今回の魔獣乱入は学園も想定し得ない事故だったらしい。「生きてて良かった」と美樹に涙された時は、死と隣り合わせだったのだと、幸雄は改めて実感した。


 目まぐるしく動く教師たちを眺めながら、何はともあれ、幸雄は無事でいられたことをただ喜ぶことにした。

 また他の教師の報告によれば、和水(なごみ)、真一、剣、翔子の四人も大きな怪我は無く命に別状は無いとのこと。それを聞いた時の涼と司の喜びようが凄かったことを思い出して、幸雄は笑った。


(みんな無事で良かった……)


 そう思いながら、教師たちの喧騒から離れようと歩いた先に、


「よっ……お疲れさん」

「……貴様か。なんの様だ」


 一輝がいた。

 彼は足を投げ出して、気怠そうに座っていた。


「別に何も。今日の功労者が疲れた顔して座ってるから労っただけ」


「貴様に労われると腹が立つな。 まあ、俺の魔法が無ければ、貴様ら全員死んでいただろうから、感謝されるのは当然だが……」


「おお、本当に感謝してる。ありがとう、一輝」



 純粋に、本心で幸雄は礼を述べた。

 真正面から礼を貰った一輝は、一瞬ぽかんとしていたが、すぐに苛立たしげに「あぁっ!むかつく奴だ」と呻いて赤褐色の頭を掻いた。


「貴様との決着はお預けだ……次こそは俺の具現魔法で焼く」


「そんなに俺を焼きたいか……。じゃあ、俺はもっと良い盾を作って防がないとな」


「はっ、それごと焼いてやる」


 悪態を吐きながら一輝は立ち上がり、背を向けて去っていく。

 相変わらず扱い辛い奴だと苦笑しながら幸雄がその背を見送っていると、突然一輝が立ち止まり、振り返りもせず言った。



「……最後の防御(あれ)は助かった。……感謝する」



 今度は幸雄がぽかんとする番だった。まさか感謝されるとは、思ってもいなかったからだ。

 そして、笑ってしまいそうになるのを堪えて、幸雄は一輝の背に言葉を投げ返した。



「どういたしまして!助けるのは当たり前だ。また危なくなったら“盾”になってやるよ!」





ーー今週の嘘か真実(まこと)か!?ニュース!ーー


 今週の気になる学園内ニュースはなんと言っても「二級接触危険魔法生物『風乱鳥』が学園を襲撃か?」である。

 市街地模擬戦場近くで生徒が魔獣を目撃したとの情報があり、さらに目撃から数時間後、巨大な廃棄物が模擬戦場から搬出されたことが確認されている。

 これらの情報から信憑性は高いと考えられるが、その真実はいかに。なお、先生方はその様な事実は無いと否認されている。


【大和魔法術学園・新聞部・週刊紙より】



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