告白
「紫音か。ちょうどええだ。今お茶を入れるところじゃて、一緒に飲もうぞえ」
「あら、じゃぁご馳走になります」
シュリ婆はティーポットと、カップを二つ持ってきてテーブルに置き、紫音と一緒に椅子に座った。
「実は他の国から治療をして欲しいと言ってきたの。明日にでも行こうと思います」
「ほ、そうか・・・お前さんの噂もそこまで広がって来たんじゃな」
「で、お婆さんにも一緒に行っていただきたいの。いい?」
「もちろんじゃ」
「ゼルダ様もついて行くと言ってるわ。護衛も連れて行くと言ったけど断ったのよ」
「そうかえ。その方がええかもしれんが。しかし大丈夫かな?危ないことはありゃせんか?」
「大丈夫ですわ。いざとなったらどうにでも出来ます。お婆さんはまだ私を知らないのよ」
「そうか・・・お前さんがそう言うなら大丈夫じゃろう。ところで、ゼルダ王子はお前さんに大分ご執心のようじゃが、お前はどう思っとるんじゃ?」
紫音は困惑して目を伏せた。
「ゼルダ様は良い方ですわ。でも・・・私には男の方を愛する資格はありません」
「なぜじゃ?特別な力があるといってもお前も人間じゃろ?子供も産めるじゃろうし。今まで所帯を持ってみたことはあるのか?」
「いいえ、ありません・・・でも私は歳をとらないのよ?それに、いついなくなるか自分でも分からないのよ?」
「そうみたいじゃな。じゃがな、お前さんはずっと一人だったんじゃろ?一度くらいはいい連れ合いと一緒に生きてみても、罰は当たらんと思うぞえ。おなごは子供を生んで始めて分かる事もあるんじゃ。ゼルダ王子を好いとるなら一緒になって、何かあればそれはその時に考えればええんじゃないかえ?」
紫音は黙ってお茶を飲んでいた。
「わしゃお前に幸せになって欲しいんじゃよ。お前が神様と呼ばれるような人かどうかは分からぬが、こうしている限りは普通の人間じゃ。人の為に尽くしているお前が幸せになって悪いということはあるまい・・・・」
シュリ婆それだけ言うとそれきり黙ってしまった。
紫音も黙ったまま窓の外を見ていた。
窓の外は夕暮れが迫ってきていた。
夜になり、夕食のあと紫音は城の庭を散歩していた。
空には月が輝き、満天の星が降り注いでいた。
「紫音殿、こちらでしたか」
ゼルダ王子だった。
「お部屋へ伺ったのですが、いらっしゃらなくて。シュリ婆から庭へ散歩に行かれたと聞いたものですから」
「わざわざ探して下さったの?」
「ええ。早いうちにお伝えしようと思って」
「ゴダードとファルアーク国に連絡が取れました。ゴダードの方が近いので午前中で、ファルアークが午後からにしておきました。お待ちしているとのことです。でもどうやって行くのですか?私にはそれが不思議でなりませんが」
「大丈夫です。明日になればわかりますわ」
「そうですか。それではこれ以上聞きますまい」
それから二人は並んで歩いた。
「月が綺麗ですね」
ゼルダ王子が夜空を見上げて言った。
「星もあんなにいっぱい・・・降ってきそうなくらいですわ」
「たしかに・・・私はこうして星空を見上げていると、いつも不思議な気持ちになるのです」
「それはどのような?」
「ちょっと座りましょうか」
ゼルダがベンチに近寄り、ハンカチを出して広げて置いた
「ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
二人は微笑みあいながら並んで座った
「なんと言いますか・・・あの星たちが生き物のように思えて、その息づかいを感じるのです。星だけではありません。あの空のすべてが息づいていて、それが胸に迫ってくるのです」
「そうですか・・・」
この人はこの宇宙の事にわずかながらも気づいていると紫音は思い、ゼルダ王子の感受性の豊かさに驚いていた。
「ところで紫音殿はご結婚されずにずっとお一人なんですか?」
ゼルダ王子が話題を変えて紫音に尋ねた。
「したことはありませんし、考えたこともありません。私は普通の方とは違いますから・・・・」
「そうでしょうか?私には普通の・・・素敵な女性としか思えませんが」
「それはまだ貴方が私を知らないからです。知ればきっと貴方も私を畏れるようになるでしょう」
「確かに私はまだ、貴女の事を何も知らないかもしれません。でも、貴女がどんな人であれ」
ゼルダは真っ直ぐに紫音の目を見た。
「私は貴女が好きです。紫音殿から見れば私の力などは取るに足らないものかもしれません。でも、私は貴女を守りたい。私のすべてをかけて貴女を守りたいのです。この気持ちは終生変わりません。それだけは覚えていてください」
そう言ってからゼルダは立ち上がった。
「夜も更けました。そろそろ部屋へ戻りましょう。お送りします」
紫音の部屋へ向かう道すがら、ゼルダは紫音に思いを告げた事で、更に紫音への愛を深め、紫音はゼルダの想いを受け入れつつも、我が身のことを思い、二人は黙って歩いていた。
やがて紫音の部屋の前へ着き、ゼルダ王子が言った。
「それでは明日の朝食後お伺いします」
「はい、わかりました」
紫音は去っていくゼルダの後ろ姿を見つめ、その心の中を覗いてみた。
ゼルダ王子の心の中は紫音を思う気持ちが溢れていた。
それは浮わついた気持ちではなく、強い意思に支えられていた。
そしてその中には母を慕う気持もあった。
ゼルダ王子は紫音の中に、母の面影も見ているようだった




