紫音、男の足を治す
翌日の朝、紫音は町を歩いていた。
朝の光は地上の喧騒などとは関わりなく、いつものようにその輝きを総てに降り注いでいた。
彼女はその暖かさに懐かしみを覚えながら立ち止まり、空を見上げ太陽に話しかけ、その力強い雄叫びや、雲の静かな囁きや風の歌声を楽しんでいた。
それから目を地上に戻し、自分を中心に意識を町の外れまで広げ、町全体を観察した。
町は四方が五キロメートル程の小さな町で、ほとんどの建物が崩れ、焼け落ちていた。
紫音は更に意識を広げていった。
北の方に大きな町があり、どうやらそこが、昨夜兄妹が言ったザイールの町らしかった。
それから今度は、昨夜の親子の他に誰か人はいないかと、町の中で人間が出すエネルギーを探した。
濃い青色に反転した町の全体図の中でちょうど今、五つの赤い色が昨夜の建物の中に入るところだった。
紫音は、それ以外人がいないのを確かめると昨夜の建物へ戻って行った。
「それでおめぇ、目はもうどうもないんか?」
「そうよ。痛くも何ともないしよ。よく見えるぜ」
建物の中では目を治してもらった男が、足を怪我している男と話していた。
部屋の中にはその他に、足を怪我している男の女房子供と、手を怪我している若い男と年老いた老婆がいた
「ふ~ん・・・不思議なこともあるもんだなぁ…」
「まったくだよなぁ。俺は目が痛くて唸ってたんだけどよ。夜中に誰かが来て目の上に手を乗せたと思ったら痛みが無くなってな。そんで頭の中が震えたと思ったら身体が熱くなってきてよ。そのまま寝ちまったけど、朝起きたら目が見えるじゃねぇか」
「子供らに聞いたら、お姉ちゃんが来て治したって言うんだよ」
「ふむ、ショウタ、どんなお姉ちゃんじゃったかの?」
今まで話を聞くだけだった老婆が口を開き少年に訊ねた。
「綺麗なお姉ちゃんだったよ。身体から紫色の煙が出てね、キラキラ光ってすごく綺麗なんだよ。それから気持良い音も聞こえたよ」
「むぅ・・・」
老婆は腕を組み、思い巡らすように宙を睨んだ
「うむ、もしかすると・・・それは紫音様かもしれぬ」
「紫音様?」
足を怪我している男が訊ねた
「うむ、わしがまだ小さい頃に婆様から聞いたことがある。わしの婆様がまだ若い頃にの、紫音様いうて身体から紫色の煙と不思議な音を出してどんな病気でも治してくれる、不思議な人がおったとな」
「へぇ・・・でもよぉ、婆の婆様が若い時ってかなり昔の事だでよぅ。こいつが目を治してもらった人はまだ若そうじゃねぇか?」
足を怪我している男がそう言った時、紫音が部屋に入ってきた
「あ、お姉ちゃんだ!」
目を治してもらった男の子供の、妹の方が駆け寄っていった。
紫音は妹の頭を撫でながら男に話しかけた。
「目はどうですか?」
「はい、もう、お陰様ですっかり治りましただ」
「それは良かった」
「はい。有難いこってす。これで又働けますだ」
「ねぇねぇ、お姉ちゃんは紫音様ってお名前なの?」
妹が紫音に訊ねた
「うん、そう呼ばれてるけど、本当の名前は私も知らないのよ」
その時、足を怪我している男が紫音に話しかけた
「あの・・・わしの足も治りますかいの?女房子供を抱えて
難儀してますだ。どうかわしの足を治してくだせぇ」
続いて手を怪我している男も紫音に言った。
「わしの手も治りますだか?」
怪我している二人の男達は口々に紫音に頼み込んだ。
足の悪い男のそばでは、その女房と男の子が、すがる様に紫音を見つめていた。
紫音は足の悪い男に近寄った。
「ちょっと見せて貰えますか?」
紫音がそう言うと、男は椅子に座り怪我をしている右足を手で持ち上げた。
男の右足は、膝から下に添え木をして、その上から有り合わせの布でグルグルに縛ってあった。
紫音はしゃがんで男の右足に手を当てた。
男の右足は脛の骨が真ん中辺りで折れていて、もう一本の細い骨も折れていた。
紫音は男の右足をベッドの上に乗せ、布と添え木を外し、男の女房に足を持つように言った。
そして男の足に手を添えて骨を意識で観察し、それから折れている部分をずれのない様にピッタリと合わせ、骨を接着させる治癒の速度を極限まで早くした。
その時、紫音の身体から紫色の水蒸気が染み出し、やがてそれが煌めきながら不思議な旋律を奏で出した。
「おぉ…」
その場にいた者達は小さなどよめきを漏らし、うっとりとした表情で輝き煌めく水蒸気を見つめた。
ただ老婆だけは意思の強い目で水蒸気の輝きを見、不思議な旋律を聞いていた。
「むぅ、これは・・・見事じゃ」
老婆は目を閉じ、旋律に聞き入った。
男の足の骨折部分はみるみるうちに繋がっていった。
紫音は細い方の骨も同じ様に治し、何本か切れている神経を
繋いで男の足の治療が終わった
「これでもう、大丈夫ですよ」
紫音がそう言うと男は足をベッドから降ろし、恐る恐る右足を踏ん張ってから歩き出した。
「おお・・歩けますだ。痛くもなんともない!ありがとうございます。ほんとに助かりました!」
男は嬉しそうに歩き回った後、満面の笑みを浮かべて
何度も何度も紫音にお辞儀をした。




