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足りないもの

初出:2009年8月1日

コミック版『Canvas2』(角川書店)を全巻読み終えました。

しかし今日のカテゴリは『感想』ではありません。『創作論』です。

なんというか、この作品を通して、見失っていたことに気づけたり、昔の小説に対する心意気とかを思い出すことができたりしたもので。


前々から『徒然なるままに』を読んでくださっている方はご存知だと思いますが、僕は比較的最近までスランプでした。

いや、いまでもまだ若干スランプ気味ではありますが。あくまで『少しは落ち着いた』程度の回復でしかありませんが。

でも一時期に比べれば、そこそこは文章をスラスラ書けるようにはなっています。

そう、なってはいるのですが……それでも、いまの僕の作品にはなにかが足りない。そんなことをずっとずっと思っていました。


そして『Canvas2』の特に後半部分――第三巻と第四巻を読んで、なんとなくその『足りないもの』がわかったような気がしました。

ある意味、これもスランプです。前回のが技術的な行き詰まりによるスランプなら、今回のは精神的な行き詰まりによるスランプ。


……はい。もちろん技術的な側面だって、さほど成長できたとは思っていません。実際、推敲時には『しかし』と『体言止め』の多さが目について仕方ありませんし。

でも今回行き詰っている原因は、文章を書けるか書けないかというところよりももっと根本――書きたいものを書いているか、にあると思ったのです。


それはつまり、僕が読み手に『作品を通してなにを伝えたいのか』ということ。

あるいは『読み終えたときにどんな気持ちになってほしいのか』ということ。


いま書いている小説に伝えたいことがなにひとつない、とまでは思いません。書いていて楽しいのは事実なのですから。

でも、伝えたいことが間違いなく以前よりも希薄になっているというのもまた、事実でして。


『Canvas2』を読み終えてから、あるいは読みながら、僕はそもそもなにを伝えたかったんだっけ、と考えました。

それは能動的に思考するというよりも、心の底から勝手に疑問が湧きあがってきたというほうが正しいかもしれません。


そして、気づきました。

以前――『もう一度プロを目指そう』と思う前に書いていた『いつまでもあなたのそばに』(現在『ハーメルン』に掲載中)のプロローグや『ザ・スペリオル~夜明けの大地~』を、どんな思いを込めながら――どんな気持ちで書いていたかを。


これを詳しく語るのはうぬぼれが過ぎると思いますので、敢えて伏せさせてもらいますが、あのとき込めた思いは確かに現在、伝わっているように感じられます。

それはもう、ここまで自分の思いが伝わるものなのか、と驚いてしまったほどに。


そしてふと、思いました。

僕がいままで伝えたいことをダイレクトに書いてきた作品って、一体どんなものがあったかな、と。

真っ先に思い浮かんだのは、短編『スペリオル外伝~『本質の柱』を求めるもの~』でした。


正直なところ、なんだか複雑な気分です。

ほとんど設定だけをつらつらと書いた自己満足作品のほうが『本編』よりも自分の気持ちがこもっていると思えるなんて。


でも、そういうものなのかもしれませんね。『本編』は緩急や起承転結などを考えながら書いているため、『書きたくないこと』や『どうでもいいこと』も書かなければいけない傾向にあります。

そしてそんなシーンを書いているときは当然、『楽しい』や『書きたい』という気持ちがやや希薄になってしまいます。


プロを目指す以上、もちろんそれでも書き続けていくことは大事です。

いえ、もしかしたらこれができるか否かでプロになれるかどうかが決まるのかもしれません。

でも、僕はそういう『型』にいささか囚われすぎている気がするのですよね。


そういえば『Canvas2』のラスト(?)に主人公のこんなセリフがありました。



――賞よりもいいもんもらったし、そしたらなんか結果なんてどーでもよくなっちまった。



ある意味、これが一番心に響いたかもしれません。もちろん現在の僕はそこまでストイックにはなれませんけど、でもこのセリフ、以前賞をもらったときの心境とすごく重なりました。


思えば、当時の僕は賞を採ることが目的で出したわけではありませんでした。

目的はあくまで選考委員の人たちに読んでもらうこと――より正確に言うのなら、身近にいる人以外の人にも読んでもらうことでした。

ただ、『最低でも最終選考には残りたい』とは思っていました。

だって、そうじゃないと『読んでもらえたかどうか』がわからないままになってしまうじゃないですか。

ともあれ、それが確認できれば充分だったのです。現在と違って。


そして、そこから連鎖的に考えたことがひとつ。

僕が応募用に物語を考えると、どうしても『起(主人公とヒロインの出会い)→承(平和な日常)→転(バトル)→結(平和な日常への回帰)』の型にはめてしまいます。

これは過去の受賞作の多くに当てはまる型で、また僕は『絶対に賞を採りたい』という思いから無意識的にこの型を選択してしまうのだろうと思います。

要は過去の受賞作が作ってきた道から外れてしまうのが怖い、あるいは外れた作品を作って、落選してしまうのが怖いのでしょうね。思いきった『冒険』ができず、いつも小さくまとまってしまいます。


そしてヒロインのパターン。

これに関しても先ほどと同じことが言えます。

落選が怖いため、いま世間ではツンデレが受けているのだから、と自分が書きたいのは突撃系の素直でストレートなヒロインなのに、世間に迎合しようとツンデレを書こうとしてしまう。需要を考えるあまりに、自分の書きたいキャラクターを封印してしまう。

おそらくは、これが『楽しく書く』ことを阻害してもいるのでしょう。


今回、一番大事なのは『書きたいこと』を『書きたいキャラ』で『書きたい展開』で書くことなんだな、と心から思いました。

『書かなきゃ』ではなく、『書きたい』を。

書き終えたあとの反応ではなく、『書きたい』という気持ちを。

それらを原動力にしていくのが大事なんだろうな、と。


もちろん、それに気づけたからといって、劇的になにかが変わるわけではないでしょう。

僕という人間はなんとも不器用で、『いつまでもあなたのそばに』→『彩桜学園物語』→『黄昏色の詠使いの二次創作作品』と『書く順番』を決めている以上、それから大きく外れることはやっぱりできないと思うのです。それは気づくことができてもそう簡単には変えることのできない『性分』ですから。

それこそ、春の次に夏が来ることに気づけていても、それを変えることができないのと同じように。


それでも。

変えることのできない流れの中に、自分の伝えたいことを挟んでいくことはできると思うのです。


あ、そうそう、『Canvas2』は精神的に行き詰っている人にはオススメの作品ですよ。そうでなくてもオススメですが。

メインテーマは『絵を描くこと』ですが、それはやっぱり、小説を書くときの心境にも重なるものがありますので。

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