あなたが大好きだから。
昔住んでいた家はもう他の人が住んでいた。
優しそうなおじさんおばさん。ちいさな娘さんが庭を走り回ってる。
あのころの、あたしとおなじくらい、かなぁ。
かわいい盛りの女の子。ふふ。あたしがかわいいとかそんなつもりじゃないけど、たぶん一般的に子供は可愛いものだ。
きっと、兄様も勘違いをしちゃってるだけ。
刷り込み?
かもしれないよね。
そんなことを考えつつ窓の外をみていた。
どこまでも青い空。雲のかけらさえみえない。
気持ちのいい風が吹いて、お家の中の空気も入れ替えていってくれるよう。
マドラおばあちゃんは買い物に出かけた。あたしはお願いして洗濯をやらせてもらって、いま干し終わって休憩してるとこ。
洗濯は慣れてるからといっても、いつまでも家事の手伝いだけでここにおいてもらうわけにもいかない。どこか働くところをさがさないとかかなぁ。そんなふうにぼんやり考えていた。
コーラル様のお店でも、とか考えたけど、いきなり頼んでも無理言ってるようで申し訳ない。
明日にでも、街の様子を見ながら求人の張り紙でも出てないか、探さなきゃ。
いざとなったら、教会の治療院で働かせてもらうのもありかな。
聖魔法、たぶんちゃんと使えるようになったはず。
すこしは役に立つだろうから……。
コンコン
そんなことを考えている時だった。
おうちの玄関の扉を叩く音がする。
「はーい。今行きますー」
誰だろう。マドラおばあちゃんならもうじき戻りそう、だけど……。
ガチャ
扉を開けるとそこには旅装束の男性が立っていた。風が強かったからか、砂埃を避けるためのフードでお顔がよくみえなくて……。
「ごめんなさい、今誰もいなくて。あたし、留守番なんですけど……」
そう言いながら、その人のことをよく見て。
目が離せなくなった。
「マオ……。無事で、よかった……」
フードを脱ぎ、あたしの顔を見つめるその人。
「兄様……」
ああ。ああ。ごめんなさい。
逃げてしまったあたしをこんなところまで追ってきてくれた、兄様……。
「ごめんなさい、兄様。あたし……」
「いいよ。マオが無事だったなら、いいんだ……」
ものすごく怒られるだろう。
そう思ってた。
だって、あんなところから突然消えてしまったら、いろんな人に迷惑かけてしまっただろう、から……。
あわせる顔、ない。
そう思ってた……。
だけど。
「ごめんなさい、迷惑、かけて……」
「いいんだよ、マオ……」
どこまでも優しい。
兄様……。
「でも、あたし、あんなとこから逃げちゃって、きっと王太子様だって怒ってるでしょう。お父様にも母さんにも、迷惑、かけた、よね……。ごめんなさい……」
「ああ。ばかだなマオは……。みんなを心配させて。あれから父様もお母様も、殿下だって、ほとんど寝ずに君を探したんだ。ほんとうに、無事で、よかったよ……」
兄様、あたしの手をとって。
「でも、いいんだ。こうして無事でいてくれたんだから。それだけでみんな安心してるよ」
「ごめんなさい……」
「君を、追い詰めてしまってごめん。だけどね、それでも僕は君が好きだ。最初は侯爵位なんてどうでも良いって、君にさえふさわしくあれれば良いって、そうも思ったけど」
兄様の綺麗なお顔がくしゃっとゆがむ。
「でもね。僕らは両親にほんとうに愛されているんだってわかったんだ。君と一緒に歩むことも、祝福してもらえたんだよ……」
え? 兄様、それって……。
「でも、あたしたちが兄妹だと、貴族の法律で結婚はできないからって……」
「ばかだなマオ。いや、バカだったのは僕のほうだった。その貴族法もね、解決できる手段を考えてくれてたんだ。父様もお母様も。だから、心配しないでいいんだよ」
「兄様が、お父様と養子縁組を解消するっておはなしは……」
「ああ。しないで良くなった」
「でも……」
「最初はフローラ母様がね、実家のおばあさまに君を養女にって頼んでいてくれたんだけど、それだと君がお母様と姉妹になってしまうだろ? そしたらそれを聞いた大聖女様が、それなら自分とマオの養子縁組をって名乗り出てくれたんだ。君を次期聖女にって息巻いてたよ」
「え? だって、大聖女様ってお若いでしょう?」
あたしとそんなにかわらないくらい?
「ばかだなマオ、あの方はたぶん君のおばあさまより歳上だよ」
え?
びっくり。
うそ……。
「だからごめん。君には聖女の修行を続けてもらわなきゃいけない、けど。いいかな?」
ああ、ああ。
「はい、兄様。あたし、頑張って立派な聖女を目指します……」
「ふふ。大聖女様もおっしゃってたよ。今回のことで、君のゲートが開いたはずだからって。君には大聖女様にもまけないくらい、聖女の素質があるはずだからって」
うん。
今ならわかる。
あたしの心の奥底のゲート。
そこからマナを出すことで、精霊たちとも前よりスムーズに意識が繋がるようになったって。
キュアたちの声も、前よりはっきり聞こえるようになったから……。
「未来の大聖女様。こんな僕でよかったら、君のパートナーに選んでもらえないだろうか」
真剣な瞳でこちらを見つめるアンソニー兄様。
「もちろんです!! ありがとう兄様。大好きよ!」
あたしは兄様にだきついて、その胸に顔をうずめて。
兄様も、あたしのことを優しくハグしてくれた。
「好きだよマオ。初めて会ったときからずっと。だからごめん。もう僕のそばから逃げないで」
抱かれたままそっと見上げた兄様のお顔には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「ごめんなさい兄様。もうずっと離れない。兄様も、あたしのこと離さないでね」
「ああ、離さない。一生君を支え続けるって誓うよ」
あたしが聖女になっても、兄様が魔術師としてずっとあたしに寄り添ってくれる。
そんな未来が見える気がする。
青い、どこまでも真っ青な空が、あたしたち二人を祝福してくれている、そんな気がした。
大好きです兄様。いつまでも、そばにいてね。
Fin




