幸せだ。
ここまで読んでくださったみなさま。ほんとうにありがとうございます。
ここまで、マオ一人称部分(短編部分)にいったい何がおこっていたのかというのを、エドワード、アンソニー、フローラの視点で書いてきたわけですが、
ここからはまたマオ主人公に戻し、少し時間を進めていきたいと思います。
あともう少しだけ、マオの恋を見守ってくださいますとありがたいです。
よろしくお願いします。
あたしは幸せだ。
うん。すごく幸せだ。
こんなに幸せでいいのかな、って、時々不安になる。
母さんも退院して、いまは同じお部屋で過ごしてる。
っていうか、あたしに割り振られていたお部屋は、もともと母さんの部屋だったらしい。
まあ、これだけ広いんだもの、母さんと一緒のベッドでもあたしは全然構わないし、それこそ母さんは時々お父様のお部屋で寝たりもするから、それはそれでいいのかも、だけど。
というか、一番驚いたのが、実は母さんはまだエドワードお父様の奥さんのままだったって事実。
教会に婚姻届は出していたけど、離婚届は出していなかったんだって。
ほんとびっくり。
ということは?
母さんは元のまま侯爵夫人ということになって、あたしもその子、侯爵家の子だって正式に認められた。
そこで一つだけ問題が発生したのだった。
それも、あたしの学歴の話。
貴族の子女、特に魔力のある子は貴族院に通うことが義務付けられていた。
母さんは高等部を中退してるって話だから、絶対に卒業まで通わないと罰則がある、とかいうことでも無いようなんだけど、それでもあたしの場合、「聖女の加護」があるのでは疑惑が上がっていて、もう絶対学院に入り直すように、っていう通達が、お国の聖女庁から届いたらしい。
イライザ夫人の所業が明るみになって、彼女は罪に問われることとなった、のだけど。
母さんが目を覚ますと同時にイライザ夫人は寝たきりになってしまったから、結局病院のベッドを交代しただけということになって。
その経緯の取り調べの中で、あたしが回復魔法を使った事もバレたのだ。
回復魔法は結構特殊な魔法で、特に回復と浄化が使える「キュアの加護」持ちは、聖女の素質があるとされていた。
「キュアの加護」イコール「聖女の加護」とも呼ばれている。
ふう。
そんなあたしの魔力や加護のありなしを調べたいんだって。
やんなっちゃう。
高等部の入学セレモニーではそんな加護を測ったりもするんだって。
何だか気が進まないなぁ。
まあ、あたしが今から学院に入り直したとして、途中入学になるから、セレモニーとか関係ないかもしれないけどね。
そういえば、高等部は13~15才の三年間だけど、兄様はその上の大学院まで通ってた。
高等部で魔法の使い方をみっちり学べば一応お貴族様としては十分だという話なんだけど、それ以上に魔法学をしっかり研究したい人用の大学院に進む人もいる。兄様みたいにね。
兄様はいまはたちだから、五年間の大学院の最終学年になる。
ふふ。兄様の卒業までは一緒に通えるのかと思うと、ちょっとだけ嬉しかったけど。
「マオは、学院にいくの、いや?」
「ううん、そんなことはないよ。学院は楽しかったし……」
明日から貴族院高等部一年に編入することとなった、前日のよる。
ベッドで一緒に寝ているときに、母さんがそう言った。
あたしがあんまり乗り気じゃない顔をしてるのを感じ取ったのかな。
でも。
「ありがとう母さん。心配してくれて」
「ううん、マオが本当に嫌なら無理に通うこともないかと思っただけ。マオには、やりたいことをやってもらいたいって思ってるから」
「あたし、ずっと母さんに目を覚まして欲しくて、毎日神様にお祈りしてたんだ。そのおかげで少し回復魔法が使えるようになってただけなの。なのに、何だか色々調べられるって聞いて、ちょっと足がすくんじゃった」
「そっか。わたしが助かったのはマオのおかげだものね。ありがとね。マオ」
そういってあたしを抱きしめてくれる母さん。
頭もいっぱい撫でてくれて。
「ねえ、せっかく回復魔法が使えるようになったんだもの、それをもっともっとちゃんと使えるように、まだ知らないこと学びに行くんだって。そう考えてみるのもいいんじゃないかしら」
そう、かぁ。
「まだ、知らないこと、かぁ」
「そうそう。きっとマオがまだ知らないこと、いっぱいあると思うのよ。そういうことを学ぶんだって思えば、貴族院だって行ってもいいかなって思わない?」
「うん。そうね。そういうの、いいかも……」
世界にはいっぱい不思議がある。魔法もそう。いっぱいの不思議でできてる。そんな不思議をいっぱい解き明かしたい、そうは思う。そういうのにも、少しだけ、興味もある。
兄様もきっとそんな気持ちで大学院まで通っているのかな。
本読むの、好きだしね、兄様。
「ふふ。ありがとう母さん。あたし、頑張っていっぱい学んでくるよ」
「うん。マオならきっとそういうと思った。頑張ってね」
あたしは母さんの胸に顔を埋めて。
ちょっと子供っぽいかなって思ったけど、いいの。
ずっとさみしかった思いを帳消しにするくらい、いっぱい甘えさせて。母さん。
「マオ、わたしの大事なマオ。かわいいマオ。あなたがいてくれたおかげでわたしは頑張れたの。ありがとねマオ……」
あたしのことを抱き枕みたいに抱いて、そうささやく母さん。
目を瞑ってうとうとしてきて……。
ああ、でも、母さんの腕の中は心地いい。
このままぐっすり眠れそう……。
そう、意識が落ちていこうとしていたそのとき、だった。
「でも、少しだけ心配。こんなにあまえんぼうなマオは、ふつうに大人の恋愛ができるのかしら……」
え?
「子供のマオの時間を取り戻せるようでわたしは嬉しいけど、ね」
はうう。
あたしがもう寝入ったと思ったんだろう。母さんのそんなつぶやきが聞こえてきて。
うーん。
母さん、あたしが兄様のこと好きだって、わかってるはずなんだけどなぁ……。
反論? しようかとも思ったけど、ちょっと恥ずかしかったからそのまま寝たふりを続けてたら、いつのまにかほんとに眠っちゃってた。
その夜は、変な夢をみた。
子供のあたしが兄様とお父様と母さんと三人で暮らしている夢。
何不自由なく育って、すこしわがままもいうあたしを、みんな温かい目でみてくれる。
そんな、ちょっと幸せな、夢だった。




