真実の愛。
「ここは……、どこ?」
声に出してみる。
うん。声はちゃんと出る、聞こえる。
真っ白な部屋。真っ白なカーテン。
外が何と無く明るく感じるから、いまが昼間なのだということは、わかるけど……。
「フローラさん!! ああああ、フローラさんが目を覚まされました!! 誰か、院長を呼んでください!!」
わたしの声が聞こえた? それとも偶然?
ガラッと扉を開ける音がしたと思ったら、ざっとベッドの周囲を覆っていたカーテンが開けられ。
こちらを覗いている、多分看護師さん。
そう大声をあげた。
「気分はどうですか。何か体に不調はありますか?」
ベッドに近づき、わたしの腕を取って。
「脈は、ちゃんとありますね。正常です」
ええと……。
ずいぶん不穏なセリフ。脈があるなんて、当たり前でしょう?
「わたし、危なかったんですか?」
そう声にしてみる。幸い、声がかすれたりとかそういった事もない。
「いえ、危ない、というより……。あなた、今まで、石のように固まってしまっていたから……」
ええ!!
「それって……」
「御免なさい。混乱しますよね。もうじき院長先生がお見えになりますから、あとはそこでお話しがあるでしょうから……」
茶色い髪を真っ白な帽子で隠したチャーミングな雰囲気の看護師さん。
さっきまでの驚いたようなお顔から、さっと真面目なお顔になって。
「わかりました……」
と、そう言って、体を起こそうとしたところで。
「ああ、フローラさん、待って。まだ、あなたの身体の具合が不明なの。院長の診察が終わるまで、そのまま横になって待っててくれるかしら」
慌てて静止された。
「わたし、どれくらい寝てたんです?」
結構長い間こうして寝たきりだったのだろうか。少し体を起こすだけでもそんなに気をつかわれるほどに……。
「10年、ですか、ね……」
え? え? ええと、10年!!?
うそ、そんなの!
マオは、マオは、どうなったの!!?
「マオは!? マオは、どこ!!?」
わたしのかわいいマオ。
10年も……、どうして……。
「マオちゃんは毎日のようにお見舞いにきていましたよ。今日も今から来る筈です。侯爵家にはちゃんと連絡を送りましたから」
院長が到着し、ほかの看護師さんから何か耳打ちされた看護師さん。
マオのこと、今から来るって……。侯爵家に連絡したからって……。まさか……。
「ここは、メルロマルク、なのでしょうか?」
「そうですよフローラさん。メルロマルク総合病院です。さあ、診察をさせてくださいね」
初老のお医者さんが、わたしの顔に触る。目や、ほおに触り、胸元に聴診器をあて。
「ふむ。どうやら正常、ですね。どこか痛いところとかはありますか? 痺れている箇所とかは」
「いえ、大丈夫です」
「ふむ。これは奇跡でも起きたとしか考えられない」
奇跡って、大げさな。
そう感じて。
でも、10年も石のように固まっていたというのが本当なら、奇跡、というのもわからなくもないけど……。
わたしをそんな石のようにしたのは、イライザに違いない、と、それはわかる。
魔法なのか、呪いなのか、その辺まではわからないけど。
あの、イライザの胸から放たれた黒い塊。
あれのせいだっていうのは、間違いない。
だとしたら……。
「侯爵家の方々がお見えになったようです。こちらに御通ししますね」
看護師さんがそう言って、院長先生も部屋を出ていく。
「フローラ!」
部屋に入るなり、そう叫んだのはエドワード、だった。
ずいぶん、老けた姿。
10年、経ったっていうのが、実感として湧いてくる。
「エドワード、さま……」
わたしは体を起こし、彼を見て。
背後に、綺麗になったマオを見つけた。
「マオ? そこにいるのは、マオ、ね。わたしの大事なマオ。大きくなったわね……」
「母さん、母さん、かあさーん!!」
マオ、ベッドのすぐそばまで駆け寄って、縋り付いて。
涙がボロボロこぼれている。
わたしも、目に涙が溢れて。
「ごめんね、苦労をかけたわよね」
「ううん、ううん、よかった。よかった。母さん!!」
よかった。よかった。マオ。
本当に、よかった……。
初めて。
神様って本当にいるのかもしれないって、そう思った。
神様を信じてもいいのかなって、そう思えた。
前世で自分の死を選んでしまった時、わたしのお腹には子供がいた。
わたしを裏切った人の子供……。
わたしはその子を産んであげることができなかった。
この子のためにも生きなきゃって、何度も思ったけど、でも、衝動的に何度も何度もカミソリで手首を傷つけた。
もう、自分が何を感じているのか、何をしているのかもわからなくなって。
「ごめん、母さん。わたし、もう、ダメ……」
最後にそうメモを残した所までしか覚えてない。
きっとそのまま死んじゃったんだろう。
寄り添ってくれていた母さんに申し訳なかった。
産んであげられなかったわたしの子に、ごめんなさいって。
この世界に転生してからも、きっとずっとそんな後悔に苛まれていたと思う。
だけど。
いまは……。
愛するマオがいる。
そして。
「ねえ。エドワード。あなた、老けたわね。でも、だからわたし、マオのことすぐにわかったわ。ありがとう、マオを連れてきてくれて」
「ああ。フローラ。マオのことも、君のことも、もう離さない。覚悟してくれ」
そう言ってくれたエドワード。
ありがとう。
エドワード。
ありがとうございます。神様。
真実の愛。
わたしにこんな素敵な人生をくれて、本当に……。
感謝しています……。
ここまで読んでくださって本当に感謝しています。
お話はこのあとマオの物語に戻るのですが、もう少し書き溜めてから連載再開したいと思っています。
それでは……。




