ダンス。
「僕と踊ってくれますか?」
僕はそのままマオの横に立ち、彼女にそう手を差し伸べる。
「はわわ。あたしなんかでいいんでしょうか?」
恐縮しているって雰囲気のマオ。
手を体の前でもじもじと揉んでいる。
ふふ。伸ばそうかどうしようか、僕の手を取ってもいいんだろうかそれとも……。
そんな心の動きが見て取れるようだ。
「君で、じゃないよ? 君がいいんだ。殿下に言われたから、じゃ、無いから」
そう言って、ウインクしてみせる。
ふわっとマオの顔が綻んだのがわかる。
「じゃぁ。よろしくお願いしますアンソニー兄様」
ゆっくりと椅子から降りると、マオはそっと僕の差し出した手を取ってくれた。
ポカポカあたたかい手に触れて、心がとても昂揚していた。
「ありがとうマオ。君のファーストダンスの相手が僕で、とても嬉しいよ」
クリストファに聞かれると恥ずかしいから、マオの耳元だけでそう小さく囁いた。
真っ赤になったマオをエスコートし、そのまま中央の広間に進む。
楽団の音楽が、それまでの静かな曲から、ゆったりしたワルツに変わる。
クリストファにはああは言ったけれど、マオは体幹もよくダンスも上手い。
ふふ。まあ、いいか。
「まずは、ダンスを思いっきり楽しもう」
そう小さく呟くと、マオも笑顔で頷いてくれた。
爽やかな風がゆったりと吹いていた。
気持ちが良くて、隣を歩くマオを見ると、彼女も笑みを返してくれる。
緊張していないかな?
そうも心配したけれど、大丈夫そうだ。
マオは、もうすでにダンスをしているかのように、軽やかなステップを踏んでいる。
もともと、びっくりするくらい体幹のいいマオは、バランスを崩すということがない。
難しいステップだって一回練習すればすぐに踊れるようになる。
実は今では僕の方がついていくのが精一杯なのだ。
中央付近に到着すると、楽団が一度音を止めた。そして。
集まってきた人々が位置についたところで。
おもむろに、音を奏で始めた。
「さあ、ワルツ、だよ」
「ええ、兄様。兄様こそあたしにちゃんとついてきてくださいね」
そんな、ちょっと小憎たらしいセリフを吐くマオ。
だけど、顔は小悪魔のようにキュートで。
反則だよ、マオ。
そんな目をされたら僕の心はもうメロメロだ。
蠱惑的な瞳で僕を見つめるマオ。
それでいて足元は軽やかで、ステップを間違えることもない。
だめだ。
やっぱりマオは誰にもやりたくない。
クリストファにだって、絶対に、だ。
父様のことだ。今はまだ自分の子だと名乗ってはいないけど、いつ気が変わるかわからない。
マオが正式に侯爵家の令嬢だと世間に公表された時には、きっと婚姻の申し込みが殺到することだろう。
だから。
どうにかしてその前に、僕のマオだって宣言したい。
父様にも、なんとか根回しできないかな。
それとなく、相談してみようか。
僕は、本気、だって。
「おかえりアンソニー。マオは素晴らしいステップだったじゃないか」
クリストファが満面の笑みで迎えてくれた。
周囲の親戚筋の令嬢たちも、「素敵だったわね」とか、「風に靡く黄金の髪はやっぱり血筋?」とか、「あら、だとしたらアンソニー様はフリーって」言う事かしら?」とか。
こそこそくすくすと噂に花を咲かせている。
うん、まあ、こういうのならいいか。
マオ一人にしてしまった時に周囲から嫌みややっかみでいじめられないか、って、そっちが心配だったんだけど、なんとかなってるみたいだ。
「じゃぁ次は私だね。さあ、レディマオ。私と踊ってはもらえませんか?」
クリストファは優雅な仕草でマオに手を伸ばす。
まあ、今日はしょうがないか。
でも、絶対にクリストファにマオはあげないから!




