#7 弱点
あれから、1週間が経った。
あいつがどうなったって?俺とこいつは夫婦だ、一つ屋根の下で過ごしたに決まっている。まさか、路上に捨てるわけにもいかねえからな。
いや、手は出してねえぜ。こいつに空いてる部屋を貸した途端、そこからなかなか出てこねえ。この7日間は、ほとんど会話もしちゃいねえ。最小限の食事と買い物以外は、まるで顔も合わさねえ。まったく、可愛くねえ奥様だ。
で、再び俺は仲間を呼び寄せ、エステポルナ宇宙港の第133番ドックにやってくる。あの女も連れて。
別に、俺の部屋で待っていてくれても良かったんだが、こいつがついてくると言い出した。なんでも、連合側に帰る機会を伺うためだとか。いやあ、それはちょっと、無理じゃねえか。
いや、よく考えたら、もっと簡単に帰る方法がある。
宇宙港の通関所に飛び込み、そこで自分は連合側の船から勝手に連れてこられたと言い張ればいい。そうすれば多分、こいつは強制送還させられることになるだろう。多少、臭い飯を食わされることにはなるだろうが、故郷に帰ることはできる。そのことにこいつは、気づいてないようだ。
それにしてもこいつ、どういうわけか、あのメイド服姿でこの船に乗り込んでいる。他の服も何着も買ったというのに、なぜそれを着る?少し赤い顔をしながら、俺の後ろをついてこの船橋に乗り込んできた。別に俺がそうしろと嘆願したわけでもなく、恥ずかしいならそんな格好しなきゃいいのに、しかもこいつが一番嫌っている俺が喜ぶだけだというのに、こいつ、何考えてやがる?
「出航!機関出力上昇!繋留ロック解除!」
そんなおかしな女を含む15人の乗員を乗せたモレストロ号は一路、宇宙に向けて出発する。ああ、そうそう、この船の整備や補給は、軍が皆やってくれた。船の維持費がかからねえというのは良いことだ。分け前を全部、15人で分けられる。
だが、あんな分け前じゃ、まだ足りねえ。新しい獲物を求め、大金を稼ぎ、ゆくゆくは安泰な暮らしをするための蓄えにする。いつまでもこんな危険な稼業を続けられるわけがねえ。まあいつかは海岸近くの街にでも居を構え、そこでもう一人くらい養えるだけの金を得て、そこで慎ましい暮らしをして、一生をのんびりと過ごすんだ。
この孤児院時代からの夢を叶えるべく、俺は船を襲う。連盟の軍人どもは俺にいつまでも海賊を続けて欲しいようだが、俺は別に連合の連中に恨みがあるわけでもねえ。稼げるだけ稼いだら、さっさと身を引くつもりだ。
「高度3万を突破!規定高度まで、あと1万!」
ところで、俺の横で使用人のような姿をしているこの女は、この先どうするつもりなんだ?不本意とは言え、海賊に関わっちまうことになった。しかも、ここは敵地だ。知り合いもいなけりゃ、金もねえ。まさに身一つでこの星に飛び込んじまった。
まさか、自暴自棄になっちまったのだろうか?メイド服姿で現れたのも、そういうことか?
そういえばこいつはまだ、俺に一矢報いるのを諦めてはいないようだ。いつか寝首を襲ってやると、この7日間過ごした時も、そう漏らしていた。やれやれ、俺以外にも海賊はいるだろうに、なぜ俺なのか?
「規定高度に到達!高度4万!」
「ようし、それじゃ大気圏を離脱する。エンジン全開!」
「両舷前進いっぱーい!大気圏離脱、開始!」
ゴーッという、けたたましい音が船橋内に響き渡る。こいつは普通の交易船じゃねえ。倍の機関を搭載した、スピード重視の強襲船だ。その分、機関音はうるさい。しかもその機関のおかげでペイロードも小せえが、どうせ小型で金目のものを積んでそうな船を襲うのが目的。特に困ることはねえ。
あっという間に、宇宙へ飛び出した。なんでもこの技術は、連合側の盟主である地球001からもたらされたものらしい。これがもたらされるまでは、俺達の先祖は青い球体の上で剣と槍と大砲で戦っていたらしい。広い宇宙なんて、しかもそこに大勢の人が住む星が点在しているなどと、つい100年ちょっと前までは想像すらしなかったようだ。
にしても、自由に宇宙に出る技を教えてくれた相手に、俺達は嫌がらせをするためにその技を使う。なんとも皮肉なものだ。だが、そんな事情は関係ねえ。俺は俺の夢のために、これからも当分の間は船を襲う。
なんて考えてるうちに、もう宇宙に出ちまった。月軌道も通り越して、外惑星系にあるワームホール帯に向かう。さて、それまではしばらくの間、暇な時間だな……
と、俺は船長席を降りようとすると、横でしゃがみこんで頭を抱えたメイド姿のやつがいる。こいつ、何をしているんだ?俺は尋ねる。
「おい、グレース。こんなところで何してやがる。」
ところがこいつ、涙目でこちらを見上げてきやがった。だが、俺はまだこいつに、何もしてねえ。
「おい、大丈夫か。また漏らしたんじゃねえだろうな?」
俺のこの一言に、グレースのやつ、顔を真っ赤にして応える。
「……苦手、なのよ。」
「苦手って、何がだ。」
「大気圏離脱時の、あのうるさい機関音が、ダメなのよ……」
つくづく面白い女だ。なんだって?あの音が苦手だと?これまでも何度も交易船を乗り継いで、しかも親父が交易商人だったっていうのに、そんなものが弱点だったとは意外だ。
それを聞いた俺はついおかしくなり、その場でゲラゲラと笑い出す。そんな俺を見たグレースは、すぐに反論する。
「な、何がおかしいのよ!あんただって、大気圏突入が苦手じゃない!」
いや、おかしいだろう。大気圏突入は、危険と隣り合わせだ。それに比べて大気圏離脱は、何も危険なことはない。ただ、うるさいだけだ。
これほど正反対の弱点を持っていようとは、つくづくこいつと俺は正反対の人間なのだと感じる。そんなグレースのやつ、俺の笑い声を聞いてだんだんと頭にきたのか、そのまま船橋から出て行ってしまう。
まあいい。またあいつの悔しげな、良い表情を見られた。それだけで俺は満足だ。
で、それから6時間ほどで地球414星系外縁部に到達し、そのワームホール帯から中性子星域にジャンプする。
その間、あいつは部屋に閉じこもったきり、出てこなかった。
そいつと再会したのは、ワープ直後の食堂。気づけばそいつは部屋から出てきて、ガツガツとピザを頬張っていた。
にしても、相変わらずメイド服だな。なんだってそんな格好でこの船に乗り込んだのか?メイド服には似つかわしくない、品のない態度でピザを食べるこのメイドに、俺は話しかける。
「よぉ、美味そうに食うもんだな。」
俺が話しかけると、また睨みつけてきやがった。気持ちはわかるが、その姿でいることも、この船に乗り込んだのも、お前自身が決めたことだ。こうなることくらい想定内だろうに、変なやつだ。
で、無言でまたピザを食べ始める。その顔が、たまらなくいい。できればそのまま俺の部屋に連れ込んで、しばらく眺めていたいくらい良い表情をしている。
だが突然、こいつは口を開く。
「……ねえ。」
「なんだ。」
「せっかくだから、ちょっと聞きたいんだけど。」
「何をだ?」
「あんたが、大気圏突入を怖がってることよ。何か、理由があるんでしょう?」
いきなりこいつは、妙なことを聞いてきやがった。
「そんなこと聞いて、どうするつもりだ?」
「別に。でも、私ばかり弱みを知られているのも癪だから、あんたの弱みも聞いてみたいと思って。それだけよ。」
「そうか……」
弱みといえば、今のところこいつは弱みだらけだな。まあ確かに、不公平だ。そう感じた俺は、こいつに応える。
「事故があったんだ。」
「事故?」
「そうだ。」
「事故って、どういう事故よ。」
「決まっている、大気圏突入時に、ちょっとしたミスで起こった事故だよ。」
「それって……もしかして、船が焼けちゃったの!?」
「そうだよ。耐熱空間ドライブに、動力を繋ぎ忘れたんだ。その状態で大気圏に突入すりゃあ、あっという間に船は火だるまだ。そのまま海に落下して沈没。もちろん、乗員は全員死亡。」
「ふうん……今どきそんな事故があるんだ……」
「これが赤の他人の事故だったらな、俺も何とも思わねえ。」
「なによ、家族でも……ああ、そういえばあんた、家族はいないのよね。恋人?」
「いや、恩人だ。恩人が乗っていた。」
「恩人って……」
「孤児院から出た直後、ちょっとだけ俺は堅気の仕事をやっていたんだ。そのとき、俺にいろいろと教えてくれた人さ。」
意外そうな顔でこちらを見るグレース。まあ、そうだろうな。この話は、この船の乗員にもしたことがねえ。
「てことは、その人が親代わりだったんだ。」
「いや、違うな。そんなものじゃねえ。」
「じゃあ、何なのよ。」
「言うなれば、神だな。」
「は?」
「俺にとってその人は、敬うべき最上の人。まさにそういう人物だった。」
こいつにとって想定外の言葉が出てきたのだろう。神とまで表現される人がいるなど、考えもつかないようだ。だが、確かに俺はその人を敬い、一生ついていくつもりだった。
「……で、それほどの人物に巡り合いながら、どうして海賊なんてやってるのよ。」
「そうだな。一言で言えば、馬鹿馬鹿しくなった。」
「どういうこと?」
「考えてもみろ、俺は親に見放され、捨てられ、そして愛情や信頼などというものとは縁のない人生を歩んできた。やっと自分の全てを投げ打っても構わないと思える人物に巡り会えたかと思えば、この宇宙でほとんど起こり得ないごく稀な事故でその人を失った。分かるか、この気持ちが。」
それを聞いたグレースは、少し眉間にシワを寄せて、こちらを睨む。おそらくだが一瞬とは言え、俺に同情してしまったことを悔いているのではないか?
「……分からないでもないわ。私もそういう意味じゃ、似たもの同士だし。」
「父親のことか。」
「そうよ。」
「確かに、海賊に襲われたからと言って、命まで失われるのは珍しいな。まあ、俺がいうのもなんだが、今どきの海賊は生命まで奪うことはしねえ。」
「妙な言い草ね。海賊は思ったよりも、綺麗な商売だって言いたいの?」
「違う。ルールというか、マナーというか、その類だ。」
「……無法者らしからぬ表現ね。」
「いくら無法者でも、長くこの稼業をやろうと思ったら、相手を追い詰め過ぎず、ほどほどに手を引くのがベストだと考えるはずだ。実際、俺以外の海賊も同じ意見だ。第一、俺達は人の命を奪うのが目的じゃねえ。交易品を奪って、金に変えるのが俺達のやるべきことだ。」
「まあ、どちらにせよ、最低の行為だけれど。」
そういえば、この7日間を共に過ごしたわりには、これほど長い会話をすることはなかったな。今日のこいつは、どうしたというのか?
ただ、今の会話で一つ、こいつと俺の共通点が見えてきた。俺は、親に捨てられ、しかも稀有な事故により尊敬する人物を失った。グレースは、最愛の父親を海賊に殺され、しかもこいつ自身、海賊に捕まり連れ回されている。普通なら一生に一度、経験するかどうかという経験を、こいつも俺も二度、経験している。
「ま、そんなわけで、俺は大気圏突入時には神経質になるのさ。そのわりには、自暴自棄な職業を選んじゃいるけどな。だが俺が死ぬときは、大気との圧縮熱によるプラズマに焼かれて死ぬのだけは避けようと、そう決めている。ただ、それだけだ。」
それを聞いたグレースは、ちょうど食べ終えたピザの皿の置かれたトレイを持ち、カウンターへと向かう。そこでロボットアームにトレイごと渡すと、食堂を出て行った。
それにしても、俺らしくないな。今日の俺はちょっと、しゃべりすぎた。思い出したくもない過去にも触れちまった。ひとりになった食堂でクロケッタとガスパッチョを乱雑に口にしながら、俺はこのモヤモヤした気分を紛らわしていた。
そして中性子星域を通り過ぎ、いよいよ連合側の支配圏に入る。連合側の交易船が行き交う航路に合流すると、そこで偽装コードを垂れ流しつつ、民間船を装う。
海賊船だからと言って、いきなり民間船を襲うことはしない。品定めってやつが重要だ。小型の船舶だからと言って、必ずしも高価なものを運んでいるとは限らない。第一、交易船が密集した場所で船に襲い掛かれば、すぐに通報されたり、あるいは周囲の船が集団で自衛用の武器で返り討ちしてくるかもしれない。俺達のようにたった一隻で行動する場合は、慎重に獲物を選ばなきゃならねえ。
しかし、小型船舶が単独で航行するなんてことは滅多にない。当たり前だが、他の交易船の中に紛れていた方が安全だ。
かといって、中型船を襲うのも考えものだ。中型船以上は普通、武器を装備している。下手に襲い掛かればこちらがやられることもある。海賊船とはいえ、防御に関しては民間船と変わらない。
仲間の話じゃ、わざと単独航行する小型船舶もいるらしい。だが、その背後には連合の軍船が待ち構えていることが多いという。要するに囮だ。だから当然、いかにも獲物らしき船が現れた時はむしろ、要注意だ。
そんな格好の獲物が目の前に現れたのは、連合側の支配圏に入ってから3日目のことだった。
「どうだ?」
「うーん、今のところ、それらしい船影は捉えられねえ。」
「だけどありゃあ、あまりにも露骨だな。」
「そうだな。少し、様子を見るか。」
俺とドロテオは、レーダーが捕らえた小型船舶を巡って議論していた。単独航行で、実に悠々と俺達の前を進んでいる。だがその姿はまるで、釣り糸の先の餌のようにも見える。
その様子を、後ろからじっと見つめる奴がいる。グレースだ。何か言いたげな顔でこちらを見ているが、何も言わずにただ俺達のやりとりを眺めている。
「なんでぇ、言いたいことでもあるのか?」
俺がそう声をかけると、グレースはぷいっと顔を背ける。変なやつだ。今回の航海でのあいつの行動は、まったく理解できない。
しばらくの間、俺達はこの船舶の様子を見る。が、どうやら軍船は近くにはいない。しかも、それ以外の何か仕掛けらしきものも見当たらない。
「少し妙な船だが、何もなさそうだ。おい、船長よ、どうする?」
「決まっている。散々焦らされたんだ。こうなったら、奪い取るまでだ。」
俺とドロテオは、覚悟を決める。俺は船橋内の仲間に目で合図を送る。察した連中は、すぐに行動に移る。
「両舷前進強速!あの船を追いかけるぞ!」
「両舷前進、きょうそーく!ヨーソロー!」
何か罠でもあるんじゃないかとビビっていた分、何もないと分かるや、それまで溜まっていた鬱憤を晴らすが如く、その船へ14人の勢いの矛先が向けられる。
猛烈な速度で迫るモレストロ号。急に接近する船を捉えたその小型の船舶も、海賊船だと察したのだろう。大慌てで逃げ始める。
が、エンジンが違いすぎる。こっちは船のサイズ以上の機関を乗せているのに対し、あちらは所詮小型の船舶、チーターと子犬くらいの差がある。あっという間に俺達はこの船を追い詰める。
だが、往生際が悪い。海賊船がすぐそばに迫っているというのに、蛇行しながら逃げ延びようとする。ビーム砲で脅しをかけながら、俺達はその獲物を追いかける。
だが、その様子を見ていたグレースが突然、叫び出す。
「ああ、もう!焦ったい!」
……妙なことを言い出すやつだな。俺は尋ねる。
「おい、何が焦ったいんだ!?」
「なんでのうのうとあの船を追いかけてるのよ!あれじゃあちらの思うツボよ!」
なんだ、何が言いたいんだ?気になった俺は、さらに問いかける。
「おい、別に軍船が追尾しているわけじゃねえ。そのうち奴らだって勢いが落ちて、すぐにでも……」
「何言ってるのよ!こうしている間にもあいつら、駆逐艦を呼び寄せているのよ!たとえ捕まえても、この間のようにすぐに駆逐艦が追いかけてくるわよ!」
「なんだと……?」
そういえばこの間は、やけに早く軍船が追いかけてきやがった。こいつ、何か知っているな。
「詳しく聞かせろ。やつら、何か仕掛けているのか?」
「あれよ、あの大きなアンテナよ!」
グレースが窓の外に見えるあの船の上部のあたりを指差す。そこには、小型の船舶にしては大きめのアンテナが見えた。
「ただの通信用のアンテナじゃねえか。あれがどうしたっていうんだ?」
「あれを使って、連合軍に救援信号を送ってるわ。ああやって稼げるだけの時間を稼いで、捕まったとしても連合軍にこの船の位置を知らせ続けて、ついでにこの船の偽装コードも転送して、海賊船の特定に協力しているのよ。」
「なんだって!?そんなことしてやがるのか、あいつらは!」
さすがは交易船を渡り歩いていたというだけのことはあるな。そんな情報、よく知っている。つまり奴らは、海賊対策を施していたというわけだ。
となれば、やることはただ一つだ。
「おい、砲撃室!クレメンテ!」
『なんだ!』
「前方の船の、あのアンテナを狙い撃ちできるか!?」
『なんだと!?アンテナを撃つっていうのか!』
「そうだ、できるか!?」
『ああ、やってみる!もう少し、あの船に寄せてくれ!』
クレメンテは軍人時代、高い命中率と撃沈数で勲章を受けたほどの人物だ。だが上官とそりが合わず、軍を辞めた。そういう事情もあって、堅気ではなく海賊になる道を選んだ。
「おい、ドロテオ!もうちょっと寄せられねえか!?」
「ああ、任せろ!」
ドロテオが舵を握る。増速しつつ、徐々にあの船に接近する。蛇行する小型船舶だが、一瞬、その動きを止める。
その一瞬を、クレメンテは逃さなかった。
青白い光に筋が、真っ直ぐアンテナをかすめる。パッと赤い光が見えたかと思うと、大きなアンテナの半分が吹き飛んだ。
さすがはクレメンテだ。見事、あの細い的に命中させやがった。ここからじゃ分からねえが、多分、奴のことだ。ガッツポーズをしているに違いねえ。
するとあの小型船舶の動きが突然、鈍くなる。そして機関の出力を落とし、ついには停船する。どうやら、逃げても無駄だと悟ったらしい。
こうなれば、あとは俺達の思うがままだ。すぐにその船に横付けし、通路を繋いで乗り込む。もちろん、俺も乗り込んでいった……
◇◇◇
「はぁ……」
あの船には、たくさんの貴金属が積まれていた。文句なしに大収穫だ。先日の服など問題にならないほどの利益がもたらされる。おまけに今度は、軍船が追いかけて来ねえ。そして今、俺達はあと少しで中性子星域へ逃れようとしていた。
だが、そんな手柄の一端を打ち立てたはずのこいつが、ため息を吐いてやがる。
「おい、何ため息なんてついているんだ?」
食堂で俺はそいつの向かい側に座る。するとこいつは恨めしそうな目で俺を見つめる。
「決まってるじゃない……海賊の、片棒を担いじゃったことを、後悔してるのよ……」
それを見て俺は、おかしくなってきた。こいつはそれを覚悟で俺達にアンテナのことを教えてくれたんじゃないのか、と。だが、今のこいつを見る限り、そんな覚悟などなかったことをうかがわせる。
考えてもみりゃあ、俺に襲いかかってきたときだって、たいして考えがあったとは思えない。その場の勢いでつい行動に移してしまうものの、後でそれを悔やむ。俺がこいつと出会ってから、すでに数度、そういう光景を目の当たりにしている。
面白いやつだな。だがこれで、こいつも海賊の仲間入りだ。それに今のこいつの、自己嫌悪に支配されたその表情は悪くない。俺は思わずニヤリと口元に笑みを浮かべる。




